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2016年8月23日火曜日

論文紹介 WEI/WUVとは何か、いかに応用すべきか

軍事的バランスの評価方法は、安全保障をめぐる政策論争で最も重要なテーマの一つであり、これまでにもさまざまな定量的アプローチが模索されてきました。
WEI/WUVはそうした研究成果の一つであり、これは兵器効率指数(Weapons Effectiveness Indicator, WEI)、加重単位価値(Weighted Unit Value, WUV)という指数によって軍事的能力を定量化し、それを比較することによって軍事行動の結果、つまり勝敗を説明しようとする方法論でした。1970年代からヨーロッパ情勢での軍事分析にも使用されてきた方法論です。

今回は、第二次世界大戦でドイツがフランスに侵攻した1940年の西方電撃戦の分析に、このアプローチを用いることで、その意義と限界を明らかにした研究を取り上げ、その内容について一部紹介したいと思います。

文献情報
Karber, Phillip A., Grant Whitley, Mark Herman and Douglas Komer. 1979. Assessing the Correlation of Forces: France 1940, BDM/W-79-560-TR, McLean: BDM Corporation.

WEI/WUVとは何か
冷戦期にヨーロッパでソ連軍の脅威が強く認識されるようになると、東西両陣営の地上部隊の勢力を体系的に分析し、軍事的にどちらが優勢なのかを評価する手法を編み出すことが求められるようになった。WEI/WUVはその成果の一環であったが、人員や武器の規模、効率といった要因が重視される傾向があるとの批判もあった。
WEI/WUVとは、1974年に米陸軍概念分析局(Concept Analysis Agency, CAA)が開発した指数であり、特に地上兵力を主体とした図上演習での利用が想定されたものです。

名称から難解な印象を持たれるかもしれませんが、それほど理解しにくいものではありません。
戦域に展開された敵と味方の陸上戦力のバランスを比較するために、それぞれの武器体系の保有数だけでなく、その効率性を考慮に入れるものであり、それを重みづけ手法を使って戦闘力を評価するという指数です。
従来の軍事分析では、人的戦力や指向可能な師団を比較に止まり、武器や装備の性能という要因が評価に反映しにくい事情があったのですが、WEI/WUVを導入すれば、こうした側面も分析結果に反映させることが可能となります。

具体的な数値を使って、基本的な考え方を説明します。
まず普通科の装甲兵員輸送車(APC)30両、機甲科の戦車20両、野戦特化の榴弾砲6門が配備された部隊の能力を考えてみます。また、それぞれの職種によって研究開発の進展にばらつきがあり、APCは平均的な性能が見込めますが(APCのWEI=1.00)、戦車はやや技術的に遅れており(戦車のWEI=0.90)、榴弾砲はかなりの遅れが見られると想定しましょう(榴弾砲のWEI=0.80)。
ただし、戦場において発揮される戦闘力、特に火力を考慮すると、APCはそれほど大きな威力は持っておらず(APCの重みづけとして×1)、戦車の方がより優れており(戦車の重みづけとして×6)、また榴弾砲はさらに大きな威力を発揮できると想定します(榴弾砲の重みづけとして×8)。

このように想定した上で部隊としてのWUVを計算すると、
30(APCの保有数)×1.00(WEI)×1(重みづけ)+20(戦車の保有数)×0.90(WEI)×6(重みづけ)+6(榴弾砲の保有数)×0.80(WEI)×8(重みづけ)=30+108+38.4=176.4
という結果が得られます。これを敵と味方それぞれに行えば、どちらが軍事的に優勢であるのかを定量的に判断できることになります。

実際の分析においては、武器体系の分類をより詳細にした上で、M1戦車や155ミリ榴弾砲等のように個別にWEIを適用して計算を行います。またWEI/WUVでは評価項目である武器の分類ごとの重要性をより厳密に重みづけしなければなりません。
この方法論は米陸軍として打ち出した最初の体系的な陸上戦力評価手法でしたが、根本的な問題がありました。それは軍事的能力を構成する物質的側面があまりに重視されているということです。つまり、訓練や統率、もっと言えば、戦略、作戦、戦術といった戦力運用の巧拙という要因が戦力分析から厳密に切り離されているため、軍事行動の結果を予測する際には問題が出てくるのです。

WEI/WUVから得られる知見とその限界
1940年にドイツ軍が連合軍に勝利した西方電撃戦の経過を示した地図。
ドイツ軍が中央部から連合軍の防衛線を突破し、北部に配備した連合軍の部隊が孤立させられている。
(Karber et al. 1979: 3-3)
前置きが長くなりましたが、この論文の狙いの一つは、このWEI/WUVという方法論の意義と限界を見極めることにありました。
この方法論がヨーロッパでNATOとWPの相対的な勢力関係を分析するために使用されていたことは既に述べましたが、その妥当性について考えるためには、過去の事例の説明に応用できるかどうかという検証作業が不可欠でした。

そこで選ばれた事例が1940年にドイツ軍の圧勝で終わった西方電撃戦の事例であり、これは歴史的な重要性もさることながら、1970年代に西側諸国が危惧していたWPの侵攻シナリオとも類似する特徴を持っていたため、研究の意義が大きいと考えられたのです。
しかし、結論から述べると、WEI/WUVの方法論を機械的に当てはめるだけでは、ドイツ軍に対してフランス軍を中心とする連合軍の方が優勢であるという分析結果になり、ドイツ軍の電撃戦を説明することができないことが明らかになりました。

WEI/WUVを用いた分析の結果を要約すると、次のようになります。
(1)連合軍(フランス、イギリス、ベルギー、オランダ)はドイツ軍に対して部隊規模(マンパワー)において1.22(=3,368,000/2,758,000)の優勢があった。武器ごとに比較しても戦車、火砲、装甲輸送車、小銃の保有数で勝っており、ドイツ軍が優勢なのは対戦車砲、迫撃砲、機関銃、航空機、高射砲のカテゴリーであった。
(2)機甲・対機甲戦、火力支援(砲兵火力)、航空・防空能力という3つの主要な領域における能力を加味して比較しても、ドイツ軍が連合軍に対して優勢であったという証拠は得られない。
(3)以上の理由から、戦域レベルにおいて彼我のWUVを比較するだけでは、ドイツ軍の電撃戦の戦果を説明することはできない。
もっと単純に言えば、1940年の時点でWEI/WUVのような定量化のテクニックを使って、戦域レベルにおけるドイツ軍と連合軍の戦力を比較できたとしても、ドイツが決定的勝利を収めることを事前に予測することはできなかったということが示唆されたのです。
したがって、1970年代にこの方法論を用いてNATOとWPの戦力を比較し、どちらが優勢であるかを評価したとしても、将来に戦争が勃発した際に勝敗がどうなるかを判断できるわけではないということになります。

しかし、著者らはこの問題を回避する方法があることについても論じています。つまり、彼我の戦力全体を一度に比較するのではなく、戦域でそれぞれ行動する部隊ごとに戦力を比較すれば、より正確に戦闘結果を説明できると著者らは考えたのです。

そもそも、西方電撃戦では連合軍が構成した防衛線に対してドイツ軍が総攻撃を加えたわけではなく、北部、中央部、南部の3地域に作戦地域を区分した上で、中央部に当たるアルデンヌ地方を迅速に攻撃し、これが北部と南部の連合軍の部隊を分断しました。この経緯を踏まえてWEI/WUVを適用する場合、ドイツ軍と連合軍のWUVを全体的に比較するのではなく、それぞれの作戦地域ごとに比較する方が的確と考えられます。
WEI/WUVに基づく連合軍(白色)とドイツ軍(斜線)の作戦地域別の勢力比。
 北部と南部では連合軍が1に対してドイツ軍の勢力が0.6の比率しかないが、中央部ではドイツ軍が4倍以上の勢力を使用しており、ドイツ軍の作戦行動の重心が中央部にあったことが確認できる。(Ibid.: 4-4)
WEI/WUVの方法論を用いて、連合軍に対する作戦に使用されたドイツ軍の部隊がそれぞれ連合軍に対してどの程度の勢力比だったのかを分析すると、北部正面を担当したB軍集団は0.6、南部正面を担当したC軍集団は0.59だったのに対して、中央部正面を担当したA軍集団は4.20の勢力比でした。
この分析結果は西方電撃戦でドイツ軍が大きな戦果を上げたことを裏付けるものでした。
著者らはWEI/WUVを戦役全体の勢力比の分析に使用するよりも、戦域にどのように部隊が配置されているのか、それが攻撃または防御の際にどのように配分されているのかを分析するために使用する方が重要であると指摘し、、歴史上の状況であれ、仮想上の状況であれ、WEI/WUVを適用するのであれば、個々の部隊の配備に着目すべきであると述べています(Ibid.: 4-9)。

むすびにかえて
この研究の成果は、まだ発展途上の方法論だったWEI/WUVの利点と欠点の両面に対する専門家の理解を深めることに役立ち、その後の図上演習でも広く使用される分析手法として確立されていきました。

軍事史に精通している専門家であれば、1940年の電撃戦の事例を理解するためには、連合軍とドイツ軍の戦力を全般的に比較するだけでは不十分であり、戦域のどこに、どれだけの部隊が配備されており、それがどのように行動するかが重要である、ということは当然だと思われるかもしれません。
しかし、この研究が重要な理由は、ドイツ軍の作戦が連合軍の弱点を突くものであったことを定量的手法で示したことだけではありません。
どのような条件であれば、連合軍がドイツ軍に勝利することができたのか、という仮想的状況についても具体的な数値さえ使うことができれば、定量的に考察できるようになったということが重要です。これは従来の歴史学的アプローチではできなかったことです。

KT

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