最近人気の記事

2015年12月26日土曜日

論文紹介 ISとの戦いでアメリカの地上部隊が必要な理由

2015年12月現在、国際テロリスト集団のイスラミック・ステート(Islamic State)は、イラク北部からシリアの領域を武力によって支配し続けています。昨年と比べれば状況は改善しつつありますが、イラク軍、アメリカ軍は依然としてその勢力圏を瓦解させるには至っていません。

今回は、アメリカ陸軍の立場からISに対する軍事戦略について考察した研究論文を紹介してみたいと思います。

文献情報
Johnson, David E. 2015. "Fighting the "Islamic State": The Case for US Ground Forces." Parameters, Spring, pp. 7-18.

オバマ政権が打ち出した戦略の間違い
この論文で著者が展開している議論の多くはオバマ政権の戦略に対する批判です。
著者は、アメリカがISとの戦いを対反乱戦(counterinsurgency war)として捉えているが、むしろ戦争として捉えることが必要であり、この戦争に勝利するためには地上部隊の投入が欠かせないと論じています。

著者の見解によれば、そもそも現在の政権が実施している戦略は、ISとの戦いを誤った視点で捉えています。2015年2月11日にオバマ大統領は議会でISとの戦いで用いられるべき自身の戦略について説明しており、その内容を検討すると、基本的な目標とはISの打倒であり、その方法としてイラクとシリアにおけるISに対する体系的な空爆、その手段としてイラクに対する限定的な航空勢力、顧問団、支援を提供することである、とされています(Johnson 2015: 8)。
さらに、第一線で戦う地上部隊についてはクルド人、スンニ派、シーア派の民兵、そしてイラン革命防衛隊がこれを支援するものと想定していました(Ibid.)。これらがオバマ政権のISの問題に取り組む上で採用した戦略構想の概要だったのです。

このオバマ政権の戦略は、アフガニスタン、イラクでの戦争でアメリカが採用したものと本質的に同一のものだと判断できます。著者はそれが反乱に対する戦略に過ぎず、ISとの戦いでは不適切だと述べています。
「今日、航空勢力とイラク陸軍の限定的な作戦はイスラミック・ステートを弱体化させ、彼らが広漠とした地域に進出する際に危険を強いている。その対策として、イスラム国は市街地に拠点を移しつつある。アメリカ空軍中将David Deptulaは段階的に実施される航空作戦でイスラミック・ステートを撃破することができると論じたことがあるが、上述したことは地上で新たな状況を引き起こしており、もはや空爆だけでは解決不可能な問題が生じているのである」(Ibid.: 8-9) 
ここで著者が紹介した見解が正しいのであれば、オバマ政権のISに対する戦略は必ず失敗するとは言い切れません。しかし、著者はこうした航空作戦の考え方に問題があると考えています。

なぜアメリカ陸軍の能力が必要なのか
著者がオバマ政権の戦略で懸念しているのは、市街地における空爆が必ずしも有効ではないという点です。
「イスラム国の戦闘員は今や自らの存在を占領する地域や都市住民に紛れさせて掩蔽することが可能である。彼らはガザ地区のハマスやフエにおける北ベトナム軍と類似しており、イラクやアフガニスタンで我々が戦ってきたタイプの反徒ではないのである」とも指摘されています(Ibid.: 9)。
現地勢力を地上部隊として間接的に利用することに依存したオバマ政権の戦略では行き詰まりになる可能性が大きいため、著者としてはアメリカ陸軍の部隊を投入する必要が大きいと判断しているのです。

この見解の根拠の一つとして著者は最近の事例を挙げています。それは2007年にブッシュ大統領が実施したイラクに対する3万名の増派です。
この時の増派では5個旅団が投入されましたが、そのことによって治安回復に成功しただけでなく、イラクにおける治安維持部隊の訓練を支援し、独立した作戦行動が可能な水準にまで育て上げることができました。この能力構築の成果がなければ、そもそも2011年のアメリカ軍の撤退を実現することは難しかったと述べられています(Ibid.: 13-4)。

著者によれば、ISの現在の戦闘力を分析すれば、これはイラク軍やシーア派の民兵の手に委ねることができるような脅威ではなく、彼らの能力で対応することができるという考え方には根本的な疑問が残ります。イラク軍がもしもISに敗北するようなことがあれば、ISはその戦果を世界各地での人員募集活動に活用し、アメリカ国内または同盟国の国内に危険が及びやすくなることになるという可能性も軽視されるべきではありません(Ibid.: 15)。

日本の安全保障との関係性について
著者の議論で興味深い部分の一つが、このISに対するオバマ政権の戦略が東アジア情勢を考慮するあまり、中東情勢の優先順位が低く設定されているという指摘です。この論点については次のように説明されています。
「イスラミック・ステートによるイラクに侵攻すれば、国家安全保障戦略と部隊配置の大幅な見直しを余儀なくされる。ここでの中心的な問題とは、アメリカが陸軍を直接戦闘に参加させない立場を堅持することによって、中東とそれ以外の地域におけるISとの戦いで期待される政策効果が得られなくなるということである。これは部分的には中国の台頭に対抗するために太平洋でリバランシングを行うという現在の戦略の結果である。中国の問題は重要ではあるが、とはいえそのことによってそれ以外の世界から関心を失うべきではない」(Ibid.: 16)
著者はアメリカ軍の部隊をアジア太平洋方面に集中することによって、中東方面の戦略に支障が出ていると指摘しているのです。これはアメリカ軍の戦略が常に世界戦略として展開されていることを再認識させるものです。ヨーロッパ、ラテンアメリカ、中東、アフリカ、南アジア、オセアニアなどで何か危機が発生すれば、アメリカ軍はこれに対応するために部隊を動かさざるを得ません。もしアジア太平洋地域でアメリカ軍が中国の台頭に備えようとすれば、それだけ世界の別の地域に配備できる勢力が低下するというジレンマがここで垣間見えます。

むすびにかえて
著者が指摘したように、ISの主力は空爆を避けて平野部から市街地に移動し、そこで地域防御の構えを見せているようです。このような防御者を撃破することが難しいことは確かにそうです。しかし、それが不可能であるかのように論じることは間違いであり、オバマ政権の戦略に対する著者の批判には問題があります。

市街地で敵がどれほど強固な防御陣地を構築したとしても、十分な規模の地上部隊があるならば、包囲網を形成することができます。一度このような攻囲を受ければ、外部からの増援と呼応しないと解囲は極めて困難となります。私は適切な規模の戦力と十分な時間をかければ、必ずしもアメリカ陸軍の部隊を投入しなくても、攻略することは可能であると考えます。
とはいえ、著者の最後の指摘は確かに重要です。結局、アメリカ軍の戦略は、いつ、どこで、どのようにアメリカ国民が戦うべきだと考えるのかによって影響を受けます。中東地域でのISに対するアメリカ軍の作戦も、東アジアやヨーロッパでの情勢と無関係ではありません。

KT

関連項目
論文紹介 NATO加盟国は対テロ作戦で団結せよ

0 件のコメント:

コメントを投稿