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2017年4月22日土曜日

学説紹介 国土に人口を分散配置せよ―マキアヴェリの考察―

ニッコロ・マキアヴェリの政治思想の特徴は、首尾一貫して実用主義的、実践的な態度で国家の統治方法を論じていることです。
政治家として成功したいのであれば、道徳的に批判される行為でもあえて行うべき状況があり、政治家は尊敬されるよりも恐れられた方がよい、と彼が論じたことはよく知られています。

今回は、そんなマキアヴェリが人口という問題についてどのように考察していたのかを紹介し、特に人口の計画的な配置が国家政策にとってどのような意味を持つのかを考察してみたいと思います。

人口配置を考慮した古代の国家政策の事例
2世紀中葉におけるローマ帝国の植民地の位置を示した地図。ローマを中心としながら勢力圏の拡大に応じて辺境の広範囲に入植していることが分かる。 Cresthaven.2015. Romancoloniae.
マキアヴェリの議論には古代史への言及が数多く見られます。人口の問題に関してもマキアヴェリは古代の君主国や共和国の制度に注目するところから論じ始めています。
「古代の共和国や君主国の偉大で驚嘆すべき制度の中には多くの防備集落や都市が新たに建設される際に、今日では消滅してしまっているが、当時は常に採用されていた制度があった。というのは、最高の君主にとっても、秩序の整った共和国にとっても人々が安心して防衛と耕作ができるように、避難できる防備集落を新たに建設するという統治の制度にまさるものはなかったし、どの地方にとっても、それより有益なものはなかったからである」(マキァヴェッリ、133頁)
ここで述べられているのは、古代における国家がその領土を拡張していく典型的なパターンとして地方に「防備集落」という拠点を構築していくことが一般的だったということです。防備集落は平時においては地方行政の中心であり、また戦時には国境警備に当たる陣地としても活用することができます。

さらにマキアヴェリは、「この制度は、新たな防備集落を建設する原因となったのみならず、敗者の土地を確実に勝者のものにし、無人の土地を住民で満たし、各地方に人々をうまく配分したのである」(同上、133-4頁)と述べており、国土の各地方に拠点を配置することの利点が、軍事と経済の両方面に及ぶということを強調しています。

なぜ人口を国土に広く分散させるべきか
ローマがイベリア半島に建設した植民市の一つアンプリアスの防壁、ローマの内戦においてポンペイウス陣営に味方したため、その敵のカエサルが勝利を収めた後で自治権を奪われ、中世にも襲撃を受けたために放棄される。Roman Wall, Empúries, 2005.
マキアヴェリはこうした古代の政策を復活させる必要があると確信していました。なぜなら、自然にまかせていると豊かな土地にばかり人が移動し、国土に人口配置の不均衡が生じると予想していたためです。この問題を放置すれば、防衛にとっても、経済にとっても不都合になるとマキアヴェリは考えていました。
「ある支配者が新たな占領地に設置した植民市は、外部の者に忠誠を守らせるための砦となり監視所となるからこそ、安全が実現するのである。のみならず、この制度がなければ、その地方全体に人を住まわせることも、その各地に人口をうまく配分することもできない。なぜなら、その地方の全部が肥沃な土地であり、あるいは健康な土地である、ということはないからである」(同上、134頁)
農業立地や工業立地の観点から考えて、経済的に成長しやすい地域が国土の一部に限定されやすいことは避けられません。特にその国家経済の中心部から遠く離れた地域になるほどその傾向は強まります。
しかし、この傾向は安全保障上最も重要な国境地帯をすべて無人地帯に変えてしまう危険があり、領土の実効支配を確保するという国家の政策にとって問題です。
さらに人がいない地域が衰退するという問題だけでなく、人口が過密になる地域では住宅環境の悪化などの側面で生活水準の低下が生じてくる危険性もあります。マキアヴェリはこの点について次のように述べています。
「そこである土地では人口が過多になり、ある土地では過小になる。もし過多になった土地から人口を引き抜いて、過小の土地に移さなければこの地方はまもなく荒廃する。人口が過小のところは荒れ果て、過多のところは貧しくなるからである。自然はこの乱調を埋め合わせることができないので、人の努力でそれを埋め合わせなければならない。そのことに多数の人々が一斉に取り組むことで、不健康な土地が健康な土地になるのである」(同上)
当時のイタリアに国土開発という概念はまだ存在していませんが、ここでマキアヴェリが提起している問題は国土開発にかなり近い内容を持っています。国家がその国力を伸ばすためには、ある程度のバランスの下に人口が分散配置されている必要があり、そうでなければ国土の全般的な改善を推進することは困難なのです。

むすびにかえて
現代の政治学者の多くは人口の移動や配置を政治学の中心的な課題とまでは捉えていません。しかし、常識的に考えれば、国家を統治していく上で人口が重要な国力の一要素であることは明らかであり、特に労働力人口の増減については経済成長や軍備増強を直接制約する可能性があることを考慮しなければなりません。

現代日本の少子化や地方の過疎化といった問題を「社会問題」という観点で見ていると、それが安全保障に与える影響にまで意識が及びません。しかし、マキアヴェリの議論は、これらの問題が安全保障の領域にも影響する可能性を示唆しています。

もとより国家の安全保障は軍備だけで成り立っているわけではありません。軍備をはじめとする国力の諸要素がバランスよく確保されていることで、はじめて国家は自らの存続を可能となるのです。

KT

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参考文献
マキァヴェッリ『フィレンツェ史(上)』 齊藤寛海訳、岩波書店、2012年

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