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2015年7月6日月曜日

論文紹介 安定的抑止(stable deterrence)とは何か、なぜ重要なのか

1970年代、米国ではソ連軍による核戦力の増強にどう対処すべきなのか議論が起きていました。
個別誘導多弾頭、潜水艦発射弾道ミサイルなど、それまで米国が技術的に独占していた分野でソ連が次第に追い付き始め、戦略環境が大きく変わりつつあったためです。

今回は当時の論争にも大きな影響を与えたケーハン(Jerome H. Kahan)の論文を取り上げ、米国が追求すべきは安定的抑止であるという考察について紹介します。

文献情報
Kahan, Jerome, H. 1971. "Stable Deterrence: A Strategic Policy for the 1970s," Orbis, 15. Summer, pp. 528-543.

安定的抑止とは何か
著者の核戦略の考え方は、ソ連が一定程度の抑止力を持つことを認めながら、米国の核戦略を調整すべきだというものでした。
これが安定的抑止の基本的な戦略思想であり、そのため第一撃に対する脆弱性を低下させることが最優先事項とされていました。
「1970年代の米国にとって確実な戦略的政策は次の二つである。(1)確実かつ多様な抑止力を維持し、報復能力に高い信頼度を与えること。(2)ソ連の抑止力を脅かすようなシステムあるいは戦略をとらないこと。このような政策を『安定的抑止(stable deterrence)』と呼ぶ」
つまり、著者はソ連の核戦略を一方的に破綻させるような戦略をとるのではなく、相互に共存できる範囲で互いの核戦略を規定することを目指すべきだと考えていたのです。
「抑止は二面性を持つため、米国はその計画がソ連の戦力・政策・認識に対して与えうる効果についてよく知らなければならない。もし米国の計画がソ連の抑止を危険にするとソ連が認識すれば、ソ連は米国からの第一撃を恐れることは間違いない。危機に対して先制攻撃を始める傾向がより強まってしまう。このような条件では核戦争の危険が増大することになる。その報復能力を保全するためにはソ連は戦略戦力を拡充、改革するに違いない」
いわば、相手の攻撃を完全に阻止する特徴を持つ武器や戦略は、相手の攻撃を抑止することができると同時に、相手が自国の攻撃を抑止することを困難にしてしまう二面性があるということです。

相手はもはや自国を抑止することができないと判断すれば、逃げ場を失った兵士が決死の反撃を試みるように、その国家は先んじて攻撃を仕掛ける動機が生まれます。これでは、米国にとって抑止の本来の目的を達成することはできないだけでなく、軍事力の増強に多額の予算を費やさなければならなくなります。
「米国はソ連が明確な優位を獲得する事態を防止することが可能であり、またそうすべきだが、米国はソ連が対等の立場を得て、それを維持することを妨害することはできない。上記した『安定的抑止』の政策は、戦略兵器に対する支出増加を要求せずに米国の安全保障に対するリスクを最小化するであろう。この安定的抑止の追及はソ連に同様の対応を促すであろう。これが重要な目標となる。1970年代の戦略的安定は彼我が戦力を縮小し、明確な第二撃能力を持つ「生き残るための攻撃能力」を増強することで完全に達成できる」
ケーハンの研究の興味深い点は、相手が自国の攻撃を抑止する能力を持つことで、自国として相手を抑止する本来の目的をより達成しやすくなると指摘したところです。
戦略における相互依存の理解しなければ、いくら軍事力を増強しても、それは安定した抑止を可能にはしません。相手の軍事力の構造やその機能を踏まえた戦略を採用することこそが重要であることをこの研究は示しています。

KT

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