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2018年5月18日金曜日

論文紹介 日本は日米同盟にどこまで頼るべきか―連合エアシー・バトル構想を考える―

中国の軍事的台頭に対して日本としては米国との同盟を強化することで対応しようとしていますが、米軍に依存するのではなく、必要な範囲で自衛隊の能力を高め、日米共同作戦を遂行する体制を整えることも重要だと論じられてきました。

しかし、中国軍の脅威に対して日米の防衛協力体制をどのように構築すべきかについては検討すべき課題が多く残されており、専門家の間でもさまざまな意見が分かれています。

今回は、こうした課題を考える一助として、日米防衛協力をさらに推し進めることを構想する連合エアシー・バトルの議論を取り上げ、その内容について若干の批判を付したいと思います。

文献情報
Takahashi, Sugio. 2012. "Counter A2/AD in Japan-US Defense Cooperation: Toward 'Allied AirSea Battle'," Project 2049 Institute, Washington, D.C., pp. 1-9.

中国軍の何が脅威なのか、何が必要なのか
中国が海洋進出を図る上で東シナ海は戦略的要域に当たる。この海域の東端には日本の領土である南西諸島が位置するが、中国の戦略として武力衝突も辞さず支配を奪うことは意図しているわけではない。その狙いは「漸進的拡大」にあり、時間をかけて好機を捕捉しながら段階的、漸進的に勢力を拡大することにあると著者は指摘する。
著者が構想する連合エアシー・バトルは、一貫して中国軍を脅威と想定しているものですが、この脅威には二つの異なる側面があるという判断によって基礎付けられています。

一つは接近阻止・領域拒否(A2/AD)と称される脅威であり、これは研究者によってよく議論されています。

もう一つは漸進的拡大(creeping expansion)と呼ばれる脅威であり、より厳密には「機会主義的漸進的拡大(opportunistic creeping expansion)」と呼ばれています(Takahashi 2012: 3)。

これは長い時間をかけて好機を捕捉しながら漸進的に勢力拡大を図る作戦であり、特に東シナ海で中国が小規模かつ局地的な活動を長期にわたって継続していることが念頭に置かれています。

著者はA2/ADの問題を考慮したとしても、この漸進的拡大の問題も軽視することができないものです。

日本は2010年に策定した「防衛計画の大綱」で動的防衛力という言葉を使い、東シナ海における洋上監視の体制を強化する姿勢を明らかにしたことは、こうした問題意識に基づく措置でした(Ibid.)。

しかし、中国軍のA2/ADと漸進的拡大に対して同時に備えることはできません。これらは性質が異なる脅威であり、軍事的な対応に異なる装備や能力が必要となるためです。

こうした問題に対して著者が提案しているのが日米防衛協力の枠組みを発展させた連合エアシー・バトルであり、これは自衛隊と米軍を有機的に連携させることを目指しています。

連合エアシー・バトルの構想

連合エアシー・バトルの概念図、米軍と自衛隊の能力を航空作戦、海上作戦でそれぞれ組み合わせることが構想されている。さまざまな分野において日米が協力できる機能があり、それらを組み合わせることで全体の防衛態勢を強化することが期待できる(Ibid.: 7)
連合エアシー・バトルの基本構想は自衛隊と米軍の任務を分担させることにあります。
著者自身はこの構想を次のように説明しています。
「つまり『動的抑止(dynamic deterrence)』とは、東シナ海における自衛隊の活動を増加させることによって、『抑止の窓』を閉じるために構想されるものである。この文脈において米国の日本における軍事的プレゼンスは、自衛隊と米軍の部隊の共同配置、共同・合同演習、協働ISR活動を通じて、その『窓』を閉じるように自衛隊の活動を強化し、また『動的日米防衛協力(U.S.-Japan defense coorporation)』を拡大する」(Ibid.: 6)
ここで著者が述べる日米防衛協力の狙いは、漸進的拡大が低烈度紛争を経て大規模紛争にエスカレートしていく際の軍事的対応を切れ目なく実施することであり、これが脆弱性の窓を閉じることに寄与すると著者は考えています。

つまり、自衛隊だけでA2/ADの脅威を及ぼす中国との大規模紛争に対応しないという前提の上で、日米防衛協力の強化が目指されており、具体的な内容としては米軍による対中作戦を自衛隊として支援することが構想されているのです。

著者の見解によれば、前方基地の強靭性(resiliency)を高めることが自衛隊として特に重要なことだと考えられており、中国軍のA2/ADの射程圏内に位置する基地施設について次のように述べています(Ibid.: 8)。
「戦域内の地上基地から発信する航空部隊の強靭性はさまざまな方法で改善することができる。戦闘機に基づく防空に加えて、ミサイル防衛のような積極的防空、施設の耐久力強化や戦域内の基地にまたがる分散配置のような消極的防空は、強靭性を高める上で取り得る措置である。日米防衛協力の文脈において、ミサイル防衛のより緊密な協力、空自の防空作戦と米空軍の航空打撃作戦の連携、両国の戦闘機部隊による空軍基地の共同使用は、より強靭な抑止態勢の構築に寄与するだろう」(Ibid.)
つまり、米軍が対中作戦を遂行する上で重要な基地機能を日本の防衛力で掩護するという著者の連合エアシー・バトル構想は、日本が従来から掲げてきた路線と本質的に変わっていないという印象があります。

日米同盟をさらに強化することにより、より多元的な中国軍の脅威に対応しやすくなることは理解できますが、自衛隊の任務を漸進的拡大への対応に特化させることの利点が示されているものの、欠点について十分に考慮されているとは言えません。

米軍を過度に期待せず、独力対処を基本とすべき

連合エアシー・バトルの内容を理解すれば、自衛隊が楯となり、米軍が矛となるという冷戦期依頼の日米同盟の基本構想が維持されています。

そして、東シナ海を中心に洋上監視活動をさらに強化し、米軍の対中作戦のために基地機能の防衛に注力すべきという方針が導かれます。

しかし、これが果たして日本の戦略として適切なものかどうかについては慎重に検討する必要があるところです。

この研究で気になるのは、複数の国家が参加して遂行される連合作戦が、実際にどれほど外交的、軍事的な障害に直面することになるのかほとんど言及されていないことです。

連合作戦にもいくつかの形態がありますが、共通の戦闘正面を持つ連合作戦を考える場合、作戦遂行で高度な指揮の統一が通常求められます。

指揮系統が未統一のまま烈度が高い戦闘状況に入ると円滑な作戦行動に支障を来すだけでなく、火力運用、兵站支援、情報作戦など幅広い分野で調整が必要になり、作戦の進展を妨げます。

日米で指揮系統の統一問題が政治の力で完全に解決されない限り、自衛隊は独力で作戦を遂行することを準備すべきであり、特に日本の防衛に不可欠な海上優勢と航空優勢の獲得においては、この方針を安易に動かすべきではありません。

ところが、著者は連合エアシー・バトルの構想によって、中国軍のA2/AD能力に対抗する際に「乗数効果」が得られるとして、次のように述べています。
「『連合エアシー・バトル』の構想は日米防衛協力を前進させる上で重要である。航空と海上作戦の両方の領域において、日米協力は大きな乗数効果(force multipler)をもたらし得る。A2/AD能力への対抗手段はこれら二つの側面から構築されるべきである」(Ibid.: 9)
確かに、軍事バランスにおいて部隊の規模や装備の性能だけでなく、作戦運用の巧拙が影響を及ぼすことは理論上あり得ることです。

しかし、日米防衛協力を前進させたからといって、自衛隊と米軍の戦闘効率が向上できると考えることは明らかに間違っており、少なくとも軍事理論で考えられる乗数効果の意味で理解することができません。

これは結局、自衛隊の弱点を米軍の能力で補完しているに過ぎないため、軍事バランスを維持する上で必要な戦力を日米のいずれかが増強しなければ、いずれ中国にとって優勢な軍事バランスに移行していくことが予測されます。

むすびにかえて

この研究が出てから5年が経過しているため、日本を取り巻く安全保障環境にも変化がありました。

しかし、その事情を差し引いたとしても、連合エアシー・バトル構想は米軍に頼るところが過大であり、また日本が本来であれば取り組むべき軍事バランスの安定化という問題をあまりにも米国に押し付けている側面が否めないのではないかという疑問が持たれます。

最近のA2/ADに関する研究で米軍が対中作戦として構想してきたエアシー・バトルには技術的理由から実行可能性の面で問題があるという研究も紹介されています(武内 2018: Ch. 1)。

この見解が正しいとすれば、米軍の対中作戦能力にも限界があり、日米防衛協力の強化で中国軍に対する必要な抑止力が得られるわけではないことになります。

結局、日本の防衛に対して責任を負う自衛隊に必要な能力を持たせることが必要な対策なのだと思います。

日米同盟の強化は進めながらも、軍事的に米軍の能力を頼りにする度合いは可能な限り小さくなるように必要な予算を確保すべきであり、その水準は自衛隊が遂行すべき任務と、直面する脅威の形態、規模を反映すべきでしょう。

KT

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参考文献
武内和人『軍事学を学ぶ 2018年4月号: 中国軍のA2/ADをめぐる研究の最前線』(Kindle版)国家政策研究会、2018年4月