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米海軍の即応態勢を劣化させた原因の究明が進められている

9月1日、防衛研究所が2020年8月号のブリーフィング・メモとして「米海軍の即応態勢は何で決まるか」と題する資料を発表しています。 米国政府の報告書を検討し、 最近の米海軍の水上部隊の即応態勢を悪化させている要因を明らかにしようとする内容です 。水上部隊の戦闘力の維持を考える上で興味深い内容だったので、その要点をまとめて紹介します。 押手順一「米海軍の即応態勢は何で決まるか:艦艇、乗員、工廠、展開計画」ブリーフィング・メモ、防衛研究所、2020年8月号 このブリーフィング・メモが興味深いのは、これまで国防予算を議論する際に前提とされてきた考え方を見直す必要があることが示されている部分です。 これまでの海軍整備計画の議論では、艦艇数や乗員数は部隊の量を、装備の近代化は部隊の質を、そして艦艇の整備や乗員の訓練は部隊の即応態勢を決める要素と見なされてきました。この考え方に従うならば、それぞれの要因が独立して戦闘力に影響を及ぼすので、部隊の規模を抑制したとしても、装備の近代化や即応態勢の強化を十分に実施しておけば、部隊の戦闘力を結果として維持できると考えることができます。 しかし、(1) 兵員や艦艇の数だけで戦力の規模を見ることができないこと 、そして(2) 戦力の規模をある程度確保しなければ、即応態勢を維持することも難しくなること が、この資料で解説されており、やはり戦力の数的規模を十分に確保しなければ、即応態勢を維持することが難しいとの見方が示されています。 まず、部隊の規模についてですが、海上戦力の規模を決める艦艇の数に関して、米海軍は長期にわたって削減を進めてきました。米ソ冷戦が終わる1990年代までの米海軍は500隻から900隻ほどの艦艇を保有していましたが、2015年に271隻にまで削減されており、2020年でも298隻しか保有していません(p. 2)。海外に展開する艦艇の規模は約100隻と変化していないのですが、米海軍の戦力全体の中で海外展開に従事する艦艇の割合は大幅に増加していることが指摘できます(Ibid.)。それだけ艦艇を長期にわたって展開する必要が出てくるため、艦艇の損耗も激しくなり、整備の負担も増加しやすくなります。これは即応態勢を維持する上で障害となる問題だと指摘されています(Ibid.)。 戦力規模を決める乗員の数についてですが、こちらも米海軍で...

文献紹介 尖閣諸島で戦争が勃発する恐れがある時、米軍はどう動くべきか

ブルッキングス研究所の マイケル・オハンロン(Michael E. O'Hanlon) は、2019年の著作『 尖閣パラドックス(The Senkaku Paradox) 』において、局地的な小規模・限定的な武力攻撃であっても、それが短期間で急激なエスカレーションを引き起こし、大規模な全面戦争を引き起こす危険が高まっていると警告しています。 Michael E. O'Hanlon,  The Senkaku Paradox: Risking Great Power War Over Small Stakes , Brookings Institution Press, 2019. エスカレーションの問題 国際的な対立が深まっている状況においては、一方の大国が他方の大国に意図的な武力攻撃を加えると、それが極めて小さな規模であったとしても、大規模な武力衝突にエスカレートするリスクがあります。現在の世界ではバルト三国に対するロシアの攻撃や、東シナ海の尖閣諸島に対する中国の攻撃がエスカレーションの引き金を引く可能性があると著者は懸念しています。 米国の立場で状況を分析すると、前述したロシアと中国のどちらの武力攻撃も米国ではなく、米国の同盟国に向けられることが想定されます。 このような武力攻撃は米国にとって同盟国を見捨てるのか、それとも同盟国を防衛するために自国が戦争に巻き込まれるリスクをとるのか選択を迫るという共通点があります。 現在の米軍の戦略としては、バルト三国のような北大西洋条約機構の加盟国に対する武力攻撃は、米国に対する武力攻撃と同じように断固とした態度で軍事的手段により対処することになっていますが、これは事態をエスカレートさせる可能性があり、それは最悪の場合には核兵器の使用も含めた全面戦争に突入することを覚悟することを意味しています。 軍事的打撃と経済的打撃の併用 この著作のタイトルである「尖閣パラドックス」とは、東シナ海の小さな無人島である尖閣諸島に対する武力攻撃が中国によって行われた場合、米国は同盟国を防衛するという義務を果たすためにあまりにも大きなコストとリスクを引き受けなければなりませんが、見捨てるわけにもいかないという状況を表した言葉です。 この問題を解決するためには、小規模かつ局地的な武力攻撃に対して、エスカレーションを制御しながら断固...

論文紹介 自衛隊も接近阻止/領域拒否(A2AD)を重視すべきか

近年の東アジア地域の安全保障環境において、日本が検討すべき戦略として接近阻止/領域拒否( A2AD )を挙げている研究者がいます。つまり中国軍が対米戦略として採用している戦略を日本としても採用することにより、少なくとも中国軍の海洋への進出を手詰まりに追い込むことができるという考え方です。 今回は、戦略研究の観点から日本の戦略として接近阻止の重要性を考察した論文の内容を紹介し、その意義と限界について考察したいと思います。 論文紹介 Toshi Yoshihara. 2014. Going Anti-Access at Sea: How Japan Can Turn the Tables on China , Maritime Strategy Series, September, Washington, D.C.: Center for New American Security. http://www.cnas.org/sites/default/files/publications-pdf/CNAS%20Maritime2_Yoshihara.pdf (Accessed 2016/3/11) 近代化する中国軍の脅威 052D型駆逐艦。現在、中国海軍で配備が進められているミサイル駆逐艦。 主要な兵装はHHQ-9であり、諸説あるが射程200km、32セルのVLSが2基搭載。 近年の日中間の勢力関係について著者は、基本的に日本が不利であるという見方を示しています。 中国海軍は着実に戦力規模の拡大を続けており、2000年から2010年にかけて攻撃型潜水艦は5隻から31隻に、初の航空母艦として遼寧が配備されただけでなく、ソブレメンヌイ級駆逐艦もロシアから4隻調達しました(Yoshihara 2014: 4)。 また中国海軍の052D型駆逐艦の性能は、海自のこんごう型護衛艦に匹敵するとさえ述べられています(Ibid.)。 また戦力を整備するだけでなく、中国海軍は2008年以降に東シナ海から太平洋に向けて繰り返し航行するようになっており、2013年には初めて水上任務群が日本列島の周航を行うことにも成功しました(Ibid.)。また2013年に中国政府は一方的に防空識別圏の設定を通告し、外国の航空機に飛行計画の提出を要求しただけでなく、この防空...

論文紹介 海洋戦略の観点から見た日本の島嶼防衛

現在の日本が採用している防衛戦略は、武力攻撃に際して米軍が早期に来援できることが前提となっているため、沖縄に位置する米軍基地を敵から防護し、増援部隊が速やかに沖縄に展開できる状況を創出することが重要です。つまり、南西地域の島嶼部を防衛することが自衛隊の任務となります。 今回は、海洋戦略の視点からこの南西諸島の防衛に当たって日本がとりうる戦略を研究した研究ノートを取り上げ、その要点を紹介してみたいと思います。 文献情報 Sayers, Eric. 2013. "Coastal Defense in Japan's Southwestern Islands: Force Posture Options for Securing Japan's Southern Flank," The Project 2049, Futuregram , 13-001, pp. 1-8. 海洋戦略から見た日本の防衛戦略 近年、中国が海洋への進出を活発化させていることを受けて、2010年に日本はこれに対抗するために南西地域を防衛の重点地域に定めたことはすでによく知られています。 この論文はこの問題を考察するためにティル(Geoffrey Till)という海洋戦略の研究者の説を参照しています。 ティルの研究によれば、海洋に面した国家がその国土を防衛する上で考慮すべき事項として、第一に抑止、第二に沿岸防衛、第三に沖合防衛、第四に水際防衛が挙げられています。戦略上の防衛線を海上から段階的に陸上に移行させながら抵抗するという考え方が求められるということです。 著者はこのティルの多層的な防衛線の考え方を応用し、日本が南西地域を防衛するための戦略を次のように分類して考察しています。 (1)トリップワイヤ的抑止戦略 (2)非対称性「モスキート艦隊」戦略 (3)包括的「領域拒否」戦略 トリップワイヤ的抑止とは (1)は、南西諸島それ自体を防衛線とする案として位置付けることができます。すなわち、洋上監視能力の強化と離島に配置する地対艦ミサイルを組み合わせることで、島嶼部に進出する敵艦隊の接近を早期に察知すると同時に、これが東シナ海からフィリピン海に進出することを地上から妨害するという構想です。 南西諸島の地勢図。 九州と台...