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国際社会における米国のソフトパワーが減退していると研究者が警告している

国家の能力を判断する際に、ハードパワーだけでなく、ソフトパワーに注目する必要があるという議論があります。ソフトパワーは米国の政治学者のジョセフ・ナイ(Joseph Samuel Nye, Jr.)が『 ソフト・パワー(Soft Power: The Means to Success in World Politics) 』(2004)で取り上げた国家の能力であり、経済的報酬、あるいは軍事的強制によらず、文化的な価値や先進的な政策によって国際社会に対する影響力を維持することができると考えられています。 しかし、最近の米国のソフトパワーは減退していることが指摘されています。ランド研究所が2020年9月に発表した報告書「 米国の対外政策における失われた世代(The Lost Generation in American Foreign Policy) 」で示された調査結果がそのことを裏付けています。 James Dobbins, Gabrielle Tarini, Ali Wyne, The Lost Generation in American Foreign Policy: How American Influence Has Declined, and What Can Be Done About It , Expert Insight, RAND, September 2020. すでに、バラク・オバマ政権の頃から国際社会における米国の影響力が低下しているとの見方はありましたが、ドナルド・トランプ政権になってからは、その見方を持つ人がますます増加する傾向にあります。この動向がどれほど世界的に進んでいるかを調査するため、著者らは米国のソフトパワーを測定するための国際的な世論調査を検討しました。 国際的な世論調査を継続的に実施してきた米国のシンクタンクである ピュー・リサーチ・センター(ピュー研究所) の調査の結果を調べると、 諸外国で米国に対する好意的な見方を持つ人の割合は、ブッシュ政権(2001~2009)で急落し、オバマ政権(2009~2017)で部分的に改善したものの、トランプ政権(2017~現在)で大幅に低下したことが分かります 。報告書ではデータが表にまとめられていますが、ここでは具体的なデータを示します(p. 4)。 ドイツでは、米国に好意的な人は199...

グローバル経済において「経済戦」への備えが求められている

2020年7月、ランド研究所の研究員ハワード・シャッツ(Howard J. Shatz)が、軍事的な目標を達成する手段として経済力を活用する方法を考察した研究成果を発表しています。 Shatz, H. 2020. Economic Competition in the 21st Century , Research Report, RAND.( https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR4188.html ) シュッツは国家間の経済的競争を経済的観点から分析しているだけでは不十分であり、政治的・戦略的観点から考察することが欠かせないと考えました。 これは国際政治学、あるいは国際政治経済学の視点です。シュッツは経済システムの問題は、生産性を向上させ、人々の生活を豊かにする方法を明らかにすることだけにとどまらないと考えました。 他国が経済力を政策手段として運用した場合、自国にどのような経済的影響が出てくるかを考慮した上で経済政策を考えなければならない というのがシュッツの基本的な立場です。 例えば、国際貿易の問題をめぐっても、単に貿易相手に対する自国の比較優位を判断し、生産性が高い財やサービスに生産要素を集中すればよいという問題ではありません。 なぜなら、どちらの国の製品規格を国際標準として定めるかによって、その後の貿易でどちらの国の事業者が優位に立てるかが大きく左右されるためです。この国際標準の問題に関しては中国が強い関心を持っているとシュッツは指摘しています。 「標準は企業の競争力に影響を与える可能性があるため、中国は国際標準を定める国際機関への参加を増加させてきた。中国の標準設定の取り組みは、民間部門が開発した自主的な標準に依拠せず、政府主導の規制に依拠する傾向があるため、その標準は義務的なものである。これが競争に与える影響はさまざまに考えられる」(Shatz, 2020: 28) 中国は一帯一路構想によって巨大な経済圏を構築することを目指しており、もし中国が設定した国際標準がこの経済圏で取り入れられることになれば、中国の事業者はこの経済圏において大きな優位を占めることが可能になります。現代の国際社会において経済的手段がどのように行使されるのかを示す事例と言えます(Ibid)。 このような可能性を考慮すれば、経済政策...

新型コロナウイルスが戦争を引き起こすリスクは小さいとの見解が研究者から示される

2020年5月13日にハーバード大学の教授スティーヴン・ウォルト(Stephen M. Walt)は「世界不況が次の世界大戦を引き起こすのか?(Will a Global Depression Trigger Another World War?)」と題する記事を「フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)」のウェブサイトで発表しています。 新型コロナウイルスの感染拡大が安全保障環境に与える影響について研究者の間では議論が始まっていますが、ウォルトは直ちに戦争のリスクに繋がることはないのではないかという見解を示しています。 記事情報 Stephen M. Walt, Will a Global Depression Trigger Another World War?  Foreign Policy ,  https://foreignpolicy.com/2020/05/13/coronavirus-pandemic-depression-economy-world-war/ (2020年5月25日アクセス確認) 感染症の世界的な大流行は平和を促進する この記事を発表する1カ月前の4月下旬にマサチューセッツ工科大学の教授バリー・ポーゼン(Barry R. Posen)が「フォーリン・アフェアーズ」で「パンデミックは平和を促進するのか?(Do Pandemics Promote Peace?)」と題する記事を発表しました。 それによれば、ウイルスの世界的な大流行は戦争の原因になるというよりも、平和を強化する可能性の方が高いと予測されていました。 その主な理由は、ウイルスの流行が全世界に及んでいるため、すべての国が軍事作戦を準備することが難しくなっているためです。 ウォルトはこの説を受け入れており、より長期的な観点から見ても、新型コロナウイルスで戦争が引き起こされるリスクは低いのではないかと見積もっています。 歴史的に見れば、確かに疫病が発生したからといって、戦争が不可能になるというわけではなかったことはウォルトも認めています。 1918年から1919年にかけて感染が広がったスペイン風邪は第一次世界大戦の終結に寄与したという見方もありますが、スペイン風邪が大流行していた時期においても、ロシア内戦(1917~1922)、ロシア・ポーランド戦争...

文献紹介 世界戦争に周期性はあるのか―モデルスキーの長期循環論―

政治学者は、単に政治上の出来事を記すだけでなく、その背後にある原理、原則を解明することに関心を寄せてきました。その研究課題の一つに世界戦争の発生パターンの解明があります。 これは世界戦争の発生パターンを大まかにでも知ることができれば、次に戦争が発生しやすい時期がいつ頃になるのかを予測できるようになると考えられたためです。 今回は、政治学者ジョージ・モデルスキーが提唱したことで有名な長期循環論を論じた著作を紹介してみたいと思います。 文献情報 Modelski, George. 1987. Long Cycles in Global Politics , London: Macmillan.(邦訳『世界システムの動態―世界政治の長期サイクル』浦野起央、信夫隆司訳、晃洋書房、1991年) モデルスキーの長期循環論とは何か 長期循環論とは、国際政治において世界規模で発生する戦争は100年から120年程度の周期性を持っているという政治学の学説です。 この学説の基礎にあるのは、平和を維持する大国が現れても、時間の経過とともに衰退するという前提です。 つまり、国際政治の歴史は覇権を握る大国が次々と交代することで展開しており、そのサイクルの長さを知れば、世界規模の戦争のサイクルを予測できるということです。 モデルスキーによれば、長期循環は次のようなサイクルで進行します。 (1)国際システムはアナーキーつまり無政府状態であり、国家間で対立が発生しても、それを外交で解決することは難しく、究極的には武力を行使する必要が生じます。こうした国際情勢では戦争のような激しい政治的対立が多発することが避けられません。 (2)第二段階に入ると、激しい対立の中で勢力を拡大し続ける国家が出現し、そのような国家の勢力圏は地球規模にまで広がるようになります。 この段階に入れば、国際政治はより安定した局面を迎え、もし国家間の対立が生じたとしても、指導力を持つ国家の圧倒的な武力の下で各国の行動は統制されているため、外交によって問題を解決しやすく、国際平和も維持されやすくなります。 (3)この段階に入ると、国際社会の平和と安定を担ってきた世界国家が徐々に軍事的に衰退し始め、国際政治の秩序を維持すること以上に経済的利益を優先するようになります。 そうなると、その国家...