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2015年6月25日木曜日

論文紹介 安定した抑止と戦略の相互作用


今回は、抑止のためには相手の戦略との相互作用を考える重要性を述べた論文を紹介したいと思います。

1970年代に米国ではソ連の核戦力が整備され始めた事態を受けて従来までの核戦力の優位性が低下しつつありました。例えば、個別誘導多弾頭、潜水艦発射弾道ミサイルなど米国が技術的に独占していた分野においてソ連が追い付き始めたことが挙げられます。
このような米ソ両国の軍事力が均衡に近づいたことで、1972年に戦略兵器制限交渉の第一次協定が成立します。

今回取り上げる論文の著者のケーハンはこのような状況を問題として米国の採用すべき戦略を再検討すべきと考えたのです。

文献情報
Kahan, Jerome, H. 1971. "Stable Deterrence: A Strategic Policy for the 1970s," Orbis, 15. Summer, pp. 528-543.

著者は当時の米ソ両国の核戦力に関してほとんど同等の水準にあるものと判断していました。
これは米国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を整備していたとしても、ソ連がICBMで第一撃を加えれば大部分が破壊される危険があるということです。
著者は、1970年代の米国の核戦力とそれを運用するためには、ソ連の抑止を破綻させない着意が必要であると考えました。
「1970年代の米国の確実な戦略的な政策は次の二つにある。(1)確実で多種類の抑止力を維持し、報復能力に高い信頼度を与える。(2)ソ連の抑止力を脅かすようなシステムあるいは戦略をとらない。このような政策を『安定した抑止』と呼ぶ」
著者は彼我の戦略的な相互作用を考慮に入れた上で核戦略を選択することが重要であると考えていました。
もし米国がソ連の攻撃を抑止しようとしても、ソ連が米国の攻撃を抑止する能力まで損なうような武器体系や軍事戦略を導入してしまえば、ソ連は米国からの先制攻撃を恐れて予防的に第一撃を加えてくる危険が高まってしまいます。
「抑止は二面性を持つため、米国はその計画がソ連の戦力・政策・認識に対して与えうる効果についてよく知らなければならない。もし米国の計画がソ連の抑止を危険にするとソ連が認識すれば、ソ連は米国からの第一撃を恐れることは間違いない。危機に対して先制攻撃を始める傾向がより強まってしまう。このような条件では核戦争の危険が増大することになる。その報復能力を保全するためにはソ連は戦略戦力を拡充、改革するに違いない」
いわば、相手の攻撃を完全に阻止する特徴を持つ武器や戦略は、相手の攻撃を抑止することができると同時に、相手が自国の攻撃を抑止することを困難にしてしまう二面性があるということです。
相手はもはや自国を抑止することができないと判断すれば、逃げ場を失った兵士が決死の反撃を試みるように、その国家は先んじて攻撃を仕掛ける動機が生まれます。これでは、米国にとって抑止の本来の目的を達成することはできないだけでなく、軍事力の増強に多額の予算を費やさなければならなくなります。
「米国はソ連が明確な優位を獲得する事態を防止することが可能であり、またそうすべきだが、米国はソ連が対等の立場を得て、それを維持することを妨害することはできない。上記した『安定的抑止』の政策は、戦略兵器に対する支出増加を要求せずに米国の安全保障に対するリスクを最小化するであろう。この安定的抑止の追及はソ連に同様の対応を促すであろう。これが重要な目標となる。1970年代の戦略的安定は彼我が戦力を縮小し、明確な第二撃能力を持つ「生き残るための攻撃能力」を増強することで完全に達成できる」
ケーハンの研究の興味深い点は、相手が自国の攻撃を抑止する能力を持つことで、自国として相手を抑止する本来の目的をより達成しやすくなると指摘したところです。
戦略における相互依存の理解しなければ、いくら軍事力を増強しても、それは安定した抑止を可能にはしません。相手の軍事力の構造やその機能を踏まえた戦略を採用することこそが重要であることをこの研究は示しています。

KT

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