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2018年6月16日土曜日

道路と行進―行進速度を計算する方法―

私たちはどこかに行こうとすると、どのような経路が使用できるのか、どれだけ時間がかかるのかを調べます。
軍隊の作戦計画を立案する作業でも、同じような経路研究が行われていますが、異なっているのは移動しようとする車両が1両ではないということです。

小隊や中隊程度の部隊規模であれば、特に複雑な計算は必要ないかもしれませんが、師団や軍団になってくると、行進の問題は極めて複雑になってきます。

今回は、軍団が車両行進を実施する場合を想定し、行進を計画する際に考えるべき問題を紹介し、分進合撃の有効性についても触れたいと思います。

細い道路に阻まれる巨大な部隊

3個師団で編成された軍団の指揮をとっていると想定しましょう。
この軍団を1本の道路上で前進させなければならないのですが、ざっと見積っても25,000両の車両を一斉に動かす必要があるとします。
このような条件下で25km前進するためには、どの程度の所要時間を見積もるべきでしょうか。

ここでは問題点を分かりやすくするために、行進縦隊ごとの間隔は無視することにしましょう。
車両間に100mの安全間隔を設定すると、1km当たり10両が路上の空間を占有しながら走行することになります。
したがって、軍団が道路を前進しようとすれば25,000/10=2,500となり、つまり路上空間を2,500kmにわたって占有することが予測されます。

変な話に聞こえますが、路上にずらりと並んだ軍団の全長は、これから前進しようとする距離の100倍の長さになるのです。
これだけ行進する部隊が大規模になると、時速25kmで安全走行を心がけ、道路状況に一切の異常がなく、25,000両が全て交通事故を起こさないとしても、25kmの前進には4日以上かかると考えられます。

ただし、どこか一カ所でも交通事故が起きれば、後続の車両がすべて遅れることになるため、実際に目的地に到着する時間はさらに遅れる可能性があるものと考えなければなりません。
行進のスケールをこのような数字で捉えると、軍隊の移動が一般的に考えられているより難しい問題であることが分かるのではないでしょうか。

分進合撃の威力を数字で考える

さらに議論を先に進めてみましょう。1本の道路で軍団の行進速度を向上させるには限界があることが分かりました。このままでは作戦上の要求に到底対応できません。

そこで、複数の経路を同時に使用する必要があると分かります。
つまり、軍団の戦力を数カ所にばらばらの地点から前進させ、所望の時期、場所で合流させる計画を立案しなければならないのです。このような方法を分進合撃といいます。

もし先ほどの軍団が使用できる道路が5本割り当てられたなら、25kmの車両行進の所要時間はどれだけ短縮できるのでしょうか。
まず25,000/5=5,000ですので、1本の道路に5,000両ずつ車両が配分されることになります。
どの部隊をどの道路に割り当てるべきかという点についてはひとまず脇に置いておきます。

5,000両が先ほどと同じ車両間隔で走行するとすれば、それぞれ500kmの路上空間を占有する計算になります。
その状態で各部隊が時速25kmで走り、特に事故も起こらなければ、20時間、つまり1日も経たずして部隊が行進を完了させることができると見積もれます。

大ざっぱに比較すると4分の1の速度で現地に到着できることになりますので、もし彼我の戦力が同じだとしても味方の軍団は予定戦場に先に全体の部隊展開を済ませることができます。
つまり、3日間を準備に費やした上で防御戦闘に臨むことができますし、展開未了の敵を捕捉して撃破する攻撃戦闘も可能なのです。

むすびにかえて

地形や気象、交通状況の変化などの要因を十分に考慮していない簡単な計算ではありますが、戦略機動する作戦部隊の規模が大きくなるほど、分進合撃の威力が増すことははっきりと認識できたのではないかと思います。
分進合撃は複雑な計画を必要としますが、戦場で集中させたい戦力規模が大きくなるほど、重要性が増す技術です。

19世紀にはナポレオンがこの方式を巧みに用いたことで知られており、彼の戦略思想の特徴として注目されることもあります。
その後、このような行進の方法は軍事学者の間でよく知られるようになり、クラウゼヴィッツも道路容量の制約と行進縦隊の全長との関係について考察を残しています。

KT

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