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論文紹介 ロシアのA2/AD能力にNATOがどう対応すべきか議論が進んでいる

最近の北大西洋条約機構(NATO)の加盟国の間で、ロシア軍の接近阻止・領域拒否(A2/AD)の能力をめぐる議論が活発になっています。

2014年のウクライナ紛争でロシアの軍事的脅威を改めて評価する動きが出てきましたが、当時ユーラシア大陸の反対側で中国のA2/AD能力が注目を集めていました。

そのため、ロシアの戦略が研究されていく過程で、当時の中国の脅威認識が参考にされたのです。しかし、このような見方を疑問視する見解も出されています。

今回は、ロシアのA2/AD能力の実態について再評価を試みている研究を取り上げ、紹介したいと思います。

論文情報

  • Keir Giles and Mathieu Boulegue, Russia's A2/AD Capabilities: Real and Imagined, Parameters, 49(1-2), Spring-Summer 2019, 21-36.

ロシアのA2/AD能力をより慎重に評価すべきである

そもそも、A2/AD能力とは、ある一定の領域に敵が接近することを阻止し、同時に進入を果たした敵を締め出すように拒否する戦略的能力のことです。
ロシアがNATOに対してA2/AD能力を発揮するとすれば、その影響を受けることになるのはロシアと国境を接している国々であると懸念されています。

しかし著者は、ロシアがNATO加盟国に対してA2/AD能力をどのように活用しようとしているかといった点にもっと注意を払い、より具体的に脅威を認識すべきであると考えました(Giles and Boulegue 2019: 23)。

ロシアのA2/AD能力を構成する装備体系が、ロシアの国境地帯全部に配備されているわけではなく、特に黒海とバルト海に集中して配備されていることが指摘されているためです。
「対潜システム、沿岸防空システムは効果的なA2/AD作戦のための最優先事項である。このような能力は、より小さな水上艦艇(フリゲート、コルベット)からなる艦隊の投射能力を強化する現在のロシアの海軍戦略に沿って発展している。具体的には、陸上発射型の巡航ミサイル3M-14カリブル(Kalibr)、間対艦巡航ミサイルP-800オーニクス、そして対潜戦闘能力のように敵部隊を遠方で阻止するスタンドオフ(standoff)のミサイル・システムを大規模に調達している」(Ibid.: 24)
これにより、ロシアと地理的に近接しているNATO加盟国が他の加盟国、特に洋上から米軍部隊の来援を受け入れることを難しくします。

この能力があればロシア政府は紛争の初期の段階で米国の軍事行動を制限し、ロシアが状況の主導権を握ることができるでしょう(Ibid.)。
このロシアのA2/AD能力を圧倒できるだけの攻撃的能力が今のバルト海や黒海沿岸のNATO加盟国にはありません。

NATO全体の防衛態勢を立て直さなければならない

著者はこのように状況を判断した上でNATO全体の防衛態勢としてロシアのA2/ADに対抗することを考えなければならないと論じています。

米軍が技術的優位に立っていたとしても、ロシア軍はそれを見越して動いており、バルト海や黒海の周囲に位置するNATO加盟国の特定の国の方向に向かってA2/AD能力を指向していることを考慮しなければならないと著者は米国政府に呼び掛けています。
「ロシアのA2/AD装備に対し火力と情報で優位に立つ軍事上の措置を促すために、政府は資金と資源を配分するべきである。スウェーデン、フィンランド、ウクライナ、ジョージアといったNATO加盟国に組織的に働きかけることによって、政府はロシアのA2/ADの脅威に対抗するためのNATOの戦略を発展させることが可能になる」(Ibid.: 34)
この提言との関連で著者はトルコの動向がNATOの対ロ戦略上、極めて重大な意味を持っていることを認識しておくべきだとも述べており、米国としてトルコに対する外交を強化することについても述べています。

むすびにかえて

ヨーロッパ大陸では、この5年の間に多くの軍事上の事件が起きていますが、NATO加盟国の間では海上戦力の整備が長年にわたって軽視されてきたため、なかなかロシアの脅威に対応することが難しい状況があります。

旧共産圏に属していた国々で現在はNATOに加盟している国々でも、軍事的能力に課題が多いことは別の研究でも指摘されており、この論文の著者と同じような懸念が示されています。

これから米国が中心となってNATO加盟国の能力を引き上げるための取り組みを進めなければならないことは著者が提案しているとおりです。
しかし、それがどれほどの成果を上げることができるかは、各国の財政状況と防衛負担の配分にかかっています。

KT

(冒頭写真:バルト海の日の出、U.S. DoD, Navy Petty Officer 2nd Class Mark Hay、2019年撮影)

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