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2015年8月23日日曜日

文献紹介 ジョン・ボイドの空軍戦術


空軍の戦術を語る上でジョン・ボイド(John R. Boyd)の研究を避けて通ることはできません。
現在でも各国の空軍においてボイドが確立した戦術理論が教育されていることを考えれば、その影響はどれほど大きなものであったのかが分かります。

今回は、ボイドの著作の要点を紹介し、空軍戦術の基本的な論点について概観してみたいと思います。

文献情報
Boyd, John R. 1964(1958). Aerial Attack Study, Rev. Maxwell: Air University Library.

ボイドの軍歴は1945年に米陸軍に入隊したことに始まりますが、戦闘機の操縦士としてその能力を発揮するのは1951年に再入隊した後のことでした。
朝鮮戦争の航空戦でボイドはF-86の戦闘機の操縦士として実戦を経験し、後に配属された米空軍武器学校で教官として戦術の研究に着手します。

ボイドは操縦士として優れた能力を持っていただけでなく、それを理論として体系化する能力も兼ね備えており、今回紹介した『航空攻撃研究』はその研究成果をまとめたものでした。
ジョン・ボイド(1927-1997)は米国出身の研究者。
米空軍で戦闘機操縦士として朝鮮戦争での作戦に参加した経験を持つ。
その優れた研究成果は、その後の空軍戦術に大きな影響を与えた。
まずボイドは対航空戦の戦術には、戦闘機と爆撃機の交戦のための戦術と、戦闘機と戦闘機の交戦のための戦術、という二つの異なる局面があると考えました。
戦闘機と爆撃機が戦う場合、機動力に優れた戦闘機がいかに爆撃機という目標を効果的に攻撃するのかが戦術の問題となります。
しかし、戦闘機と戦闘機が戦うとなると、互いに相手を攻撃するため積極的に機動するため、より詳細な戦術の分析が必要となります。

つまり、ボイドは空軍の戦術を研究を始める上で、非機動性の目標に対する攻撃と、機動性の目標に対する攻撃という二分法で考えることから始めたのです。

一般に空軍士官たちは敵機の背後に自機を占位させることこそが、戦術の最も重要な要素であることを既に知っていました。
ボイドもその有名な原則を自らの考察に取り入れていますが、そこから発展させてボイドは戦闘機の操縦士にとって爆撃機を攻撃する場合と戦闘機を攻撃する場合では異なった考え方が必要だとも考えていました。
対航空戦において攻撃に適した位地を示した図。
敵機の背後に想像上の円錐の底辺は攻撃可能な位置を大まかに表している。
(Boyd 1964: 37)より引用。
「空対空戦闘における成功は、自らの火力を使用できる位置に自機を占位させる操縦士の能力にかかっているが、戦闘機対爆撃機の戦闘だと、時間が重要であり、また成功の尺度としても考えることができる。つまり、爆撃機が所定の目標を破壊しようとしているとすると、我々はその火力を指向できる位置を占位するだけではならず、その爆撃機が爆弾を投下する地点に到達する前に占位しなければならないのである」(Boyd 1964: 31)
ボイドは爆撃機を攻撃するための方法として敵機の上方から照準しやすい側面へと機動して攻撃する方法(ロール・スライド)と、敵機の正面から背後に回り込むノーズ・クォーターが検討されています。

ロール・スライド攻撃の機動の図解。
(Boyd 1964: 32)より引用。
ノーズ・クォーター攻撃の機動の図解。
(Boyd 1964: 34)より引用。
このように、何よりも迅速さが要求される爆撃機の攻撃と比較すると、戦闘機との交戦では攻撃だけでなく防御の問題が生じてより複雑となります。
自らの火力を使用可能な位置に自機を占位させるだけでなく、敵がそのような位置を占めることを回避しなければなりません。
「戦闘機対戦闘機を議論する中で、我々はあらゆる機動における旋回と速度の重要性を強調してきた。攻撃されている操縦士は単純に敵から逃れることはできないだろう。操縦士はミサイルの発射もしくは20ミリ機関砲による攻撃が命中することを防止するために十分な速度と角度をとらなければならない。このことは、「高速戦術(High-Speed Tactics)」」と「低速戦術(Low-Speed Tactics)」に区別することはできないことを意味している。なぜなら、その機動と能力の全体が考察されなければならないためである」(Boyd 1964: 146)
ボイドが検討している攻撃方法、防御方法は多岐に渡るためすべてを紹介することはできませんが、現在でも有名な防御方法であるシザーズに関するボイドの分析を紹介します。

シザーズの機動の図解。
(Boyd 1964: 57)より引用。
シザーズは攻撃してきた敵機の針路に対して自機の進路が交差するように旋回を繰り返す機動であり、敵機の射線から自機を外させ、敵機を自機の前方に追い越させるように強いる防御方法の一種です。
ボイドはシザーズの要領を簡単にまとめた上で、この機動を次のように分析しています。
「シザーズ機動の議論において、我々はそれが攻撃機のオーバーシュート(over-shoot、追い越しの意味)の有利をとるように編み出された防御的な機動であると述べた。(中略)シザーズ機動に対抗する方法を知るためには、我々は防御機に対して相対的な攻撃機の機動能力をまず確定しなければならない。つまり、攻撃機は速度において重大な不利があるとしても、攻撃機がその速度を適切に活用する方法を知っていれば、この不利は有利へと変化する」(Boyd 1964: 58)
この分析は航空戦闘における戦術の重要性を私達に示唆しています。
一般に対航空戦では機動力に勝る機体が優位であると思われるかもしれません。
しかし、攻撃を仕掛ける戦闘機が相手よりも高速で接近し、これに対して敵がシザーズ機動を仕掛けてくるとどうなるでしょうか。
敵機がシザーズをすると自機もそれを追いかけて旋回しなければなりませんが、自機の速度が相手より高速だと敵機をすぐに追い越し、つまりオーバーシュートしてしまい、敵機が自機に対して攻撃できる態勢になってしまうのです。

最後に、ボイドはその後さらに空軍戦術の研究を進め、その研究成果はエネルギー機動性理論としてまとめられることになります。
確かに、現在の技術環境を考えれば、ボイドの考えた戦術のいくつかは時代遅れとなっている部分も見られます。
しかし、航空作戦の方面においてボイドは先駆的かつ独創的な戦術家であり、ここで紹介した著作はその後のボイドの研究の出発点となったことは広く知られる価値があると思っています。

KT

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