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米国とスーダンの国交が正常化の兆しを見せるが、まだ課題は多いと研究者に指摘される

2019年4月、スーダンでは国防軍がクーデターを起こし、長期にわたって政権を掌握してきた大統領オマル・アル=バシール(Omar Hasan Ahmad al-Bashīr)が失脚しました。 2019年9月に新首相ハムドゥーク(Abdalla Hamdok)が暫定政府を発足させてからは、米国とスーダンの関係は急速に改善しており、1993年8月から行われてきたテロ支援国家の指定も解除される可能性が出てきました。 研究者のピーター・チャーク(Peter Chalk)、デイビード・ガーテンスタインロス(Daveed Gartenstein-Ross)、コリン・クラーク(Colin P. Clarke)もこの動きに重大な関心を持って注目していますが、7月24日に発表した論説では、スーダンが国際社会に復帰するためには依然として課題があるという厳しい見方を示しています。 Peter Chalk, Daveed Gartenstein-Ross, Colin P. Clarke, Can Sudan Escape Its History as a Transit Hub for Violent Extremist Organizations? RAND Commentary, 2020/08/05 安全保障の観点からスーダンが注目されているのは、数多くの国際テロリスト組織の拠点として使われてきたことが理由です。 アブ・ニダル機関、パレスチナ・イスラム・ジハード運動、ハマス、ヒズボラ、アルカイダなどがスーダンから支援を受け、行政の管理が行き届いていない国境を自由に行き来しています。 このような活動を取り締まることができなければスーダンが完全に国際社会に復帰することは難しいでしょう。 スーダンは7か国と国境を接し、紅海に面する領土も持っているため、アフリカおよびアラビア半島で活動する武装勢力にとって理想的な基地でした。 近隣の国際テロ組織とのアクセスも良好であり、スーダンの西に位置するナイジェリアなどではボコ・ハラム(Boko Haram)が、マリなどではジャマーア・ヌスラ・アル・イスラーム・ワ・アル・ムスリミーン(Jamaat Nusrat al-Islam wa-l-Muslimin, JNIM)が活動しており、北には内戦が繰り広げられているリビアと国境を接しています。 これまでの...

あのアルカイダが復活しつつあると専門家が警告を発している

アルカイダ は主にアメリカとその同盟国を攻撃するイスラム教スンニ派の過激組織です。2001年9月11日に アメリカ同時多発テロ事件 を引き起こし、米国から国家安全保障上の脅威と見なされ、世界規模で掃討作戦が実施されてきました。 2001年に米軍の攻撃でアフガニスタンの拠点を失い、2008年以降に幹部の損失が相次いだほか、2011年に指導者ビン・ラディンが殺害されたことで、組織力は低下したものと考えられてきましたが、最近になって再び勢力を拡大しつつあると専門家から指摘されています。 書誌情報 Jami T. Forbes, The Revival of Al Qaeda,  Joint Force Quarterly 96, 2020, Feb. (https://ndupress.ndu.edu/Portals/68/Documents/jfq/jfq-96/JFQ-96_84-89_Forbes.pdf?ver=2020-02-07-150502-383) 先ほど述べたように、2011年に米国がビン・ラディンを殺害することに成功し、アルカイダの勢力は大幅に後退したと考えられていました。そのため、2013年に別の勢力であるイラク・レバントのイスラミック・ステート(Islamic State of Iraq and the Levant, 以下ISIL)が活動を開始すると、国際社会の関心もアルカイダからISILへと移っていきました。 しかし、この間もアルカイダは忍耐強く勢力の回復に取り組んでいました。著者はアルカイダが以前にも増して活動の秘匿を徹底しているため、その実態が見えにくくなっているものの、組織の幹部を世界各地に配置し、提携のネットワークを拡大しつつ、脆弱国家に基地を構築していると主張しています。 「この数年間でアルカイダは地域からの支持を獲得し、また武装勢力と提携することによって、勢力を拡大してきた。2014年、アルカイダは、アジアで最初の公式のネットワークとなるインド亜大陸のアルカイダ(al Qaeda in the Indian Subcontinent, AQIS)という新たな系列の組織を立ち上げたことを発表した。AQISはアフガニスタンとパキスタンで活動しているが、インド、ミャンマー、バングラデシュにも野心を抱いている」 このよう...

文献紹介 イギリス軍のアフガニスタン紛争―タリバンと戦った12年間―

2014年10月26日、アフガニスタンで戦闘任務に当たっていたイギリス軍はバスティオン基地をアフガニスタン軍に引き渡し、2001年から13年まで続いたタリバンとの戦いに終止符を打ちました。 一連の戦闘を通じてイギリス軍は453名の戦死者を出しましたが、結果的にイギリスがどのような国益を手に入れたのか、何のための作戦だったのか、現在でもイギリスではその軍事的評価をめぐって議論が重ねられています。 今回は、そうした議論を進める上で重要な役割を果たすことになるであろう最近の研究を取り上げてみたいと思います。 文献紹介 Farrell, Theo. 2017. Unwinnable: Britain's War in Afghanistan, 2001-2014 . Bodley Head. アフガニスタンにおけるイギリス軍の活動 2001年の同時多発テロ事件が起きたことを受けて、イギリスはアメリカと共に対テロ戦争に参戦し、タリバンが支配していたアフガニスタンに地上部隊を送り込みました。 19世紀の軍事史にも記録されている通り、イギリス軍にとってアフガニスタンは未知の戦地というわけではありません。 当時のイギリス人はインドの防衛のためにアフガニスタンを緩衝地帯として利用し、そこでロシアの南進を食い止めるために外交的、軍事的干渉に踏み切りました。 しかし、21世紀になってアフガニスタンに派遣されたイギリス軍を待ち受けていた戦略環境は19世紀のそれとは異質でした。さらに加えて、事前の情勢判断にも問題があり、任務遂行で直面するであろう問題に関して過小評価していた部分もありました。 この著作は13年にわたって続けられたアフガニスタンでのイギリス軍の作戦を包括的に記述した文献であり、公式の戦史が利用できない現状からすれば、先駆的な軍事史研究であると同時に、対反乱作戦を考える上で興味深い教訓も示されています。 著者は2001年のアメリカ同時多発テロ事件が起きた経緯から議論を始め、イギリス軍がアメリカ軍と共にアフガニスタンに攻め込んだ経緯、そしてタリバンがこれに抵抗できずに国外に逃亡し、アルカイダも大きな打撃を受けたことを説明しています。 ところが、タリバンの幹部は何もかも諦めて逃亡したわけではありませんでした。 彼らはパキスタ...

論文紹介 対テロ戦争でアメリカが採るべき戦略とは

2001年9月のアメリカ同時多発テロを受けて始まった対テロ戦争ですが、本格的なアメリカの軍事行動が始まったのは10月に中東のアフガニスタンへ侵攻してからのことです。 しかし2016年末にかけて事態は改善に向かっているとは言えません。これほど長期にわたって海外で戦い続けている事例はアメリカの歴史を振り返ってもなかったことです。 今回は、こうした状況の中で、アメリカがこれまで採用してきた戦略を基礎から見直し、どのような能力を軍事的に重視すべきなのか、改めて検討する必要があると論じた研究を取り上げたいと思います。 文献情報 West, Allen B. "The Future of Warfare against Islamic Jihadist: Engaging and Defeating Nonstate, Nonuniformed, Unlawful Enemy Combatants," Military Review , Vol. 96, No. 1(January-February 2016)pp. 39-44. 対テロ戦争における領域的支配の重要性 著者の情勢判断によれば、現在のアメリカが直面する脅威で最も深刻なのがISISをはじめとするイスラム聖戦主義者(jihadist)の勢力です。 この勢力は非国家主体ではありますが、その地域において政権を奪取することにより、領域的支配を伴う国家主体に発展する場合があります。 著者はアフガニスタンでアメリカが犯した間違いとは、この可能性を軽視したことにあったと指摘しています。 「米国の指導者は、国家を建設することを目的としてISISが領土を支配しようとしていることを、理解する必要がある。不幸なことに、タリバンが権力と領土を確保することを見過ごしたとき、我々がアフガニスタンで犯した大きな間違いが繰り返されている。タリバンの局地的な運動は、アルカイダとオサマ・ビンラディンの世界的な計画と連動していたのである。その結果として、野蛮な7世紀型の国家が確立されただけでなく、テロリストの活動を支援する卑劣なイデオロギーの輸出も実施されてしまった」(West 2016: 40) このように、テロリスト集団が国家主体に変化する可能性から、著者はアメリカが対テロ戦争を効果的に遂...

論文紹介 NATO加盟国は対テロ作戦で団結せよ

2015年11月にパリで起きたテロ事件、2015年と2016年にトルコで相次いだテロ事件を受けて、近年のヨーロッパ諸国ではテロリズムに対する脅威が強く認識されるようになっています。 大西洋条約機構(NATO)は対テロリズム作戦の態勢を強化し、これまで以上に域内の対内的安全保障に取り組み始めています。 今回は、このような取り組みにおいて多国間での特殊作戦部隊の連携を重視すべきと主張する研究を紹介したいと思います。 文献情報 Miller, Matthew E. "NATO Special Operations Forces, Counterterrorism and the Resurgence in Europe," Military Review , July-August 2016, pp. 55-60. NATOは専門の対テロ部隊を必要としている 一般にNATOはヨーロッパの防衛の基盤として知られていますが、それは対外的な脅威を想定した組織であり、対内的な脅威は十分に考慮されてきませんでした。そのため、これまでのNATOで特殊作戦部隊は対テロ作戦を主な任務とされていません。著者はこのような現状では大規模なテロリズムの脅威に対処することは困難であるとして、次のように論じています。 「国際テロリストの脅威がNATO全体に及んでいることが明々白々であるにもかかわらず、政策の間違いか、現実からの逃避のいずれかかによって、対テロ作戦(counterterrorism)は未だにNATOの特殊作戦部隊の主要任務となっていない。その結果、公式に定められた対テロ任務を除けば、NATOの特殊作戦部隊は、いざ大規模なテロの危機が起きた際には、協調の問題に取り組むにはあまり効率的ではないやり方であるものの、公式もしくは非公式に加盟国の特殊作戦部隊の対テロ部隊に取って代わられることになるであろう。したがって、ISの急速な拡大とヨーロッパにおけるテロリズムの脅威の拡散という観点から、今こそNATOに対テロ任務を専門とする部隊を創設すべきである」(Miller 2016: 56) 歴史的に見れば、ヨーロッパ諸国では大規模なテロリズムが発生するごとに対テロ作戦の能力を強化してきました。しかし、それは各国が独自の取り組みに止まり、多国間の協調...

いかに自爆攻撃は行われるか

つい最近、イスタンブールやジャカルタで自爆攻撃があったことが報道されたのを機会に、改めて自爆攻撃の威力とその恐ろしさが認識されています。 自爆攻撃(suicide attack)とは攻撃者にとって攻撃それ自体が死を意味するためにそう呼ばれていますが、攻撃者が爆弾を爆発地点にまで運搬し、可能な限り多数の損害を与えるか、もしくは特定の対象を暗殺するために実施される攻撃方法です。 今回は、この自爆攻撃の実施要領とその対処法について米陸軍の教範に基づいて説明し、それがいかに実施されるのかを理解する一助にしたいと思います。 自爆攻撃の目標 まず、戦術としての自爆攻撃の特徴はその単純性であり、攻撃の完了と同時に退却する必要もなく、またその実施に当たって部隊の行動や訓練を必要としません。 米軍の教範によれば、自爆攻撃で唯一必要なことは、その兵士が攻撃の際に不安を感じることなく自爆できるように行動することです(FM 3-21.10: G-10)。 米軍で紹介されている自爆攻撃に使用する爆弾の一例。 体の前に装着するもの以外にも背負って装着する形態もあるため形は一様ではない。 これまでの研究によれば、自爆攻撃の対象とされやすい目標には非常に多くの種類があります。 一般的に想定される攻撃目標としては、部隊、車両、基地、警衛、斥候、連絡要員、軍隊に協力的な住民、在外公館や国際機関の人員、車両、施設、政府の要人、市場や店舗などの民間人などが挙げられます(Ibid.)。 したがって、不特定多数の人間が接近し得る場所はすべて潜在的な自爆攻撃の目標となり得ることになります。 人体に爆弾を固定した自爆攻撃者の特徴 自爆攻撃の手口には大きく分けて人体に爆弾を固定する方法と車両に爆弾を搭載する方法がありますが、ここでは前者の方法に絞って説明します。 前者の方法による自爆攻撃は性別、年齢を問わず誰であっても実施することができるという点が重要です。児童、老人、少女など一般に警戒されにくい人間によって実施されることが少なくありません。自爆攻撃の危険を事前に察知することは非常に難しいことではありますが、以下の特徴によって識別できる場合もあると教範では述べられています。 ・攻撃者は攻撃目標の環境に溶け込もうとし、目立つ行動で注目を集めないように配慮する。 ・攻...

論文紹介 移民は安全保障上の脅威となり得るか

近年、ヨーロッパ各国では中東、アフリカから押し寄せる難民の受け入れをめぐって大きな国民的議論が巻き起こっています。 各国ごとで議論の内容はさまざまですが、一般に争点となっているのは難民の受け入れによって、その国家の安全保障が脅かされる度合いであり、例えば難民に紛れ込んで国際テロリスト集団の構成員が潜入する可能性がどの程度高まることが懸念されています。 これは難民だけでなく移民の議論にも影響を与えており、国籍取得や在留許可について一層厳密な審査や管理のあり方が検討されています。 今回は、こうした問題が表面化する前の2006年に執筆された論文を紹介し、移民と安全保障の関係を説明してみたいと思います。 文献情報 Adamson, Fiona B. 2006. "Crossing Borders: International Migration and National Security," International Security , 31(1): 165-199. 移民は安全保障上の問題として認識する必要がある 著者によれば、これまでの安全保障学の研究は軍事力と関係を持つ対外的安全保障に注意がかたよる傾向があり、警察力と関係がある対内的安全保障が軽視されやすいという問題がありました。 「安全保障学の主流派の研究者たちは、これまで国内の政治的、政策的課題に対してあまり関心を示さないか、あるいは小さな関心しか示してこなかった。しかし、国際安全保障の研究者と政策立案者は、グローバル化の過程で強化された相互的統合の世界において、移民と安全保障の関係を無視することができないことに気が付き始めている」(Adamson 2006: 167) とはいえ、著者は移民が安全保障に与える影響を考えるためには、移民にもいくつかの種類があることに注意が必要であることも理解しています。 自発的な移民と強制された移民、経済的理由による移民と政治的理由による移民、そして正規の移民と不正規つまり非合法的な移民、定住を目的とした移民と帰国を前提とした移民など、移民といっても一概にその性格を特徴付けることは難しいため、状況に応じて移民の性格を判断することが重要であることも示唆されています(Ibid.: 171-175)。 移民は国家の統治能力、...