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学説紹介 欧州連合(EU)と中国の関係は今後どうなるのか

2008年の金融危機以降、欧州連合(EU)の加盟国の間で中国との関係を強化する動きが見られることは以前から指摘されていました。
注目すべき国々としてはギリシヤ、ポルトガル、スペインが挙げられます。いずれも経済の立て直しを図るために中国との経済協力を積極的に活用しようとしている国々です。

最近の事例ではイタリアが2019年3月に中国が推し進める一帯一路構想に協力する姿勢を打ち出しました。しかし、このような中国の動きに警戒を強める動きもEUの側で見られ、今後も悪化する可能性があります。

今回の学説紹介では、2010年代における中国と欧州連合の外交に注目し、特に欧州連合の中で対中外交がどのように議論、検討されているのかを考察した研究成果を紹介したいと思います。

中国が推進する欧州での経済外交

中国が経済力を通じて欧州にその勢力を拡大するきっかけとなったのは、2008年のヨーロッパ金融危機であり、特に2010年にユーロ危機が発生した際には、中国はギリシャ、スペイン、ポルトガルの国債を引き受けました(東野、35頁)。
2013年、EUは「EU・中国協力2020戦略計画」を策定しており、貿易や投資の活性化を含む広範囲の経済協力を進める姿勢が打ち出されており、外交関係は非常に順調に進展していたといえます(同上、36頁)。

このようにEUも好意的な反応を示す中で2012年4月、中国の温家宝首相はポーランドのワルシャワで欧州諸国に対中協力枠組みについて発言し、間もなくハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、ポーランド、クロアチア、スロベニア、チェコ、リトアニア、ラトビア、エストニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、アルバニア、マケドニア、モンテネグロの合計16カ国を組み入れた「16+1」と呼ばれる構想を立ち上げました(同上、37頁)。東欧から多くの参加国が出現していることが分かります。

著者が指摘している通り、この「16+1」はそれほど国際社会の注目を集めるものではなかったのですが(同上)、その後は中国が欧州市場に対して陸路で貨物を輸出し、またインフラ建設のための海外投資を行うための重要な枠組みとなり、首脳会談が毎年実施されるようになるなど、外交的な意義は次第に増しています(同上、38頁)。

中国に対し警戒感をにじませるEU

中国はEUのルールに縛らずに投資を行うため、受け入れる側の事務的負担が非常に小さいことや、また東欧諸国の中にはインフラ建設のために多額の資金を必要とする国が少なく無いことなどが背景にあるようです(同上、38-9頁)。
ただし、「16+1」はあくまでも中国が主導する枠組みであるため、外交交渉における東欧諸国の立場は強くなく、対等な関係にはないという問題があります。

例えばポーランドは2015年に約束された投資が依然として行われていないことを不満に思っていることを2018年に中国に伝えたことが報道されています(同上、39頁)。
こうした事態が起きているにもかかわらず、ポーランドが未だに「16+1」に留まり、中国からの投資を待ちわびていることは、いかに中国の経済力が魅力的であるかを示唆する事象だといえるでしょう。

EUは東欧諸国が中国の経済力に強く影響されるようになりつつある情勢を認識しており、これに歯止めをかけようとしています。
2016年、EUの欧州委員会は「EUの対中新戦略の新要素」を発表し、EUとして中国からのアプローチに統一された対応をとらなければならず、その影響がEUの全体に利益をもたらすものになるようにしなければならないという趣旨の方針を示しました(同上、40頁)。

これは「16+1」に参加する国の中でもEU加盟国に独自の判断で中国の経済外交に便乗することを警戒している態度を示したものです。
ただし、この時点ではEUとしてどのような対中外交を展開するのか、その戦略の内容については必ずしも明確にはなっていませんでした(同上)。

経済的対抗か、経済的協力か

中国に対する警戒感をより全面的に打ち出してきたのは2018年になってからです。
2018年4月、ドイツの主要紙『ハンデルスブラット』で在北京EU大使が提出した非公式報告書の存在が暴露されたのです。

その原文は公開されていませんが、中国の一帯一路を批判する趣旨の内容だったこと、また欧州では中国からの投資を誘致するための競争が激化しており、EUの結束が攪乱されていること、さらにEUへの中国企業のアクセスが優遇されている一方で、中国市場に対するEU側の企業の進出が厳格に制限されていると指摘されていたことなどが明らかにされています(同上、41頁)。

経済的手段で中国が欧州で勢力を拡大している状況を受けて、EUは厳格な審査の仕組みを導入しようとしており、ドイツとフランスが中心となって海外投資の事前審査制度が2020年の秋から運用開始されることが決まりました(同上)。
これにより、最先端の技術が中国に移転する事態や、インフラ関連の産業に対する中国の買収が防止されることが予想されており、このEUの措置に対して中国は反発を強めています(同上、42頁)。

ただし、EUの内部では、このような経済的な締め出しに対して慎重になるべきだという立場の国もあり、中国が欧州で進めようとしていた第5世代移動通信システム(5G)のインフラ構築の動きについても、欧州委員会としては安全保障上のリスクを理由にその使用について警告を発していますが、中国からの投資を呼び込みたい国々はそうした措置に反対の姿勢をとっており、一貫した対応がとれているとは言えません(同上)。

まとめ

今回の記事で取り上げた研究は、EUと中国の経済外交に関する最近の動向をカバーするものであり、今後さらにEUと中国との対立が悪化する可能性を示唆しています。
著者が指摘しているEUの内部では親中的な路線を保持したい勢力と、中国から距離を置き、あるいは対抗しようとする勢力との間での内部対立のリスクについては、日本の立場から対中政策を考える上でも参考になる知見だと思います。

ただ、戦略の観点から欧州諸国の中で対中関係をどのように位置付け、どのように議論できるのかに関心があるのであれば、また別の研究を参照する必要があるでしょう。

例えば、Maher(2017)は、欧州の立場から中国の台頭に対して採るべき戦略について、バランシングを図るべきか、関与(engagement)を図るべきか、抑制(tretenchment)を図るべきかを検討しています。
また、最近の研究動向として、Christensen, Kirchner, Wissenbach(2019)がEUと中国の外交関係を包括的に検討する著作を出しており、政治、経済、社会、安全保障など多方面から分析を加えており、欧州から見た対中戦略を考える上で参考になります。

KT

参考文献

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