国家を構成する要素は、領土、住民、政府であると言われていますが、その中でも特に長期的、継続的に国家のあり方に影響を及ぼす要素が領土です。領土はそこに居住する住民のために住居や資源を与え、あらゆる経済活動の基盤となります。
この領土という観点から国家を考察した地理学者にフリードリヒ・ラッツェルがおり、彼の国家理論はその後の政治地理学に大きな影響を残しました。今回は、そのラッツェルの学説を紹介したいと思います。
ラッツェルは近代地理学の成果を踏まえ、政治地理学という研究領域を切り開いた先駆者として位置付けられています。彼の国家に関する考察は地理的アプローチによるものであることから、土地と国家の関係が詳細に検討されている特徴があります。
ラッツェルの国家観がはっきりと現れている記述としては次のようなものがあります。
ラッツェルは、学者の頭の中で国家を理論的に考察することの問題を認識し、より具体的、現実的な国家を考察すべきだと考えるため、地理学の立場から国家を捉え直すことが重要だと考えたといえます。
しかし、そもそも政治という活動は土地という地理的環境の上で成り立っているとラッツェルは考えていたのです。
しかし、19世紀にラッツェルが議論したことは、21世紀の現在においても必ずしも政治学で一般的に受け入れられているわけではありません。政治と地理の関係については、依然としてさまざまな議論があり、だからこそラッツェルの議論は今後も参照される価値があると思います。
KT
この領土という観点から国家を考察した地理学者にフリードリヒ・ラッツェルがおり、彼の国家理論はその後の政治地理学に大きな影響を残しました。今回は、そのラッツェルの学説を紹介したいと思います。
フリードリヒ・ラッツェルの国家観
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| フリードリヒ・ラッツェル(Friedrich Ratzel, 1844年8月30日 - 1904年8月9日)ドイツの地理学者。『政治地理学』、『人類地理学』などの著作を残している。 |
ラッツェルの国家観がはっきりと現れている記述としては次のようなものがあります。
「国家にとって土地が不可欠であることは疑問の余地がない。土地や境界のない国は考えられないから政治地理学がいち早く発達したのであり、たとえ国家科学が国家の空間と位置の条件をたびたび看過したとはいえ、土地を軽視する国家学説は常に一時的な錯覚であったのである」(ラッツェル、43頁)ラッツェルは、政治学の歴史において、国家が絶えず地理的環境から影響を受けることは古くから知られていたが、その分析はまったく不十分だったと考えていました。例えば、社会契約論に基づく近代的な国家理論を展開したことで知られるトマス・ホッブズは「抽象的状態のみが記述され、吟味もせずに反復されている」とラッツェルは述べています(同上、10頁)。
ラッツェルは、学者の頭の中で国家を理論的に考察することの問題を認識し、より具体的、現実的な国家を考察すべきだと考えるため、地理学の立場から国家を捉え直すことが重要だと考えたといえます。
国家の任務は土地の防衛である
ラッツェルは、領土が国家の構成要素となって、国家のあり方を規定するだけでなく、国家活動の対象でもあると述べています。それは住民にとって生活の基盤であり、国民の生命と財産を保証する上で最も重要なものとなるためです。「土地を単に一時的に利用するだけであるならば、その保持も一時的に行われる。食物と住居が社会を土地と固く結合させればさせるほど、土地を保持する必要が差し迫ってくる。土地に対する国家の任務の核心にあるものは常に一つ、すなわち防衛である」(同上、44頁)ここで防衛と述べていることは、必ずしも戦争で敵と戦うことだけを指すのではありません。平時の国境警備を含め、国家安全保障全般に関する活動という意味合いが含まれています。
「国家は土地を縮小しようとする外部からの侵害に対してその土地を守る。国家の発展が最高段階に達すれば、防衛の課題は単に境界設定や境界防衛を行うのみでなく、交通や土地救済策の発達など、国力を高めるあらゆる手段を取る。その際の最終目的は常に防衛である」(同上)このようにラッツェルは、国家のさまざまな施策の根本的な目標は、広い意味で国土を防衛することであり、一見すると無関係に見える交通インフラの開発や農地の開拓や保存といった事業も、その目標を達成するための手段として理解できると主張しているのです。
政治史を理解したいなら、土地を理解せよ
このような立場に対して、さまざまな論者が反論する可能性が高いことをラッツェルはよく自覚していました。例えば、国家の成り立ちや、その在り方を考える上で地理上の要素を過度に強調することは、政治における人間の精神や思想の影響を軽視することに繋がると批判される恐れも考えられました。しかし、そもそも政治という活動は土地という地理的環境の上で成り立っているとラッツェルは考えていたのです。
「おそらく我々の見解は、土地ーこれなくして民族は存在しえないーの配慮を要求するゆえに、民族や精神力を有する人間一般の価値を軽視するという非難を浴びるであろう。しかし、なんといっても真理のみが正しいのである。歴史における人間的要素の正しい評価は、人間が政治的なるものをつくり得る条件の認識によってのみなされるのである」(同上、47頁)またラッツェルは「政治史は政治の最も現実的な基礎が土地であることを教える。清の実際政治は常に強い地理的核心を有する」と述べています(同上)。もし政治学者が土地について無知になれば、彼らは原因を見極めることができなくなり、その徴候しか考察できなくなるというのがラッツェルの立場でした。
むすびにかえて
ラッツェルの観点から見れば、政治地理学は単に地理学の一分野ではありません。それは政治学の基礎に置くべき研究領域であり、国家の成り立ちを考える上で最も基礎的な判断材料を提供する学問です。理論的、抽象的に考察された国家は、こうした客観的、実証的な研究の発達によって自然に淘汰されることをラッツェルは期待していました。しかし、19世紀にラッツェルが議論したことは、21世紀の現在においても必ずしも政治学で一般的に受け入れられているわけではありません。政治と地理の関係については、依然としてさまざまな議論があり、だからこそラッツェルの議論は今後も参照される価値があると思います。
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参考文献
- フリードリヒ・ラッツェル『人類地理学』 由比浜省吾訳、古今書院、2006年

