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2015年10月31日土曜日

陸軍の戦術で用いられる攻撃機動の五類型

戦場で攻撃を成功させるためには、地形と敵情を判断した上で、味方の部隊を敵の部隊よりも有利な態勢で交戦するように機動させることが重要です。
陸軍の戦術では機動の方式は包囲(envelopment)、迂回(turning movement)、浸透(infiltration)、突破(penetration)、正面攻撃(frontal attack)の五種類に区別されています。

今回は、それぞれの機動方式の定義と、その注意事項について簡単に述べてみたいと思います。

包囲:古典的な攻撃機動
包囲とは、攻撃する味方の部隊が防御陣地に配置された敵の部隊の側面または背後を主たる目標として行う機動の方式です。
味方の一部が敵の主力を正面に引き付け、味方の主力で敵の側面、背後を目指す包囲。
(FM3-21.8: 7-4)より。
包囲するためには、味方の部隊を少なくとも主攻と助攻に二分することが必要です。
また敵の側面や背後に接近することを可能にするための前進軸(攻撃前進に部隊が使用する接近経路)を発見するか、創出しなければなりません。通常、防御陣地を占領する敵はこうした包囲を受けにくい地形を利用することが多いため、包囲を行う際にはどのような経路を使用すべきか事前によく偵察を行う必要があります。

迂回:敵に転進を強要する機動
迂回とは、攻撃する味方の部隊が敵の部隊の後方地域の目標を攻略奪取し、もって敵の部隊に陣地の変更を強要させる機動の方式です。
迂回では敵が転進を余儀なくさせる後方地域の目標を目指して部隊を前進させる。
具体的には補給路、砲兵部隊の陣地、指揮所等が考えられる。
(FM3-21.8: 7-5)より引用。
一見すると迂回は包囲は似ていますが、戦術的には重大な相違があります。
包囲が敵の部隊との交戦を前提とする機動の方式ですが、迂回は交戦によらず敵に陣地の変更を強制するのです。
そのため、敵の部隊に新たな陣地へと移動させることが目標であり、撃破することは重視されていません。

浸透:いかに深く、速く前進するか
浸透とは、敵の部隊により占領された地域を通過する機動の方式であり、敵の後方地域にある目標を目指すものです。
浸透では敵の後方地域にある目標に向かって複数の見方の部隊が同時に攻撃前進を行う。
(FM3-21.8: 7-6)より引用。
浸透を成功に導くためには、敵が組織的な抵抗を強めるより先に味方の部隊が陣地帯を通過しなければなりません。
この攻撃機動は司令部で一元的に部隊の行動を統制することが難しいため、独立的に行動可能な小部隊が多数必要となります。歴史的にも、このような戦術が使用されるようになったのは、20世紀以降になってからであり、高い水準の戦闘訓練を事前に行う必要があります。

突破:弱点を見極めて戦力を一点に集中
突破とは、敵の防御正面の一カ所に味方の戦力を集中させ、その突破口を拡張しながら敵の後方地域や側面方向を目指す機動の方式です。
突破は突破口の形成、側面への攻撃による突破口の拡張、後方地域への前進という三段階で実施。
(FM3-21.8: 7-7)より引用。
突破は敵の部隊の側面を攻撃することができない場合か、他の機動をとるために必要な時間がない場合、また敵の防御正面が過剰に広がっているために特定の箇所に弱点が見いだされる場合にとられる機動の方式です。
突破で注意すべきは、突破した後に突破口をしっかりと確保することです。突破口が塞がれてしまうと、前進した味方の部隊は敵地で孤立することになってしまいます。(その典型的な事例として第一次世界大戦におけるホイットルセーの大隊の戦史があります。「事例研究 師団の過失とホイットルセーの戦功」)

正面攻撃:基本中の基本となる機動方式
正面攻撃とは、戦力で優勢な味方の部隊が劣勢な敵の部隊に対して攻撃を実施する際にとられる機動方式であり、広い正面に沿って圧倒的に優勢な戦力を展開することで選択できます。
正面攻撃は劣勢な敵の部隊に対して有効な機動の方式である。
(FM3-21.8: 7-8)より引用。
正面攻撃は最も単純な攻撃機動と言えるでしょう。注意すべき点としては、敵が最も戦闘力を発揮しやすい正面から突撃することになるため、損害見積を誤ってしまうと取り返しがつかない事態になります。そのため、事前に偵察、捜索によって、地形と敵情を十分に把握してから行うべきでしょう。

五種類の機動方式はそれぞれ任務、地形、敵情その他の各種状況に応じて選択されなければなりません。

例えば、広漠な地形に展開する敵は防御正面の戦力の密度が低下しやすいため、突破のような機動方式が有効である場合が多いと考えられます。
また、優勢な敵があえてその主力を後方地域に拘置している状況であれば、浸透のような機動方式で敵の陣地帯を迅速に通過しても、強力な逆襲によって撃退される危険があると考えなければなりません。

グデーリアンが「機動こそが勝利をもたらす」と述べた通り、優れた機動は戦闘の勝敗を分ける潜在力を持っています。全ての戦術家にとって機動の方法は重要な研究事項であり、特に攻撃を成功させる上では敵の意表を突くための機動が欠かせません。

KT

参考文献
U.S. Department of the Army. 2007. Field Manual 3-21.8: The Infantry Rifle Platoon and Squad, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

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