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研究紹介 東シナ海の武力紛争で日本の自衛隊に何ができるのか研究者の分析が進んでいる

東シナ海で近い将来に大規模な武力紛争が勃発する可能性は決して高いとは言えません。しかし、中国がこの方面の軍事態勢を着実に強化していることを踏まえれば、日本とアメリカにとっては予断を許さない状況です。 2021年2月1日に、中国の習近平国家主席は、中国の管轄下にある海域に不法に侵入した外国船舶を強制的に排除する権限を海警局に付与する法律を施行しており、外国船舶が停船、立入検査に従わなければ、武器を使用することが認められます。 この立法措置は意図しない偶発的な武力衝突を引き起こすリスクを高めることに繋がるため、日本でも懸念が高まっています。 あらゆる事態に対応するため、日本はアメリカとの同盟関係を強化するだけでなく、自国の防衛力を整備する必要がありますが、最近の研究でいくつかの課題があることが指摘されています。 今回は、ランド研究所から出ている報告書を取り上げ、どのような問題が指摘されているのかを紹介してみたいと思います。 Jeffrey W. Hornung, Japan's Potential Contributions in an East China Sea Contingency, RAND Corporation, 2020. この報告書では東シナ海で日米が一致して中国の武力攻撃に対処するときには、陸海空各自衛隊には優れた能力があるとしながらも、東シナ海に対する警戒監視を維持する体制、貧弱な後方支援の能力に問題があると論じられています。 陸上自衛隊は冷戦期においてはソ連軍の着上陸侵攻を想定し、主に北海道の正面で能力を発揮できるように部隊編制、装備体系、戦闘教義を構築してきました。そのため、中国軍の脅威に対応するためには、大規模な態勢の転換が必要であり、特に遠隔地への戦略機動能力、離島防衛の要となる対空、対艦攻撃の能力、水陸両用作戦の能力などの構築が急がれています。 著者が最も根本的な問題として指摘しているのは、陸上自衛隊の情報収集の能力の低さ、そして機動力の限界です。東シナ海で中国軍が活動を活発化させても、今の陸自では情報の収集と部隊の移動に時間がかかりすぎることが心配されます。このような問題に対処するためには、南西諸島にあらかじめ陸自の部隊を配備しておくことが考えられますが、南西諸島の中でも陸自の部隊が配備されているの4島に過ぎません。 航空自衛隊

論文紹介 中国の対外政策は国内政治で説明できるとの見解が最新の研究で発表される

第二次世界大戦が終結してから、米国は民主主義や自由貿易の原則に基づく国際秩序、すなわち「自由主義的国際秩序(liberal international order)」を構築し、その地理的範囲を拡大してきました。ソ連が崩壊してからは、この国際秩序に東側の国々も組み込まれていきましたが、その中で急激に勢力を拡大したのが中国です。 1990年代以降に中国が軍事的、経済的に勢力を増す中で注目される点があります。それは中国が自国の勢力拡大を追求しつつも、自由主義的国際秩序の枠組みそれ自体を抜本的に変更しようとはしていないことです。 そのため、中国の対外政策の意図について研究者の見解はなかなか定まってきませんでした。国際政治学のジャーナルInternational Organizationに掲載された最近の論文では、中国の対外政策を理解するためには、中国を取り巻く国際情勢よりも、中国の国内政治の傾向を考えなければならないと議論されています。 Weiss, J., & Wallace, J. (2021). Domestic Politics, China's Rise, and the Future of the Liberal International Order. International Organization, 1-30. doi:10.1017/S002081832000048X 自由主義的国際秩序に対する中国の外交的態度は、中国の国内政治の副産物である可能性がある、というのが著者らの基本的な見方です。彼らによれば、中国の対外政策は国際情勢の動向に対する反応ではなく、国内情勢の産物なのです。 米国が主導してきた自由主義的国際秩序の基礎にある民主主義、個人の政治的自由、市場における企業の自由といった価値観を中国はイデオロギーとして拒絶しています。 中国共産党は民間企業に対する国家の指導の重要性を強調し、補助金をはじめとする優遇措置を通じた市場の管理を実施しています。個人の政治的自由に対する制限は厳格であり、中国共産党はそれを拡大することに一貫して反対してきました。その姿勢は発展途上国に対する中国の援助外交にも表れており、2020年に香港で起きた運動に対する取り締まりでも確認されました。 しかし、中国は自由主義的国際秩序を直ちに破壊し、新たな国際秩序

なぜバイデン政権の対日政策が重要なのか

ランド研究所のジェフリー・ホルヌングが1月26日に発表した論説記事「なぜバイデンの日本問題が重要なのか」で、バイデン政権の対日政策がどのような意義を持っているのか解説しています。 Jeffrey W. Hornung, Why Biden's Japan Agenda Matters, Commentary(The Hill), The RAND Blog, January 26, 2021. 2021年1月に発足したばかりのバイデン政権は対日政策を重視する姿勢を示しており、これは日本の防衛にとってよいニュースであるといえます。 トランプ政権の下でも米国の日本に対する態度は、例えばヨーロッパの北大西洋条約機構の加盟国に対する態度や、韓国に対する態度よりも安定的でした。しかし、まったく問題がなかったというわけではなく、特に環太平洋パートナーシップ協定から撤退するという米国の決断は日本を失望させるものであったと著者は指摘しています。 それでも全般的に日米関係が安定していた理由は、日本の総理大臣だった安倍晋三がトランプとの関係をうまく管理できていたためであると説明されており、米国に対して肯定的な印象を持つ人の割合もさほど低下していないことがデータで裏付けられています。 2016年から2019年までの期間区分で日本の内閣府が実施した世論調査によれば、米国に対して友好的な考えを持つ人の割合は84%から79%に減少しているにすぎません。たしかに、この下げ幅は他のヨーロッパ諸国と比べると小さく見えます。 しかし、著者はバイデン政権の対日姿勢は注目すべきであると述べています。その理由は三つあります。第一に、日米間では3月までに在日米軍の駐留に対する支援、つまり接受国支援(host nation support)に関する新しい合意に達する必要があります。既存の合意は2021年3月31日に失効するので、日米同盟の機能を維持するために、この外交交渉を迅速かつ確実に処理しなければなりません。 ただ、日本政府は在日米軍の基地移転などに関する費用の一部を負担することにもなります。バイデン政権はその負担額を引き上げることを求めることは差し控えると思われますが、日本の防衛予算の段階的な引き上げや、自衛隊の役割を拡大することなどを求めるでしょう。 第二の理由は、バイデン政権が中国に対抗する姿

メモ エチオピアの軍事情勢を読み解く『ミリタリー・バランス』のデータを紹介する

2020年11月5日、エチオピアの アビィ・アハメド首相 はエチオピア軍の兵力によって ティグレ人民解放戦線 に対する武力攻撃を強化しました。ティグレ人民解放戦線はエチオピアで反政府活動を展開してきた武装組織であり、BBCの報道によれば推定勢力は25万ですが、その詳細は不明です。 エチオピア軍は11月26日にティグレ州の州都メックエルに対する攻撃を開始し、29日の時点でこれを占領したようです( BBC, Ethiopia's Tigray crisis: PM claims capture of regional capital Mekelle 、2020年11月29日アクセス確認)。今後、ティグレ人民解放戦線はゲリラ戦に移行するものと見られています。この記事では、エチオピア軍の能力に関する『 ミリタリー・バランス 』のデータを簡単に要約し、今後の情勢判断の参考資料としたいと思います。 エチオピアという国は東アフリカで最も重要な地域勢力ですが、経済的能力は発展途上にあり、国内総生産(GDP)は米ドル換算(US$1=EB28.94)で2019年で912億ドル、一人当たりに換算すると953ドルです。同じく東アフリカのケニアのGDPは986億ドルですが、ケニアの一人当たりのGDPは1,998ドルなので、労働生産性ではかなり後れを取っています。経済成長率は7.4%と報告されていますが、インフレ率が14.6%とかなり高い水準にあることも懸念材料として指摘されるでしょう。 国内の防衛産業基盤は小さく、国内での生産は小火器生産や一部の装甲車のライセンス生産に限定されています。保有する装備の大部分が冷戦時代にソ連から提供されたものであり、2005年から2015年にかけて実施された軍事的近代化の試みも実態として、ハンガリー、ウクライナ、アメリカが手放した余剰の装備を取得するだけに終わっています。 しかし、東アフリカ諸国との比較で評価するならば、やはりエチオピアの軍事的能力は優れていると言えます。エチオピアはソマリア暫定連邦政府に軍事援助を提供し、ソマリア南部に拠点を置くイスラム系武装勢力 アル・シャバブ に対抗しており、またスーダンやマリにおける国連の平和維持活動に兵力を提供し、地域の安全保障にとって重要な役割を果たしてきました。1993年にエチオピアから独立を果たしたエリト

黒海におけるロシアの勢力に対抗するための戦略が模索されている

2020年10月5日にランド研究所から発表された報告書『 ロシア、NATO、黒海の安全保障(Russia, NATO, and Black Sea Security) 』は、黒海を取り巻く安全保障環境を踏まえ、ロシアがどのような戦略で影響力を拡大しようとしているのか、西側がそれにどう対抗すべきかを考察しています。 Stephen J. Flanagan, Anika Binnendijk, Irina A. Chindea, Katherine Costello, Geoffrey Kirkwood, Dara Massicot, Clint Reach, Russia, NATO, and Black Sea Security , Santa Monica: RAND Corporation, 2020. 通常、海洋では米国のようなシーパワーが優位に立ちやすい地理的環境にありますが、黒海のような閉鎖されやすい海域はロシアのようなランドパワーでも優位に立てる特性があると地政学の先駆者である 地理学者ハルフォード・マッキンダー も指摘していました。 この報告書でも、黒海の特性を踏まえたロシアの戦略が検討されています。 ロシアは2014年にウクライナのクリミア半島を武力で獲得し、世界を驚かせたことがありますが、報告書の中で研究者らはロシアが2008年以降、4度も黒海地域で軍事行動を繰り返してきたことを指摘しています。 これは黒海地域でロシアが戦略的に勢力の拡大を図っていることを示しており、黒海―東地中海―中東諸国で結ばれるシーレーンを確保する意図があるなどと分析されています。 しかし、このようなロシアの海洋戦略の重要性については、西側の研究者の多くが十分に認識していませんでした。米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)は、黒海地域にブルガリア、ルーマニア、トルコという3ヵ国の加盟国を抱えており、しかもアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、モルドバ、ウクライナという5カ国の友好国(パートナー)がいます。 それにもかかわらず、それぞれの国々がロシアの黒海戦略でどのような影響を受けているのかこれまで明らかではありませんでした。 報告書ではロシアの黒海戦略を分析するだけでなく、それによって影響を受けている国々の反応に関しても調査が及んでいます。ロシアの黒海戦略で最も重要

リアリズムの勢力均衡理論はどのように第二次世界大戦の原因を説明するのか

米国の政治学者 ランドル・シュウェラー(Randall L. Schweller) は国際政治学、特にリアリズムの勢力均衡理論(balance of power theory)を専門としており、研究業績としては『 致命的不均衡(Deadly Imbalances) 』(1998)や、『 未解決の脅威(Unanswered Threats) 』(2006)が有名です。 今回は、シュウェラーが勢力均衡理論を使って三極構造の不安定性を説明した研究を紹介したいと思います。第二次世界大戦の事例分析によって裏付けられています。 ネオリアリズムの勢力均衡理論の特性と課題 まず、議論の前提となるネオリアリズムの勢力均衡理論について説明します。シュウェラーが『致命的不均衡』で依拠した勢力均衡理論は、政治学者 ケネス・ウォルツ の著作『 国際政治の理論 』(1979)によって体系化されたものでした。ウォルツより前にも勢力均衡理論の研究は多数存在していますが、それらは明確な理論と呼べるものではありませんでした。 さらに確固とした勢力均衡理論を組み立てるため、ウォルツはミクロ経済学のやり方を参考にすることを提案しています。ミクロ経済学には 市場構造(market structure) の理論があり、市場に参加する難しさが増し、供給者が減少し、価格支配力が強まることによって、市場構造は完全競争から寡占を経て独占に移行していく関係が説明されています。 もし市場構造が独占に近づけば、その市場は不完全競争になっていき、完全競争の市場構造が形成されている場合に比べて、売り手が優位に立てるので、価格が上昇しやすくなると予測できます。ウォルツはこのようなミクロ経済学の理論を参考にすることで、競争に参加する国家の数が増えるほど、国際システムの競争は激しくなり、紛争のリスクが増加することを説明する理論として勢力均衡理論を再構築しようとしました。 ウォルツの勢力均衡理論では、国際社会の中で大国となる「極」の数が「国際構造」を規定すると想定されています。そして、極が多い多極的構造になると不安定となり、紛争のリスクが高まるが、極の数が減少して二極的構造になると安定しやすいと説明されています。 これがネオ・リアリズムの基本的な考え方でしたが、シュウェラーはこの議論を改めて検討し、より精緻な議論に置き換えることができ

ロシア、トルコ、そしてイランの勢力圏が交わるコーカサスの地政学

2020年9月末に アゼルバイジャンとアルメニアが戦争状態に入りました が、両国が位置するコーカサス地域ではこれまでにも武力紛争が起きており、その独特な地理的要因の影響が指摘されています。 例えば米国で活躍する政治学者 ズビグネフ・ブレジンスキー の著作『 グランド・チェスボード(The Grand Chessboard、邦訳『地政学で世界を読む』) 』(1997)では、地政学的リスクが非常に高い地域としてコーカサスが説明されていました。 ブレジンスキーはコーカサス( ジョージア 、 アゼルバイジャン 、 アルメニア )だけでなく、中央アジアを含めた地域を地政学的に不安定な地域と見なし、「ユーラシア・バルカン」と呼称することを提案しています。 この地域はユーラシアの内陸部に位置しており、米国の勢力が及びにくいという共通の特性があります。イギリスの地理学者 ハルフォード・マッキンダー がかつてシーパワーを締め出すことができる地域として「ハートランド」という地域概念を提唱しました。そこは天然ガス、石油、鉱物資源といった重要な資源をめぐる対立や民族的、文化的、宗教的な対立が複雑に組み合わさった地域でもあり、政治的に非常に不安定だとブレジンスキーは考えました。 ブレジンスキーはユーラシア・バルカンの中でも特にアゼルバイジャンの意義を強調し、この国が「地政上の要衝」であり、「カスピ海周辺や中央アジアを豊富な資源がつまった「ボトル」に見立てるなら、アゼルバイジャンは、その資源を確保するうえで決定的な重要性をもつ「栓」だといえる」と書いています(邦訳、210頁)。 歴史的にアゼルバイジャンはトルコの支援を受けて動く傾向にありました。トルコの関心はアゼルバイジャンの資源だけではありません。アゼルバイジャンとトルコは民族的な関係が近しく、例えばアゼルバイジャン語とトルコ語は言語系統としても近しい関係にあることをブレジンスキーは指摘しています(同上)。 アゼルバイジャンとトルコの関係が強いことは、両国に東西から挟まれた位置に領土を持つアルメニアにとっては不利な要因です。アルメニアはロシアとの関係を強化することによって、勢力均衡上のバランシングを図っており、現在でもアルメニアの国内にはロシア軍が駐留しています。 しかし、ブレジンスキーはこの地域の不安定性の原因は、これだけにとどまらないと