7月21日、ロンドン大学キングス・カレッジの上級研究員であり、ポツダム大学の兼任教授でもあるマクシミリアン・ターハレが英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies, RUSI)のウェブサイトで論説を発表し、将来のドイツが選択すべき外交政策を提言しています。
米国、ロシア、中国への対応が焦点となっており、ヨーロッパとしての団結を維持し、ロシアの脅威に強く対抗しようとすべきという立場が打ち出されています。
ヨーロッパの国際安全保障を支える最も重要な同盟に北大西洋条約機構(NATO)がありますが、1949年に発足した当初は「米国に関与させ、ソ連を締め出し、ドイツを抑え付ける(keeping the Americans in, the Russians out and the Germans down)」ことを政策的な目的していました。
つまり、米国の軍隊をヨーロッパに引き留め、ソ連の勢力を拒否しつつ、ドイツが再び軍事的脅威とならないようにすることがNATOの基本的な狙いとされてきたのです。
著者は将来のドイツの外交政策を考える際に、このNATOの枠組みを中心に据えているのですが、これからの国際情勢で必要となる発想とは、もはやドイツを抑え付けることではなく、ロシアに対抗し、中国を牽制するため、ヨーロッパが一致団結し、米国と協調することであると著者は主張しています。
「米国を関与させ、ロシアを締め出し、中国を牽制する(keeping the Americans in, the Russians out and the Chinese in check)」が新たな同盟の目的であり、そこでドイツは主導的な役割を果たすことが求められると考えられています。
ヨーロッパの安全保障のために米国を引き留めることは、同国でドナルド・トランプ大統領が登場し、国際的なリーダーシップを果たすことを軽視するようなことで、ますます高まっています。
著者は中国とロシアの脅威に対抗するため、欧米間の国際協力がさらに重要になると考えましたが、この際に問題となるのが、いつまで中国と経済的連携を維持すべきかという点であり、これは「根本的な戦略的問題」であると表現されています。
著者は中国との経済的な連携を断つことは、あくまでも最後の手段であり、現時点では直ちに実施すべきではないとされています。ただし、欧州連合(EU)に加盟する中小国が中国に対して経済的に依存しすぎる状況を許すべきではないと述べています。2020年の新型コロナウイルスで甚大な危機に見舞われたイタリアとギリシャに対し、中国が関与を強めてきたことが著者の懸念となっており、「中国が国家が弱体化した瞬間を利用し、EUの結束の中で最も弱い国を見極め、これを操作する方法を十分に理解していることが明らかになった」と述べています。
現在の国際情勢では、中国の勢力が拡大するほど有利な態勢になるのがロシアであることに注意しなければなりません。ヨーロッパにおいてロシアに対抗することはドイツとヨーロッパの安全保障にとっては基本的な課題であり、そのためにも米国との協調を維持しなければなりません。
極端な例を述べれば、もし米中が軍事的に衝突するとなれば、米国はヨーロッパから東アジアへ戦力を移動させなければならないため、ロシアはますますヨーロッパ正面で動きやすくなります。
2020年2月にフランスのエマニュエル・マクロン大統領がロシア寄りの姿勢をとった演説をしたことを著者は批判しており、ロシアの野心にもっと警戒すべきであるという立場をとっています。ヨーロッパの内部でもロシアへの姿勢が必ずしも一致していないことは、これからの課題として認識されています。
最後に著者はイギリス、フランス、ドイツ、ポーランドなどヨーロッパのすべての国が以下の5つの政策を実施するべきであると提案しています。
「1、能力が重複することを避けつつ、2025年までにヨーロッパのGDPの2%の水準になるまで各国の防衛予算を大々的に上昇させること。2、大規模で統合的な海上配備のヨーロッパの核戦力構築で協力し、当初はイギリスとフランスが指揮をとるが、合理的な時期にドイツとポーランドが補完すること。3、ヨーロッパの独自の軍事的プレゼンスによって、東アジアを包括する全世界の西側の利益を確実に支援すること。4、中国が最先端半導体を調達するだけでなく、海外向け通信ネットワークを構築することを組織的に食い止めている米国との間で技術戦略を一致させること。5、実利実益のために譲歩する可能性を残しつつも、中国の人権侵害を共同で解決するように米国に働きかけること。この際には、NATOの域内の国々を動員するだけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本といったNATOに加盟しない国々も同盟の戦略的価値を掲げて動員すること」
以上が著者の提言であり、ドイツとして速やかに新たな政策方針を採用することを呼び掛けています。
2021年は米国で新大統領が誕生する可能性がある年ですが、ドイツでも長年にわたって首相を務めてきたアンゲラ・メルケルが2021年に政界を引退することが予定されているため、節目となる年です。
このような中で著者が述べたような新政策、新戦略が打ち出されるかどうかは分かりません。しかし、著者の議論はヨーロッパの地域大国であるドイツの視点から見て、どのように国際情勢が推移しているのかを理解する上で参考になる見解ではないかと思います。
武内和人(Twitterアカウント)
