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資料紹介 中国海軍の急激な拡大に日本の海上自衛隊は追いつけていない

アメリカのシンクタンクである戦略予算評価センター(Center for Strategic and Budgetary Assessments, CSBA)の研究員トシ・ヨシハラ(Toshi Yoshihara)はアジア太平洋地域の安全保障問題の専門家であり、2020年に報告書『ドラゴン対太陽:日本のシーパワーに関する中国の見方(Dragon against the Sun: Chinese views of Japanese Seapower)』を発表したことで注目されています。

今回は、その全体的な内容を概観した上で、特に日本の戦略を考える上でどのような意味を持つかを考察してみたいと思います。

中国はすでに日本に対し海上勢力で優勢

中国が長期的な取り組みとして海上戦力の拡張を推し進めてきた結果、日本の海上戦力に対して数的優勢を期待することが可能にいることを警告することが、この報告書の狙いです。中国の指導者は自国の軍事的優勢を信じやすくなっているため、危機や紛争で攻撃的行動に打って出てくるリスクが増しており、抑止することが困難になりつつあると指摘されています。
「別の調査によれば、2030年までには、中国海軍の最新鋭であり、また非常に近代的な軍艦は増加すると予測されており、巡洋艦は16隻から20隻、駆逐艦は36隻から40隻、フリゲートは40隻から50隻、水陸両用強襲艦は最低10隻、空母は最低4隻になる。さらに約60隻の通常動力型潜水艦、最低16隻の原子力攻撃潜水艦、最低8隻の弾道ミサイル潜水艦が10年以内に潜水艦部隊に就役すると予測される。これと比べれば、2019年の時点で海上自衛隊の勢力はヘリコプター空母が4隻、巡洋艦が2隻、駆逐艦が34隻、フリゲートが11隻、水陸両用強襲艦が3隻、高速攻撃ミサイル艇が6隻、通常動力型の潜水艦が21隻である。このままでは、2030年に日本が水上艦部隊、潜水艦部隊が現在より増強されることはないだろう」(Yoshihara 2020: 11)
すでに2020年の時点で中国海軍が保有する艦艇の総トン数は海自を40%上回っています。海自は護衛艦1隻当たりの平均的な大きさで中国海軍を45%ほど上回っていますが、中国が055型駆逐艦(米軍の基準では巡洋艦に区分される規模)の配備を進めているため、この優位は時間経過で次第に消滅することが予測されています(Ibid.: 17)。

軍事的な勢力の優劣関係は数的要素だけで決まるものではありませんが、質的要素でも中国海軍が優位に立つようになっていることが報告書では指摘されています。

個艦の火力を比較する場合、それぞれの艦艇が備える垂直発射装置(Vertical Launching System, VLS)の大きさを比較することがあるのですが、著者はこの分野でも中国が日本を追い抜いていることを指摘しています。
「2020年までに、中国海軍は海自よりも75%ほど多くのVLSのセルを保持するようになり、わずか1年でミサイル・ギャップが大きく広がったことが示された。中国海軍が艦艇の増強を急激に推進するにつれて、中国海軍の優勢はさらに拡大するものと見込まれている。中国海軍のVLSセルの半数は駆逐艦に、残りの半数はフリゲートに搭載されている。それとは対照的に、海自のVLSセルはすべて駆逐艦と巡洋艦に集中している。しかし、中国の駆逐艦部隊のVLSセルは、海自の駆逐艦のVLSセルの数を上回らないとしても、それに匹敵しており、過去10年にわたってミサイルの分野で中国が定量的に飛躍的に増強してきたことを実証している」(Ibid.: 15)
定量化が可能な基準だけでなく、定性的な基準で分析を加えた場合でも、海上における日本の防衛力にもはや優位性がないという見方が裏付けられると著者は指摘しています。中国海軍は着実に外洋で活動する経験を積み上げており、2009年以降にはインド洋で海賊に対処するための活動に従事し、また西太平洋でも小規模な海上部隊を派遣する能力を示してきました。

確かに、平時における海上演習や海賊対応で中国海軍の戦闘力を評価することには限界があり、1979年以降に中国が対外戦争を行っていないという指摘も重要です。ただ、同じことは日本にも当てはまるものであり、日本は1945年以降に対外戦争を遂行した経験がありません。両国が本格的に武力衝突を起こした際に、何が起こるかを正確に予測することは困難です。

米国の海上優勢が損なわれる危険性が指摘される

日中間で海上勢力の優劣がはっきりしつつあることは、中国に対する日米同盟の抑止力を低下させることにも繋がるリスクであり、報告書でも懸念が示されています。
海自は米海軍と緊密に協力し、互いに弱点を補い合う関係を保ってきたので、中国は日本に対して海上作戦で優位に立てることができれば、それは米海軍に対する海上作戦においても優位となると期待することができます。これは日本だけの問題ではなく、米国の海上優勢の危機であり、東アジア地域の安全保障環境を損なう恐れがあります。

このような事態は初めてのことではありませんでした。1980年代に北大西洋におけるソ連海軍の活動が活発になった際に、英国海軍の能力が限界を露呈し始めると、米海軍は即応体制を維持するために北大西洋により多くの艦艇を残さざるを得なくなり、他の戦域における作戦遂行の能力が制限されたことがあります(Ibid.: 19-20)。

著者は、米国が今後、日本に中国を抑止する上でより大きな役割を果たすように求める可能性が高いと予測しており、その具体的な費用は中国が軍拡を進める度合いによってますます大きくなっていく可能性があるでしょう。
過去の調査研究では、日本の海上防衛力の優位が当然のものとして想定される傾向がありましたが、今後は中国がもはや日本の海上防衛力を恐れていない可能性を考慮し、中国の対日認識も含めて研究に取り組む必要があると提案されています。

むすびにかえて

2010年頃から米国で中国の脅威が認識されるようになって以来、これほどはっきり日本の抑止力の低下が警告した報告書はなかったと思います。最近10年の中国海軍が継続的に装備の近代化は着実に成果を出しており、日本は政策的にかなり出遅れています。もはや日本の海上勢力は局地的な軍事バランスを維持することが難しくなっているという著者の率直な指摘は日本としても受け止める必要があるでしょう。

まだ現時点で日米両国の海上勢力を単純に合計すれば、中国に対して優勢ですが、米国の海上勢力は西太平洋の脅威だけに専念するわけにはいきません。北大西洋、北海、バルト海、黒海、地中海、インド洋、その他あらゆる海域で警戒監視が必要であり、日本として防衛費をさらに増額することは避け難い情勢だと思われます。少なくとも、中国海軍の増強が鈍化するまでは、抑止力を堅持することが重要でしょう。

武内和人(Twitterアカウント)

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