スキップしてメイン コンテンツに移動

資料紹介 2020年のナゴルノ・カラバフ紛争から得られる教訓が研究者により分析されている

2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でアゼルバイジャンがアルメニアに軍事的勝利を収めたことは、多くの専門家の注目を集めました。西欧の研究者は、その勝因をトルコの援助とアゼルバイジャン軍のドローンの使用に求める傾向がありますが、東側、つまりロシアの研究者の見方は少し異なっているようです。

2021年3月10日に英国の国際戦略研究所のウェブサイトでアレクサンダー・ストロネルは「ロシアの視点から見たナゴルノ・カラバフ紛争の教訓を学ぶ(Learning the lessons of Nagorno-Karabakh the Russian way)」と題する論説を発表し、ロシア側のメディアでこの紛争の教訓がどのように分析されているのかを紹介しています。彼らの議論をまとめると、4つの教訓が導き出されます。

1 軍隊の質が依然として重要である

2020年12月に発表されたロシア軍の機関紙の記事では、両軍の死傷者の統計を参照しながら、戦場に展開した部隊の戦闘効率を考察しています。それによれば、両軍の人的損耗は17歳から19歳までの兵士が過半数を占めましたが、アゼルバイジャン軍が被った損耗を調べると、25歳から27歳までの兵士の損耗が全体の30%あり、これは3年から5年の経験を積んだ兵士として推定されています。このデータはアゼルバイジャン軍の部隊がより経験豊富な軍人によって構成されていたことを示しています。つまり、戦場でアルメニア軍の兵士は軍務の経験で敵よりも劣る傾向にあったと考えられます。

実際、アルメニア軍はソ連軍で教育訓練を受けた高齢の将校によって指揮されており、この世代は新時代の無人航空機の運用について専門的な知識を持ていません。実際、アルメニア軍はシリア内戦での作戦行動に参加しているにもかかわらず、現代戦に特有の戦略や戦術を学習していないようです。

これらのことを踏まえれば、アルメニア軍では新しい知識や経験を蓄え、ドクトリンの開発で中心的な役割を担う人材が不足していた可能性があります。

2 戦場全体の性格が変わった

ロシア軍の機関紙では、ナゴルノ・カラバフ紛争において、無人航空機を使った偵察が普及し、冷戦時代の戦術が役に立たなくなっている部分があることも指摘されています。

この紛争でアルメニア軍は「バグラミャン線」と呼ばれる防衛線を構成し、そこでアゼルバイジャン軍の侵攻を食い止めようとしました。これはナゴルノ・カラバフ地方とアゼルバイジャンとの国境地帯にまたがる要塞化された防衛線であり、アルメニア軍の戦争計画では、1990年代からこの要塞に依拠した陣地防御が構想されていましたが、2020年のアゼルバイジャン軍は無人航空機による観測と砲兵の射撃によって、極めて短時間のうちにその防衛線を破壊することができることを実証しました

これはアルメニア軍の期待を大きく裏切る結果でした。というのも、1992年から1994年のナゴルノ・カラバフ紛争において、アルメニア軍の防御陣地は十分に機能し、その有効性が確認されていたためです。そのために、アルメニア軍は新時代の戦術の研究を怠ってしまい、アゼルバイジャン軍の攻撃に対処することができなかったと考えられます。

3 国民の戦意が持つ重要性が改めて確認された

アルメニアは自らの軍事的能力を過大に評価する傾向があっただけでなく、アゼルバイジャンが確固とした戦意を有していることを認識できていなかった可能性があります。しかし、アゼルバイジャンは長期的な計画を立てて、軍隊の近代化に取り組みました。少なくともこの30年近くにわたってアゼルバイジャンの軍備拡張は着実に進んできたのです

このようなアゼルバイジャン人の決意の固さと比較すると、アルメニアは必ずしも軍備の増強に熱心ではなく、開戦後の軍事行動においても徹底さが欠けていました。戦略的に注目すべき動きとして、アルメニア軍が現地の紛争地のアルツァフで集めた兵士で編成した部隊を最前線に送っているにもかかわらず、本国からは部隊を出そうとしていないということです。例えば、アルメニア軍はロシア製戦闘機Su-30を1機も失っていないことが報告されています。このことからも、アルメニアの戦意の低さが指摘できるのではないかと著者は考えています。

4 自己批判が重要である

ロシアのメディアでは、1994年以降のアルメニアが犯した過ちとして、自国のプロパガンダを信じることの危険性が指摘されています。つまり、パレードで示される立派な軍隊の行進は、紛争における軍隊の戦闘力と本質的に別物であり、国民が自国の軍事力に対して間違った認識を持たないように注意を払う必要があると考えられているのです。したがって、自己批判が軍事的には非常に重要です。

この見解ではロシア政府が自国の軍事力に対して改めて批判的に検討することが重要であるとされています。絶えず自国の防衛に問題がないかを冷静に検討することができなくなれば、紛争が始まってからその代償を支払わなければなりません。

まとめ

以上の議論をまとめると、ロシアのメディアで語られる専門家は、アゼルバイジャンが勝つべくして勝ち、アルメニアが負けるべくして負けたと見ていることが分かります。確かにトルコの援助や無人航空機の技術は戦局に影響を及ぼしましたが、それは本質的な勝因とは見なされていません。

ここで報告されている教訓は、ロシアがアルメニアと同じ過ちを繰り返さないために抽出されたものではありますが、日本の防衛にとっても参考になるものではないかと思います。

武内和人(Twitterアカウントnoteアカウント

関連記事