トルコはヨーロッパとアジアの中間に位置する国であり、米ソ冷戦の時代から北大西洋条約機構(NATO)を通じてアメリカと同盟関係を結んできた歴史を持っています。
ところが、近年のトルコ外交ではアメリカと距離を置く動きが見られ、研究者の間でトルコの対米政策が将来的にどのように変化する可能性があるのか、その変化がアメリカの戦略にどのような影響を及ぼすのかに注目が集まっています。
今回は、この問題に関するアメリカでも有数のシンクタンクであるランド研究所(https://www.rand.org/)の報告書を取り上げ、その内容を紹介したいと思います。
その目的は、アメリカの国防政策や外交政策への影響を見積もることにあり、中東地域におけるアメリカ軍の戦略も考察されています。
まず、結論として著者らが述べているのは、トルコは依然としてアメリカとの安全保障上の協力関係を重視しているものの、その関係には今後も不確定な要素が存在し続けることが予測されるということです。
そのため、アメリカは長期的な視点で相互理解と国際協力を強化する対トルコ政策を用意しなければならないと提案されています。
そもそも、トルコとアメリカの関係は冷戦期にソ連の脅威に対してバランシング(勢力均衡の安定性を維持する目的で行われる軍事的、外交的手段に基づく対抗政策)する目的で強化されてきました。
冷戦初期のトルコは単独でソ連の軍事力に対抗することが難しく、軍備拡張のための武器や装備の援助を必要としていたので、アメリカを中核とする北大西洋条約機構に加わることには安全保障上の利点がありました。
冷戦終結後もアメリカ軍はトルコの領土に軍事基地を維持しており、トルコ軍もアメリカが提供する武器や装備に依存しています。
したがって、近い将来にトルコがアメリカとの同盟を解消するようなことは考えにくく、少なくともトルコ軍がアメリカ軍との協力関係に依存し続けている間は、現在の状況が続く可能性が非常に高いと考えられます。
しかし、アメリカとトルコの利害は冷戦期ほど一致しなくなっているという現実も著者らは指摘しています。今後、両国関係がますます不安定になる可能性はあることも認識しておかなければなりません。
興味深いのはトルコがロシアとの関係を強化しつつあるということです。
ロシアもトルコと戦略的な友好関係を結ぼうと積極的に動いており、その一環としてロシア製の装備の提供も始まっています。これはアメリカ軍の装備体系を導入しているトルコ軍にとって見れば、軍事的な合理性はあまりないため、外交的な配慮に基づく動きと理解することができます。
著者らはロシアとトルコとの間には利害対立があり、特にコーカサス・中央アジアの方面で問題が残っていると判断しています。
それでもトルコがロシアとの関係を強化する動きを見せているということは、アメリカとの関係を相対的に弱めてでもロシアとの関係を深めることに価値があると判断されていることを示しています。
現在の中東情勢でアメリカは核開発を図るイランに対して経済的、軍事的圧力を強めていますが、イランの問題に関してトルコはアメリカとまったく異なった見方を持っています。
この理由はトルコがクルド人の脅威についてイランと同じような認識を持っているためだと説明されています。
クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランにまたがって存在する民族であり、特にトルコとイランは国内のクルド人勢力が分離独立を図る危険性を憂慮しています。
アメリカにとってイランは軍事的脅威でしかありませんが、トルコにとってイランは安全保障上の利害を共にする国家です。
例えばアメリカ軍がイランに対する武力攻撃に踏み切ったとしても、トルコがアメリカに軍事的に協力する可能性は低いと考えられます。
イランが弱体化することは、クルド人の勢力が地域で台頭する好機となるリスクがあり、それはトルコにとっても脅威をもたらす可能性が高くなるためです。
第一の短期的観点から見れば、トルコとアメリカは依然として緊密な防衛協力関係を結んでおり、直ちにトルコがアメリカとの同盟関係を解消するとは考えられません。
少なくとも形式として北大西洋条約機構の加盟国としての地位を保持し、トルコはアメリカからの武器や装備の提供を受け続けるでしょう。
しかし、長期的観点から見れば、トルコとアメリカの利害が相反する事態が増加する可能性があることを考慮しなければならないでしょう。
トルコとロシアの関係がどこまで強化されるかという点について著者らはロシアとの対立が抜本的に解消されることはないと判断したことは上述した通りです。
イランとの関係についても、クルド人勢力という共通の脅威が存在し続ける限り、トルコはイランとの関係を望み続けるでしょう。
ところが、近年のトルコ外交ではアメリカと距離を置く動きが見られ、研究者の間でトルコの対米政策が将来的にどのように変化する可能性があるのか、その変化がアメリカの戦略にどのような影響を及ぼすのかに注目が集まっています。
今回は、この問題に関するアメリカでも有数のシンクタンクであるランド研究所(https://www.rand.org/)の報告書を取り上げ、その内容を紹介したいと思います。
論文情報
- Stephen J. Flanagan, et al. 2020. Turkey's Nationalist Course Implications for the U.S.-Turkish Strategic Partnership and the U.S. Army, RAND Corporation.(https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR2589.html)外部リンク:RAND Corporation.
今後も同盟関係が維持される可能性は高い
この研究の狙いは、トルコの国内政治で起きている変化を踏まえ、対外政策がどのような方向に変化するのかを分析することにあります。その目的は、アメリカの国防政策や外交政策への影響を見積もることにあり、中東地域におけるアメリカ軍の戦略も考察されています。
まず、結論として著者らが述べているのは、トルコは依然としてアメリカとの安全保障上の協力関係を重視しているものの、その関係には今後も不確定な要素が存在し続けることが予測されるということです。
そのため、アメリカは長期的な視点で相互理解と国際協力を強化する対トルコ政策を用意しなければならないと提案されています。
そもそも、トルコとアメリカの関係は冷戦期にソ連の脅威に対してバランシング(勢力均衡の安定性を維持する目的で行われる軍事的、外交的手段に基づく対抗政策)する目的で強化されてきました。
冷戦初期のトルコは単独でソ連の軍事力に対抗することが難しく、軍備拡張のための武器や装備の援助を必要としていたので、アメリカを中核とする北大西洋条約機構に加わることには安全保障上の利点がありました。
冷戦終結後もアメリカ軍はトルコの領土に軍事基地を維持しており、トルコ軍もアメリカが提供する武器や装備に依存しています。
したがって、近い将来にトルコがアメリカとの同盟を解消するようなことは考えにくく、少なくともトルコ軍がアメリカ軍との協力関係に依存し続けている間は、現在の状況が続く可能性が非常に高いと考えられます。
両国の利害が対立する場面は増えている
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| 中東の政治地図においてクルド人が居住する領域を明るく示している。後述するように、トルコにとってクルド人勢力は最大の安全保障上の課題であり、このトルコの認識がアメリカとトルコの外交関係にも影響を及ぼしていることが指摘されている。 |
興味深いのはトルコがロシアとの関係を強化しつつあるということです。
ロシアもトルコと戦略的な友好関係を結ぼうと積極的に動いており、その一環としてロシア製の装備の提供も始まっています。これはアメリカ軍の装備体系を導入しているトルコ軍にとって見れば、軍事的な合理性はあまりないため、外交的な配慮に基づく動きと理解することができます。
著者らはロシアとトルコとの間には利害対立があり、特にコーカサス・中央アジアの方面で問題が残っていると判断しています。
それでもトルコがロシアとの関係を強化する動きを見せているということは、アメリカとの関係を相対的に弱めてでもロシアとの関係を深めることに価値があると判断されていることを示しています。
現在の中東情勢でアメリカは核開発を図るイランに対して経済的、軍事的圧力を強めていますが、イランの問題に関してトルコはアメリカとまったく異なった見方を持っています。
この理由はトルコがクルド人の脅威についてイランと同じような認識を持っているためだと説明されています。
クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランにまたがって存在する民族であり、特にトルコとイランは国内のクルド人勢力が分離独立を図る危険性を憂慮しています。
アメリカにとってイランは軍事的脅威でしかありませんが、トルコにとってイランは安全保障上の利害を共にする国家です。
例えばアメリカ軍がイランに対する武力攻撃に踏み切ったとしても、トルコがアメリカに軍事的に協力する可能性は低いと考えられます。
イランが弱体化することは、クルド人の勢力が地域で台頭する好機となるリスクがあり、それはトルコにとっても脅威をもたらす可能性が高くなるためです。
まとめ
この研究成果によれば、トルコとアメリカの関係は二つの視点から考えなければなりません。第一の短期的観点から見れば、トルコとアメリカは依然として緊密な防衛協力関係を結んでおり、直ちにトルコがアメリカとの同盟関係を解消するとは考えられません。
少なくとも形式として北大西洋条約機構の加盟国としての地位を保持し、トルコはアメリカからの武器や装備の提供を受け続けるでしょう。
しかし、長期的観点から見れば、トルコとアメリカの利害が相反する事態が増加する可能性があることを考慮しなければならないでしょう。
トルコとロシアの関係がどこまで強化されるかという点について著者らはロシアとの対立が抜本的に解消されることはないと判断したことは上述した通りです。
イランとの関係についても、クルド人勢力という共通の脅威が存在し続ける限り、トルコはイランとの関係を望み続けるでしょう。
執筆 武内和人(https://twitter.com/Kazuto_Takeuchi)
文献案内
- Fatma Aslı Kelkitli. 2017. Turkish-Russian Relations: Competition and Cooperation in Eurasia, Routledge.(Amazonリンク)ユーラシア大陸を視野に入れながらトルコとロシアとの関係を検討しており、南コーカサス、中央アジア、黒海、クルド・チェチェンなどの問題が取り上げられています。
- Flanagan, Stephen J., “The Turkey-Russia-Iran Nexus: Eurasian Power Dynamics,” Washington Quarterly, Vol. 36, No. 1, 2013, pp. 163–178. DOI: 10.1080/0163660X.2013.751656:ユーラシア大陸の勢力としてトルコ、ロシア、イランの関係を分析した研究論文ですが、閲覧は有料です。

