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文献紹介 戦争の原因を3つに整理する:ウォルツが語るリアリズムの基礎

政治学者は戦争の原因をめぐり、何世代にもわたって論争を繰り広げてきました。そのため、研究者でも議論の全体像を把握しきれないほど多くの仮説が出されていました。

そのような状況で過去の議論を的確に総括し、研究者が取り組むべき論点を整理してみせた研究者の一人がケネス・ウォルツでした。
国際政治学において彼は構造的リアリズム(structural realism)と呼ばれる立場を打ち出した功績が評価されています。

今回は、ウォルツが自身の博士論文をもとに書き上げた著作を取り上げ、そこで戦争の原因をめぐる議論がどのように総括されていたのか、それが彼のリアリズムをどのように基礎付けたのかを紹介したいと思います。

文献情報
  • Waltz, K. N. (1959) Man, the State, and War: A Theoretical Analysis. Columbia University Press.(邦訳、ケネス・ウォルツ『人間・国家・戦争:国際政治の3つのイメージ』渡邉昭夫、岡垣知子訳、勁草書房、2013年)

3つに分かれる政治学の分析レベル

ケネス・ウォルツ(1924年 - 2013年)アメリカの政治学者。国際政治学を専門とし、ネオ・リアリズムあるいは構造的リアリズムとして知られる理論の発展に寄与した。『人間・国家・戦争』の他にも『国際政治の理論』などの業績がある。
ウォルツは戦争の原因を考えるには、人間を対象とする分析レベル、国家を対象とする分析レベル、国際システムを対象とする分析レベルの3つを事前に設定することが効率的だと考えました。
戦争の原因に関する多種多様な議論はこれらのどれかの類型に該当すると指摘したのです。
「政治哲学では「戦争の主要原因はどこにあるか」という問いに対する答えを探求することがよくある。この問いへの答えは驚くほど多様であり矛盾している。この答えの多様性を扱いやすくするには、答えを以下の3つの項目のもとに整理したほうがよいだろう。人間、個々の国家の構造、そして国際システムである」(邦訳、ウォルツ、22頁)
これは戦争に関する政治分析は個人の性格や行動を分析するもの、一国の政治体制の特性を分析するもの、世界情勢の動向を分析するものに大別するという考え方です。
ウォルツの用語法に従うと、人間を対象とする分析レベルは第一のイメージ、国家を対象とする分析レベルは第二のイメージ、国際システムを対象とする分析レベルは第三のイメージと区別されています。

このように分析レベルを整理することで、戦争に関連する要因を素早く、また適切に区分し、相互の関係を考えることも行いやすくなります。

例えば、戦争を防止するために危険な思想を持つ人々を政権の座から追い出さなければならないと主張する人々は、第一イメージ(個人)で戦争を説明できることを前提にするグループと識別できるでしょう。

また、独裁的、専制的な国家の方が好戦的だと主張する人々は第二イメージ(国家体制)で戦争を説明しており、勢力均衡のパターンによって戦争のリスクが変わるというのは、第三イメージ(国際システム)での説明を受け入れている、と判断できます。

戦争の原因を理解するには第三イメージが重要

ウォルツは第三イメージに区分される議論、つまり国際システムの動向によって戦争の原因を説明することが、なぜ重要なのかを論じ、リアリズム(realism)の基本的な前提、そして国際政治学の理論的基礎を固めようとしました。

この論点に関するウォルツの基本的な考え方は、ソ連の脅威に関するウォルツの認識から読み取ることができるでしょう。そこでは第三イメージが欠如した形で戦争の原因を分析することが偏った見解を作り出すということに対して深い懸念が示されています。
「ソ連が今日、戦争の最も大きな脅威となっているというのは本当かもしれない。しかし、ソ連が消滅すれば残りの国家が楽に平和裏に生きられるというのは真実ではない。戦争は何世紀にもわたって存在してきたが、ソ連はほんの数十年しか存在していない。しかし、国家のなかには、あるいはあるタイプの国家のなかには、ほかに比べて平和的傾向を持つものもある。平和的傾向の国家が増加することによって、少なくとも大戦争と大戦争のあいだの期間が長くなるという希望は保証されるのではないだろうか。行動の枠組みが問題だということを強調することによって、第三イメージは、そういった部分的分析とそれに基づく希望が誤っていることを明らかにする」(同上、210-1頁) 
また、ウォルツはこのようにも述べています。「政策決定者は、意図がいかに良かろうと、第三イメージの示唆するところを念頭におかなければならない」(同上、217頁)
つまり、その国がどのように行動するのかを考える際には、その国それ自体の特性や指導者の考え方よりも、その国が置かれている国際情勢、特に勢力均衡に注目しなければならないというのがウォルツの立場でした。

このような立場を採用した背景にあったのは、国際政治において国家はそれぞれが自らが最善だと考える方法で自らの利益を追求しており、アナーキーな状態のもとではその紛争を解決できる包括的な制度や手続きが存在しないという認識でした(同上)。
その結果として、ウォルツは「軍事力が国家の対外政策を達成する手段になる」と述べています(同上)。

ウォルツは第一・第二イメージをどう見ていたのか

ここまでの議論を見ていると、ウォルツはまるで第三イメージに比べて第一イメージや第二イメージが戦争の原因として重要ではないと主張していたかのようにも見えてしまうかもしれませんが、そういうわけではありません。

つまりウォルツは最初から個別の「ある戦争」の原因を説明しようとしているのではなく、「戦争全般」の原因を説明しようとしていたのであって、そのために第三イメージに基づく説明が重要な意味を持つと主張していました。
つまり、より具体的、個別的な戦争の原因を説明する際には、第一イメージや第二イメージが重要だと認めていたのです。
「その攻撃が起こるかどうかは、両国の行動に影響するそれぞれの場所、国の大きさ、パワー、利害、政府の種類、過去の歴史や伝統といった多くの具体的状況による。両国が互いを相手にして戦うならば、それは、おのおのにその事件を説明する特別な理由があるためである。これら特別な理由は、直接的もしくは効果的な戦争原因となり、これら直接的な戦争原因は、第一および第二イメージに含まれている。国家は国家のために政策を決定する比較的少数の者、およびその少数者に影響を与える多数のものの理由づけと情熱あるいはそのどちらかによって、互いを攻撃したり自分を守るよう動機づけられる」(同上、212頁)
つまり、ウォルツが提示した構造的リアリズムのアプローチは国内政治の動向を重視する他の国際政治学の理論、例えばリベラリズムと全面的に競合する理論ではなく、相互に補完し合う関係にあるものと考えた方がよいと思います。

対外的要因と対内的要因のどちらの方が国家の行動を説明する上で重要なのかという論点に限って見れば対立する部分もありますが、ウォルツの議論に従うならば、より一般的、普遍的な戦争の原因を検討するなら、第三イメージを軸にして説明しようとする研究が必要となるでしょう。

KT

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