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オンラインで和平交渉を進める利点と欠点が最新の調査で特定される

2020年以降、世界規模で感染が拡大した新型コロナウイルスの影響を受けて、あらゆる慣行や制度が見直されましたが、外交もその例外ではありませんでした。対面で協議することができなくなったために、外交の現場ではオンラインでの交渉を余儀なくされています。しかし、そのことは従来の対面で実施されていた交渉で用いられた外交的なテクニックを使いにくくしていることも明らかにされています。

今回は、2021年に出版されたばかりの論文「失われている平和の感覚:新型コロナウイルスによるロックダウンにおける外交的接近とその仮想化(The missing sense of peace: diplomatic approachment and virtualization during the COVID-19 lockdown)」の内容の一部を紹介してみたいと思います。

論文情報:Isabel Bramsen, Anine Hagemann, The missing sense of peace: diplomatic approachment and virtualization during the COVID-19 lockdown, International Affairs, Volume 97, Issue 2, March 2021, Pages 539–560, https://doi.org/10.1093/ia/iiaa229

オンライン交渉で見えてきた利点と欠点

国境を越えた移動が制限される中で、外交交渉がオンラインでのみ実施されるようになると、外交にどのような影響が生じるのでしょうか。

これまでの研究では、このような問いに対する答えが十分に明らかではありませんでした。著者らは2016年からシリアとイエメンにおける武力紛争の和平交渉のプロセスを観察してきた経験を踏まえ、およそ20名の交渉の当事者に対して面接調査を行いました。その当事者には和平交渉の実務を担っている紛争当事者の交渉官や国際連合の職員、さらに国際非政府組織のメンバーなどが含まれています。

調査の結果によれば、すべての関係者がオンラインでの交渉に利点があると考えていることが分かりました。オンラインでの会議は参加のコストを減らす効果があるため、これはシリアやイエメンの武力紛争で国外に脱出を余儀なくされた難民の団体や戦災で被害を受けた女性の団体が、以前よりも交渉に関与しやすくなった可能性があると指摘しています。また、それまで会議のために遠距離の移動を余儀なくされていた大使や特使といった外交官と接触する機会が増加したという報告も得られました。外交官は身辺の安全を確保するために注意を払わずにすむようになったようです。

ただし、オンライン会議は対面の会議よりも疲れやすいことが指摘されています。外交の現場でもそのことは実感されており、面接で回答した関係者の一人は画面の前に座り続けることは非常に疲れる仕事だと語っていたことが紹介されています。従来の外交交渉は数日間にわたって連続的に実施されていましたが、オンラインでの外交交渉では1時間から2時間が限度であることが関係者の間では共通の認識となってきているようです。ただし、一回の会議の長さを制限するかわりに、以前よりも頻繁に交渉を行う必要があると多くの関係者が答えました。

外交の実務では常に秘密保持が重要な問題ですが、これをオンライン会議で確保することは簡単なことではないようです。シリアでの武力紛争で和平交渉にあたっている当事者は、シリアが監視社会であることを踏まえて、この問題に特に注意を払ったと回答していました。シリアの国内でオンライン交渉を行う際には、政府に盗聴されている可能性があるため、政治的に微妙な事柄について話すことは難しいと感じていたようです。イエメンの和平交渉でも同様の問題はあり、オンライン会議で交渉に参加する当事者の所在地が暴露されることがないように注意が払われていました。また、交渉の相手がオフレコの発言を記録している懸念は完全には払しょくできないため、そのことも外交交渉では問題になるという指摘も出されました。

ちょっとしたことですが、オンラインでの外交交渉では関係者が相手の発言に相槌を打つことができないことが問題として指摘されています。インターネットの回線が悪く、通信速度が劣悪だとやり取りに遅延が生じ、うまく対話することができません。通信速度が悪い地域からアクセスしている参加者は、しばしばカメラをオフにして交渉に参加していましたが、これは相互作用を制限し、交渉を難しいものにした、とされています。

このような技術的な制約が大きい場合、オンライン交渉では議題をかなり細かく分割した上で、正規の手順に従って議論の流れを制御する必要が出てきます。幸い、オンライン会議のシステムでは誰かが不規則な発言をしたとしても、司会を担当する人はそれをミュート状態にしてしまえば影響を及ぼすことはありません。不規則なコミュニケーションが制限されていることは、形式ばらない気さくなコミュニケーションを妨げる効果もありますが、誰もが平等な立場で交渉に参加しやすくなる側面もあるようです。

著者らが最も注目しているのは、オンラインでの和平交渉では、交渉官の間で共通の理解や信頼の感覚を得ることが難しくなっているという回答が得られた点です。和平交渉では緊迫した場面が生じることがありますが、交渉の関係者に感情的な繋がりが形成されていない場合、交渉の推移にそのまま影響を及ぼす場合があります。そのため、一部の関係者はオンラインで外交交渉を推進するようになる可能性をはっきりと否定しています。

対面での外交交渉であれば、会議室で行われる公式の交渉とは別に、食事会の合間や廊下の片隅などでちょっとした話し合いの機会を持つことができます。外交の実務ではこうした場所での私的な話し合いが重要な意味を持つ場合があり、交渉の効率に影響を及ぼします。

全体としてみると、オンラインでの外交交渉には利点があるものの、やはり欠点もあります。関係者の通信環境によって生じる交渉の制約は、対面で向き合った際に生じる多種多様な感情的な繋がりを断ち切ってしまいます。そのため、今後の外交の実務においては、オンライン交渉と対面交渉を組み合わせることが現実的だと著者らは提案しています。

見出し写真:Air strike in Sana'a 11-5-2015

武内和人(Twitterアカウント)

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