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2015年8月8日土曜日

歩兵部隊の戦闘陣形とその歴史的変化


歩兵は世界最古の戦闘職種であり、古来より陸上作戦の中心的存在であり続けてきました。
そのため、歩兵の戦闘陣形は武器装備の変化に応じて数多くの創意工夫が試みられてきた歴史があります。

今回は、近世末期から近代初期にかけて変化した歩兵部隊の戦闘陣形について説明したいと思います。

そもそも戦術学において陣形とは何のために形成されるのでしょうか。
陣形に関する考え方は時代によっても異なるのですが、第一次世界大戦当時の研究では次のようにその目的が説明されています。
「陣形を構成する目的とは、部隊を結合することであり、それは通常なら機動の前に、全体を見渡しやすい限られた空間において行われるものである。陣形を構成することは、行進を開始する前、戦闘を開始する前に、敵の射撃が及ばない場所から戦場に部隊を前進させるために、部隊の態勢を整える目的でも行われる」(Balck, 1915: 42)
もちろん、ここで述べているのは陣形全般のことであり、戦闘陣形についてはより細かい規定が求められます。戦闘陣形に限定した議論では、次のように説明されています。
「戦闘陣形はあらゆる武器(小銃、槍、騎兵刀、大砲)を使用することを可能にするものであるべきである。これは縦陣では行うことができず、横陣によってのみなしうる。近代的な火器の威力は、あらゆる密集した陣形が敵の効果的な射撃に晒されながら存在する余地をまったく許さないため、最も散開した展開が求められる」(Balck 1915: 43)
部隊を展開する方向として深さを優先すれば縦陣が、広さを優先すれば横陣が形成されますが、近代的武器の威力を考えれば、戦場で敵と縦陣で交戦することはできず、横陣で交戦すべきと考えられており、しかも各人の間には十分な間隔を確保する必要があることも指摘されています。

そのような戦闘陣形は具体的にはどのようなものなのでしょうか。
まず19世紀、普墺戦争でドイツ陸軍が使用した次の歩兵中隊の標準的な戦闘陣形を見てましょう。
上に向かって横陣に展開した独の歩兵中隊。
中隊長を先頭に、右翼から第一小隊、第二小隊、第三小隊の隊員が二列横隊の隊形で展開。
1個の歩兵中隊の定員は200名で、戦闘正面はおよそ80メートル。
一名当たりの正面は0.8メートル、前後もおよそ0.8メートルと通常間隔。
(Balck 1915: 47)より引用。
第一次世界大戦において小銃、機関銃、迫撃砲、その他さまざまな火器の射撃速度、誤差半径、殺傷能力が飛躍的に改善された事情を考えれば、このような密集に近い戦闘陣形で行動することは極めて危険であり、より兵士が散開する必要があると分かります。

この問題を解決したのが20世紀に各国陸軍で採用された散兵線(skirmish line)という戦闘陣形です。
19世紀までの歩兵戦術で散兵線の間隔はおよそ足で歩いて二歩の間隔で展開する横陣に過ぎませんでした。
しかし、第一次世界大戦以降の散兵線は厳密に間隔を定義されていないので、区別するために「近代的散兵線」と呼ぶことが適切かもしれません。

この戦闘陣形の特徴は、中隊ごとに行動するのではなく、分隊長に多くの指揮を委ね、分隊長を中心に分隊員が自在に地形地物に応じた場所へと移動することができる点にあります。散兵線に展開した分隊員は分隊長の命令に従って各自で攻撃前進を継続します。
したがって、散兵線に展開した小隊の行動は厳密に統制されておらず、さらに中隊長の統制は中隊としての攻撃目標や攻撃時期などを指示するという緩やかなものとならざるをえません。

こうした散兵線を使用した場合、分隊ごとの戦闘陣形を見ると次のような形態になります。
楔形に展開した分隊員の位置。
先頭から間隔をとって側面後方に分隊員が並ぶ。
(FM7-92: 3-4)より引用。
こうした分隊を組み合わせて親部隊の小隊も間隔を保持したまま次の図のように展開します。
この図では行進のため3個の分隊が縦に並んでいる。
敵との接触が予期される場合、先頭から数えて第二、第三の分隊が左右に展開する。
小隊として前進中の際には分隊ごとに20メートル前後の間隔を保つ。
(FM7-92: 3-5)より引用。
冒頭で述べたように、戦闘陣形の目的は戦闘力を発揮しやすいように「部隊を結合」させることです。
19世紀までの戦闘陣形はこの「結合」は極めて厳密な仕方で行われ、部隊を密集した形態で展開させていました。
しかし、近代的散兵線では「結合」の仕方に抜本的な変化が起こったと言えます。このような戦闘陣形は兵士一人ひとりの自発的な意思と判断力がなければ成立しえません。

最後に付け加えると、現代の陸上戦闘では戦闘陣形はなくなってしまったと思われることもありますが、それは戦闘陣形の形態の変化を見落としているがために生じる誤解と言えます。
歩兵部隊の戦闘陣形は広く散開し、より不規則な形態に変化しましたが、それは戦闘陣形が消滅したのではなく、新たな戦闘陣形の形態が発展したためであると考える必要があります。

参考文献
Balck, W. 1915. Tactics, Vol. 2. W. Kruger, trans. Fort Leavenworth: U.S. Cavalry Association.
U.S. Department of the Army. 1992. Field Manual 7-92: The Infantry Reconnaissance Platoon and Squad(Airborne, Air Assault, Light Infantry), Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

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