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新型コロナウイルス感染症がもたらす政治的・経済的リスクの予測が進んでいる

2020年3月11日に世界保健機関事務総長が新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりを「パンデミック」と呼んでから、1カ月が過ぎました。
多くの国々の努力にもかかわらず、社会的、経済的な損失は依然として拡大し続けており、その影響の深刻さは2008年の金融危機を凌駕します。
わたしたちは2020年以降の世界情勢のトレンドが劇的に変化することを覚悟する必要があり、その際に経済的な変化だけでなく、政治的にも重大な変化が出てくることを考慮する必要があります。

この問題に関する研究は始まったばかりですが、イギリスのシンクタンク国際戦略研究所(IISS)に所属するロバート・ウォードが政治的、経済的リスクについて予測を立てている記事を紹介したいと思います。
(注意:本稿の内容は専門家が立てた予測であり、確定された将来の事象を記述しているわけではありません)

打撃は深刻だが、その被害の程度は国ごとに異なる

ウォードは世界中で政治状況が不安定になり、政治的リスクが急激に高まるという予測を立てています。単に各国の財政的な基盤が脅かされるだけでなく、各国政府が国内の経済的問題を解決するため、多国間協調が困難になっていくためです。

まず、新型コロナウイルスのパンデミックで世界中の国内総生産が急激に減少しています。これほど経済活動が縮小しているのは2008年から2009年の金融危機以来ですが、2020年の世界は2008年の当時よりもはるかに脆弱な状態でこの危機に突入してしまったことを考慮しておく必要があるとウォードは指摘しています。
2020年の経済的崩壊の速さは2008年の危機をはるかに凌駕しており、3月中旬以降にアメリカで急増している失業者の数は、まったく異次元のものだとされています。

アメリカだけでなく、フランス、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダを含めた先進7カ国のすべての経済が縮小する可能性は高い状況です。ただし、経済協力開発機構(OECD)に加盟していない国々が全体としてはわずかに経済成長する可能性があるかもしれないとも指摘されています。
ウォードは南アフリカ、メキシコ、インドなどの新興国市場では、政治的、経済的混乱を回避するために資本を国外に移動させる動きが2008年の金融危機に比べて限定的であることに注目しています。
これは新型コロナウイルス感染症で被る経済的損失の程度が国によってかなり異なる可能性を示唆しています。

世界経済のV字回復は非常に難しい状況

今回の経済的打撃が政治的危機に与える影響は経済回復の形態によって左右されます。
世界の主要な経済圏であるアメリカ、欧州連合(EU)、日本では、いずれにおいても金融政策で可能な経済対策が限られています。
そのため、3月に開催された臨時の国際会議で合意がまとめられ、先進国に新興国を加えた主要20カ国は世界全体で5兆ドルを投入すること、そのうちの2兆ドルはアメリカの財政出動で対応することがすでに約束されています。

しかし、ウォードはこれほどの公的資金の投入をもってしても、景気後退は避けられず、経済の崩壊を食い止めるだけ効果しか持たないのではないかと見積もっています。
第一に、新型コロナウイルスの突然変異が生じるリスクは残っているためです。このリスクが根本的に払拭できなければ、各国でロックダウンが解除されても、生産者、消費者は経済の先行きに対して以前と同じような見通しを持つことは困難でしょう。

第二に、2008年の金融危機の回復で重要な役割を果たした中国が今回も同じ役割を果たすとは思えないためです。
2010年以降に中国政府は5900億ドルに相当する大規模な景気刺激を実施しました。これが中国経済の成長を後押しし、世界の貿易量の増加を促進しました。しかし、今の中国は当時の債務を抱えている状態ですので、2020年以降に当時と同規模の景気刺激に乗り出せるか疑問が持たれます。

ウォードは中国政府が景気刺激策として支出を拡大するとしても、その規模は以前よりも小さくなり、また戦略的な重要性が高い部門に資金が集中するのではないかと見ています。世界経済の牽引役が不在のまま状況が進む可能性を考える必要が出てきているのです。

政治的な危機、保護主義の台頭に備えよ

パンデミックが起こる前から、新興国では政府の汚職や所得の格差に対する不満や抗議は起きていましたが、今後さらに政治状況が悪化する恐れがあります。ウォードの見解によれば、ラテンアメリカ諸国の一部、中東諸国、サハラ以南のアフリカ諸国、アジア諸国の多くが、このカテゴリーに入ると述べています。

これに加えて、各国が経済安全保障の問題に関心を強めていることも考慮しなければなりません。米中の貿易問題については以前から指摘されていましたが、欧州連合(EU)のように地域協力の制度的な枠組みが確立されている場合でさえ、経済安全保障が問題になっていることは、重く受け止める必要があります。これは貿易の回復を阻害する重大なリスクです。

今回の事態を受けてアメリカや欧州諸国が政治的な関心をますます国内の問題に移行させるとウォードは予測しています。これは多国間協調主義に基づく世界貿易システムが解体し、保護主義、民族主義が急速に高まる兆候です。もしそうなれば、各国は自らの国益を主張して対立する場面が増加し、世界は以前とは異なった様相を呈するようになるでしょう。

むすびにかえて

繰り返しになりますが、ここで述べた将来予測が的中するとは限りません。これは一つの専門家の予測であり、これから考慮すべきリスクについて考えるための参考として理解してください。新型コロナウイルス感染症の影響が世界規模の政治的危機に拡大する可能性はまだ現実のものとして確定しているわけではなく、アメリカが世界経済を立て直す方向で強い指導力を発揮することができれば、希望は残されています。

アメリカでは今年の11月に大統領選挙が予定されています。今回の経済的危機が選挙情勢に影響を及ぼすことは間違いありません。問題は、それが政策決定に与える影響です。保健衛生だけでなく、外交安全保障、経済・通商などでアメリカが適切なリーダーシップを発揮し、国際社会が結束を維持できるのであれば、ここで予測された将来を回避することは不可能ではないと思います。

武内和人(Twitterアカウント)

冒頭写真(U.S. Department of Defenseより)

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