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2018年7月27日金曜日

学説紹介 軍隊における上官との付き合い方―米海軍におけるフォロワーシップ―

組織の中で仕事を進める際に多くの人が悩むのが上司との関係です。
これは軍隊においても当てはまる問題であり、仕事の進め方や対人関係をめぐって対立することは珍しいことではありません。

数万名、数十万名という組織を運営しなければならない軍隊にとって、これは決して小さな問題ではなく、上官と部下の関係を適切に処理するためのテクニックについてさまざまな議論が行われています。

今回は、米海軍の参考書を参照しながら、フォロワーシップに関する議論を紹介し、部下が上官とどのような姿勢で付き合うべきなのかを考えてみたいと思います。

フォロワーシップの基本原則

上官に対する部下の姿勢、態度についてはフォロワーシップ(followership)という言葉でよく議論されています。
これはリーダーを「補佐する」能力と誤解されることもありますが、言葉に沿って厳密に定義するならば、これは「服従する」能力といえます。

つまり、フォロワーシップは制度上の指揮系統の中で命令を受ける立場にある人間がどのようにふるまうべきなのかを明らかにするために使われる概念なのです。

フォロワーシップの原則についてはリーダーシップの文献で取り上げられることが多いのですが、例えば「リーダーシップだけでは十分ではない」という論文でまとめられているフォロワーの原則は次のように紹介されています。
「よいフォロアーとは、
(1)自己の仕事とそれがいかに部隊の使命達成に寄与しているかを知っている。
(2)リーダーの特性を知っている。
(3)インスピレーションを与える能力をもっている。
(4)上司および部下に対して忠誠をつくす。
(5)能力に見合うイニシアチブを発揮する。
(6)権限と責任の委譲を容易に受諾し、かつまた受諾する用意がある。
(7)リーダーの決定を受諾し、全幅的にこの決定を実施するために最善をつくす。
(8)リーダーの部下のために配慮する能力と限界を十分に知り、不当な期待をかけることによって、上司のリーダーシップの負担をふやさない」(196-7頁)
これは望ましいフォロワーの特性をまとめたチェックリストであり、参考書の著者は「各士官は、リーダーの弱点を探す前に、フォロアーとして自分自身の責任を果たしているかを確かめるべきである」とも述べています(同上、197頁)。

しかし、これほどの特性を身に着けるには、「実践による学習」が不可欠であり、また上官の監督によらず、独力で問題を解決できる能力を備えることも求められます。

したがって、フォロワーシップは一朝一夕に習得できるものではなく、それは日頃からのリーダーと良好な関係を構築することを通じて、次第に習得されるものだと考えられています。

上官の第一印象に気を付けること

上官との関係がフォロワーシップの涵養にとって重要であるのですから、上官と初めて対面する際には、どのような第一印象を与えるのかよく注意する必要があります。

新しい部隊で勤務する際には、心身ともに万全の状態を整え、定められた期限までに上官に報告し、決して遅れることがないように心がけなければなりません。
「若い士官が上司に与える第一印象の重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはない。はじめて新しい勤務に出勤する場合は、必ず最良の肉体的、精神的状態で到着するようにすべきである。なかんずく、時間通りにしなければならない。通例は、朝の当直交替前に新任務に報告することであるが、報告する士官は、もし前日の午後に到着すれば、艦のルーチンな手続きがよりよく受け入れることができることがわかるであろう」
著者は、期限に遅れたわずかな時間を狙って艦艇をあえて出航させる習慣が海軍にあると紹介しています。
もしそうなれば仕事を始める前から訓告処分を受ける危険がある、と読者である士官候補生に指摘しています。

ただ、重病や怪我といったやむをえない事情がある場合、司令部に報告して応急休暇をとり、また赴任する部隊に事情をよく説明すればよいとも指摘しており、無理をしないように配慮しています。

ただ、いずれの場合でも、新しい上官と対面して最初の報告を行う際には、制服を着用し、失礼がないように万全の注意を払うように述べられています。
それが上官と部下との関係を築く第一歩となり、引いてはフォロワーシップを涵養する出発点となるからです。

上官をあらゆる角度から研究せよ

軍隊の指揮系統の中で上官は部下に対して絶大な権限を持っています。
上官は部下を絶えず評価して報告し、その内容は昇進や任務配置を決定する影響力を持っています。

ここで部下にとって重要なことは、自分の上官がどのような人物なのかをよく研究し、適切な対策をとることです。
「この上司は、言葉のあらゆる意味で優秀な海軍士官であるかもしれない。その反対に、もっともこれは部隊ではまれな例であるが、個人としての部下に無関心で、ただ部下が仕事をうまくやっているかどうかのみに関心をもつかもしれない。たとえば、部下の個人的な反応を考慮しないで命令を出したりすることもあり、より立派な指令やリーダーシップのテクニックを率先して使えば、部下はより多くのよりよい仕事をするであろう、ということを忘れてしまっていることもある」(同上、188頁)
つまり、著者は海軍においても無能な士官が存在することを想定しており、部下はそうした上官を反面教師として見ることを推奨しています。
もちろん、これは軍隊にとって望ましいことではありませんが、だからといって上官に歯向かうことは適切ではなく、その上官を満足させる方法を研究する方がよい、と述べられてもいます(同上)。
「個人的に状況をコントロールできる範囲で、上司を満足させるべく最善をなすことができる。「老犬は新しい芸を覚えない」とは古い諺であるから、若い士できうるかぎり上司の観点からものを見るように努めるがよい。それができれば、他に先んじて上司を満足せしめることになろう」(同上、188-9頁)
部下は上官と割り切って付き合うことが必要だということです。「新しい芸を覚えない」のですから、上官に変化を求めることはフォロワーシップとしてあまり有効ではなく、部隊にも混乱をもたらします。

例えば、上官と部下との間で問題となる典型的な事柄に書類における言葉の使い方があるのですが、著者は部下が正しい用語、言葉遣いをすることが重要だとしながらも、上官のやり方を研究することも重要だと述べています。
つまり、上官が過去に作成した書類を手に入れ、それを詳細に研究することが勧められています。

上官の仕事の進め方を詳細に調べ、それに適応した行動をとることが上官を満足させることを考えた方がよいとされています。

むすびにかえて

著者はフォロワーシップに関する議論として、上官に助言を求めること、上官の指導や譴責を率直に受け入れることの意義についても述べています。
いずれの場合においても部下はフォロワーとして、リーダーたる上官を「研究する」ことに努めるべきであり、そのことによって高い評価を勝ち得ることが次の昇進や仕事に繋がると考えることが必要です。

部下として上官から距離を置き、一種の研究対象として見なしながら、それに対して最適な対応を明らかにしていくという発想は、あたかも戦術分析のようにも見えますが、部下として上官との関係を適切に処理するためには、こうした客観的な姿勢を持つこともまた必要なのかもしれません。

KT

関連項目
学説紹介 下士官の権威で兵卒は戦う
学説紹介 どうすれば士気を高めることができるか

参考文献
アメリカ海軍協会『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』武田文男、野中郁次訳、日本生産性本部、1981年(新装版2009年)