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2016年1月4日月曜日

論文紹介 アメリカ太平洋空軍による対中戦略の基本構想

アメリカ軍は世界規模で作戦を展開するために、その兵力を9個の統合軍に編成しています。
それらの中でもアジア太平洋地域を担当するのはアメリカ太平洋軍(United States Pacific Command)であり、その中の航空戦力は太平洋空軍(Pacific Air Forces)の下に編成されています。

今回は、この太平洋空軍の観点でアジア太平洋地域における今後のアメリカ空軍の戦略を述べた論文を紹介してみたいと思います。

文献情報
Basham, Steven L., and Rouleau, Nelson D. 2015. "A Rebalance Strategy for Pacific Air Forces: Flight Plan to Runways and Relationships," Air & Space Power Journal, January-February, pp. 6-19.(http://www.airpower.maxwell.af.mil/article.asp?id=267)

太平洋空軍の後退配備
この論文では太平洋空軍は60年以上にわたって北東アジア地域でも特に日本と朝鮮に重点を置いた部隊配備を選択してきたが、今後は太平洋空軍の部隊をより広い観点から配備し直すことになるだろうとの方針が示されています(Basham and Rouleau 2015: 13)。

ただし、それは必ずしも主要運用基地(main operating bases, MOB)の新設を意味するわけではありません。「我が部隊の配備をアラスカ、ハワイ、グアムという戦略上の三角形に集中する」というのが新たな部隊配備の着眼とされています(Ibid.)。

このような配備に見直す理由として著者は二つの理由を挙げています。
第一に、アラスカ、ハワイ、グアムはアジア太平洋地域に米軍の部隊を展開させる上で最短距離を通過する上で重要な米国の領土であるため、第二にアラスカ、ハワイ、グアムはほとんどの通常兵器の射程の外に位置しており、防護が比較的容易であるためです(Ibid.)。
つまり、潜在的な敵対勢力である中国が有事の際にはアメリカの空軍基地を弾道ミサイル等の第一撃によって破壊し、東アジア地域に速やかに増援を展開することを妨げるという事態が考えられるため、このような後退配備の方針がとられることになるのです。

アメリカの軍事戦略は同盟国の防衛協力によって実行可能となる
この新たな太平洋空軍の部隊配備との関係で、さまざまな同盟国の役割が重要となることになりますが、特に著者たちは日本がアメリカの戦略にとって欠かすことができない価値を持つようになるとして次のように指摘しています。
「日米関係はアメリカが有する対外関係の中で最も重要なものの一つである。接近経路を保持しにくくなりつつある地域において、強力な日米関係はアメリカが必要な時に接近することができるという大きな信頼性をもたらしてくれる。2015年の時点でアメリカは日本で横田、三沢、嘉手納という三カ所で空軍基地を運用している。日本国民の長期的な安全保障に太平洋空軍が寄与していることを誰も疑うはずはないだろう」(Ibid.: 14)
もちろん、取り上げられているのは日本だけではなく、太平洋空軍として米韓同盟に基づき北朝鮮軍侵攻を引き続き防止すること、オーストラリアに新たに配備したアメリカ空軍で監視能力、戦闘能力の向上を図ること、フィリピンで基地を再建すること、ベトナムとの継続的な防衛協力を模索することなどが考察されています(Ibid.)。

エアシー・バトルの構想
このような部隊配備は一見するとアメリカにとって潜在的な敵対勢力である中国の接近阻止、領域拒否の脅威を避けるという消極的な狙いしかないようにも思われますが、むしろ太平洋空軍としての狙いは積極的な航空作戦によって中国の脅威を排除することにあると述べられています。

すなわち、著者たちは新たに導入される統合打撃戦闘機F-35の戦闘力を用いて、敵の勢力圏に奥深く進入して作戦基盤から破壊するエアシー・バトル(Air-Sea Battle)を実現させることが可能となると考えています(Ibid.: 16)。さらに、詳細は未定とされていますが、将来的には太平洋軍として爆撃機B-2とB-52をグアムに継続的に配備する方針も示されています(Ibid.)。
これらは中国が積極防衛に基づき接近阻止・領域拒否を図ったとしても、その防空網を太平洋空軍として突破することを意図したものと言えます(しかし、エアシー・バトルの実行可能性については異論もある点については十分に触れられていません)。

変化していくアメリカ軍の戦略
この論文で示された興味深い論点はいくつかありますが、ここで注目したいのは太平洋空軍がアラスカ、ハワイ、グアムという三角形を一つの戦略上の部隊配備のモデルとすることが示されている点です。
論文で著者たち自身も認めていることですが、この「戦略的三角形」という表現はそれまでフィリピン、グアム、ハワイを結ぶ三角形として理解されてきました。しかし、弾道ミサイルの脅威が増大している現代の安全保障環境においては、フィリピンよりもむしろアラスカの戦略的重要性が増しているという判断になります(中国本土からアメリカ西海岸を最短距離で結ぶにはアラスカ上空を経由する必要があります)。

まとめると、この論文は太平洋空軍が中国の戦略にどのように対応しようとしているのかを包括的の述べたものであり、日本国民の側も防衛態勢を強化する上で、同盟国の航空戦力がどのような意図に基づいて配備されているのかを理解しておくことは重要な意味があると思います。

KT

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