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2017年12月20日水曜日

学説紹介 激しい戦争が、長い平和をもたらす―ルトワックの考察

エドワード・ルトワック(Edward Luttwak)は戦略の研究で有名な研究者ですが、人道的介入と呼ばれる活動が本来の意図と逆の効果をもたらすと主張し、論争を巻き起こした人物でもあります。
つまり、戦争を防止し、その被害を抑制する目的で実施される軍事的、非軍事的手段による戦争への介入は、かえって戦争を促進し、その被害を拡大するなどとルトワックは論じたのです。

今回は、ルトワックがどのような理由に依拠してこのような議論を主張しているのかを検討し、その妥当性について考えてみたいと思います。

戦争の被害が大きいほど、その後の平和は長く続く

エドワード・ルトワック、ルーマニア出身の研究者、業績に『戦略論』など。
ルトワックの戦争の論じ方は大半の平和主義者の立場から全く受け入れがたいものです。
というのも、ルトワックは戦争を究極的に防ぐ力となるのは、戦争それ自体が持つ破壊力に他ならないと論じているためです。

もちろん、ルトワックの意図は戦争を称賛することではありません。戦争のメカニズムを理解するためには、戦争に逆説的な効果があることを理解すべきである、というのが彼の基本的な立場です。
「戦争は巨大な悪かもしれないが、大きな美徳もある。戦争の継続に込要な物質的、精神的な資源を消費し尽くし、破壊することで、戦争はそれ自体の継続を妨げる。それどころか、戦略の逆説的領域における他のあらゆる行動と同じように、戦争は、極限点を過ぎた後に最終的には反転する。その反対とは、単なる静かな無抵抗かもしれない。または、交渉による平和や休戦あるいは一時的停戦ではなく、無意識の非戦状態かもしれない」(邦訳、ルトワック、97頁)
この議論に従うと、戦争が終結し、平和に移行する基本条件は、一方の勢力が勝利することか、もしくは双方の勢力が消耗し尽くし、戦闘が停滞することになります(同上、98頁)。

ルトワックの議論で特に興味深いのは、平和が長く維持されるためには、あらゆる戦力を使い果たし、相互に莫大な損害を被る必要があることを一つの可能性として示唆していることであり、もし戦争が徹底的に行われないまま中断されると、間もなく当事者はその猶予期間を利用して軍事力を回復し、時期を見て軍事行動を再開すると述べています(同上、99頁)。

平和維持活動が逆に戦争を長引かせる理由

以上に述べたことを踏まえて、ルトワックは国際連合による平和維持の努力が、こうした戦争の力学を妨げる問題があると指摘しています。
そのような活動が平和につながることはなく、かえって戦争を恒久化させる要因になっているとして、次のように論じています。
「1945年以来、小国間の戦争は、自然な経過をたどることを滅多に許されなかった。代わりに、平和の前提条件を確立させるために戦争のエネルギーを使い果たすよりも前に、戦争は中断されることが普通であった。停戦を命じることにより、小国間の戦闘を直ちに止めることが国連安保理常任理事国のお決まりの仕事となった。停戦直後に和平交渉を促すように外交的介入が行われない限り、停戦は単に戦争疲れを和らげ、交戦当事国の再建と再軍備を助長し、停戦が終わるや戦闘の激化と長期化をもたらすことになる」(同上、100頁)
この議論が当てはまる事例としてルトワックが取り上げているのは中東戦争です。
国連は創設当初からイスラエルと周囲のアラブ諸国との間の中東戦争に関与しており、平和維持のために和平の仲介や人道援助を行ってきましたが、未だに平和からほど遠い状況にあります(同上)。

ルトワックは建国当初のイスラエル人がアラブ人に対して非常に厳しい戦いを強いられたことを考慮し、第一次中東戦争で国連安保理が2度にわたる一時的な停戦を実現させていなければ、この地域の戦争は数週間で終わったかもしれないと述べています(同上)。
つまり、国連の停戦実現に向けた外交的活動が、軍事的に劣勢なイスラエル人の勢力を支援し、アラブ人の勢力と拮抗させる上で効果を発揮したということです。

難民キャンプが武装勢力に基地機能を提供する

ルトワックの考察でもう一つ注意を要するのは、難民キャンプに対する国連の支援に関する議論です。
そこでルトワックは国連の難民支援、特に国連パレスチナ難民救済事業(UNRWA)がその意図とは裏腹に、中東における反イスラエル闘争の継続を可能にする効果があるとして次のように論じています。
「UNRWAは現在に至る半世紀以上の活動期間中、1948年時と同じ新鮮な怒りと当初の復讐感情を持続させながら、パレスチナ難民国家を恒久化した。そこでは若者たちが、新しい生活に向けた独自の道を見出すことは許されなかった。その代わり、彼らは挫折した年長者の管理下に置かれ、幼少時代からUNRWAが資金援助した学校で、復讐と再征服の義務を教え込まれた。UNRWAは地元社会への統合を思い止まらせ、域外への移民を禁じている。それに加えて、キャンプでパレスチナ人が集住していること自体が、イスラエルや仲間内で戦う武装組織への志願または強制入隊を常に促進してきた」(同上、106-7頁)
このルトワックの議論は見過ごされがちな難民キャンプの軍事的側面について述べたものだと言えます。
戦地から逃れた難民を一定の地域に収容して国連の保護下に置き、医療や食料を継続的に提供し、次世代のための教育を施すことができれば、軍事的に優勢な敵対勢力も手出しができず、軍事作戦の準備が可能となるということです。

むすびにかえて

今日の安全保障環境において国連の果たしている役割は決して小さなものではありません。ただし、その役割は戦争を防ぐ役割として解するべきではなく、むしろ戦争を長引かせる役割として理解しなければならないとルトワックは考えました。

ルトワックの議論だと、現代ではあらゆる地域戦争は国連安保理の決定に基づき介入を受ける可能性があり、その結果として戦争の原因となった問題は恒久化し、安定的な平和を構築するための決定的勝利を上げることは困難ということになります。

以上がルトワックの議論であり、非常に興味深い議論ではありますが、一方でその妥当性がどの程度なのかについては慎重に考える必要があるでしょう。
確かに、平和維持や人道援助が特定の状況で一方の勢力の戦争遂行に寄与する可能性や、激しい戦争の後に長い平和が訪れる場合もあるでしょう。

しかし、戦争が常に平和の条件になるかのような議論になると、それは行き過ぎた単純化に陥るでしょう。戦間期の戦後処理のように方法を誤れば、どれほど激しい戦争で相手の軍事力を壊滅させたとしても、平和維持には寄与しない恐れも十分考えられるためです。

ルトワックのは平和の問題について一般的な視点とは別の角度から考える必要性を示すものとして意味があると思いますが、戦争と平和の関係については、より実証的な観点から考察することも必要だと思います。

KT

参考文献

Edward Luttwak, Strategy: The Logic of War and Peace, Revised and enlarged edition, Belkknap Press of Harvard University Press, 2001.(邦訳、エドワード・ルトワック『エドワード・ルトワックの戦略論 戦争と平和の論理』武田康裕、塚本勝也訳、毎日新聞社、2014年)