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2017年4月6日木曜日

地域研究 データで分かる北朝鮮の軍事力

北朝鮮の戦勝記念日で車両行進を行う装甲兵員輸送車の車列。
Uri Tours. 2013. Tank in the DPRK Victory Day Parade.
2017年4月時点で、北朝鮮の軍事力がどの程度の水準にあるのかを評価するため、基本的なデータをいくつか紹介してみたいと思います。さらに、それが相対的にどの程度の水準にあると言えるのかについても簡単な検討を加えておきます。

朝鮮人民軍の動員可能な兵力
平壌市内を車両で移動する朝鮮人民軍の部隊、Roman Harak. 2010. 
まず基礎的なデータとして北朝鮮が動員できる兵員の数から見ていきましょう。
2017年版の『ミリタリー・バランス』を読むと、北朝鮮の総人口は25,115,311人、現役の兵員は1,190,000名、予備役は約600,000名と見積もられています(Ibid.: 303)。
現役と予備役の兵士を合計した数は1,790,000名、総人口に占める比率を見ると7.12%になります。
これは第二次世界大戦のドイツで軍人の数が国民の中に占める比率が最も高くなった1941年の7.83%に匹敵するほど大きな数値であり、実際にこれほどの動員が可能なのか疑問が持たれる数値です。

さらに加えて、準軍隊の189,000名と準軍隊の予備役5,700,000名という人員も北朝鮮は抱えています(Ibid.)、単純計算で最大動員可能総数を見積ると、7,679,000名という数になり、総人口に占める比率を計算すると30.57%となります。
軍事的にはあり得ない想定ですが、もし戦時に全員を動員して戦闘に投入しようとすれば、国内の労働力はたちまち枯渇してしまうでしょう。

こうした動員能力が真価を発揮するのは、対外的な敵国との戦争ではなく、対内的な反乱を鎮圧する場面だと思われます。軍事組織を通じて国内の不満分子の状況を監視するだけでなく、迅速に動員をかけることで反乱軍に同調する勢力を抑制し、反乱分子を孤立させることもできるでしょう。

運用能力に疑問が残る「核戦力」

北朝鮮が保有する各種弾道ミサイルの射程を視覚化した地図。最も短射程のミサイルは韓国、中国、日本、ロシアの一部領土に対してのみ使用できるが、最も長射程のものは米国のアラスカ、インド、インドネシアに使用される可能性があることが示されている。
Cmglee. 2013. Estimated maximum range of some North Korean missiles based on data

北朝鮮が保有する「核戦力」を考える際に重要なポイントとなるのは、まだ北朝鮮軍として核弾頭(または核爆弾)を実戦に使用できる段階にあると確信できる決定的証拠は一般に確認されてはいないということです。

近年報道されているように、北朝鮮は核開発と弾道ミサイルの開発を継続的に実施していますが、『ミリタリー・バランス』でも北朝鮮軍として核兵器を保有しているものと判断できないという慎重な見方を保っています。
「国際社会の制裁にもかかわらず、北朝鮮はその軍事力と生存自活にとって重要な核兵器と弾道ミサイルの開発を継続している。核弾頭の小型化と統合化の進捗については疑問が残るものの、2016年1月の第4回核実験と9月の第5回核実験は、恒久的な政治体制のレトリックと相まって、野心を持っていることを示している」(IISS 2017: 303)
また核兵器の運搬手段となるミサイルについても慎重な見方が採用されています。長射程ミサイルの保有量に関するデータを取り上げると、
  • 大陸間弾道ミサイル(ICBM):6+基(火星-13(KN-08)運用状態とされる)
  • 中距離弾道ミサイル(MRBM):ε10基(搭載するミサイルとしてはノドン ε90+とムスダン若干数)
  • 短距離弾道ミサイル(SRBM):54+基(24 FROG-3/5/7、若干数 KN-02、30+ Scud-B/Scud-C (搭載するミサイルはε200+))
という数値が示されています(Ibid.: 304)。
また、あまり知られていませんが、ミサイル以外にもH-5爆撃機のような核爆弾を運搬する能力を持つ航空機があることが資料では指摘されています(Ibid.)。

こうしたミサイルについて一部には運用状態にあるという見方があることを紹介しながらも、全体として想定される運用能力に達していないのではないかという評価が与えられています。
「また、前年に実施された関連技術の地上試験と比較して、北朝鮮は弾道ミサイルの試験回数を増やしている。この試験には、問題はあるが長く待たれていたIRBM「火星-10(Musundan)」の発射試験、さらに表面的には新たな固体燃料推進装置を統合したSLBM「北極星-1(KN-11)」の発射試験が含まれる。しかし、米国によって運用能力を持つと評価されたICBM「火星-13(KN-08)」や、試験が未実施のままにされている派生の「火星-14(KN-04)」といった長射程の弾道ミサイル体系は未検証のままである。進行中の試験とそれに伴う失敗は、いくつかの想定される運用能力に達していないことを示唆しているものの、北朝鮮は、より機能的かつ信頼性のある運搬システムの開発に向けて明確な進歩しつつある」(Ibid.: 303)
もちろん、異なる見解を持つ専門家もいるでしょうが、その実態は結局は関係者しか知り得ないことです。ここでは客観的に評価できる一般公開の情報資料だけでは、北朝鮮の「核戦力」が実際に使用できると判断することは非常に困難とだけ述べておきたいと思います。
それでも、近年では北朝鮮の「核戦力」が質的向上を続けることは確かですので、近い将来において北朝鮮が核戦力を実際に行使する可能性があることは念頭に置いておくべきでしょう。

近代化が必要とされる通常戦力
韓国で行われた朝鮮戦争のリエナクトで当時の韓国軍と朝鮮人民軍の近接戦闘を再現している様子
Pfc. David Muhlbock, U.S. Army. 100904-A-9994M-006.
『ミリタリー・バランス』では通常戦力の分野において、ほとんど近代化の兆候が見られないと述べられており、演習の内容からしても実際の戦闘に対応できるのか疑問視されています。
「それ〔核戦力〕とは対照的に、北朝鮮の通常戦力はますます旧式の装備に依存し続けており、それぞれの軍種において近代化が広がっている証拠はほとんどない。北朝鮮軍の能力は、間違いなく人的戦力と非対称戦争の能力に依拠する。演習は定期的に実施されているが、それらはしばしば実戦的な内容ではないように観察され、必ずしも広範な作戦能力を示すものではない」(Ibid.)
具体的な装備の保有数として、まず地上部隊の車両でも特に重要な主力戦車、歩兵戦闘車、兵員装甲輸送車の区分から見ていきたいと思います。
  • 主力戦車(MBT)3,500+両 T-34/T-54/T-55/T-62/Type-59/Chonma/Pokpoong
  • 歩兵戦闘車(IFV) 32両 BTR-80A
  • 装甲兵員輸送車(APC) 2,500+両 ;APC (T) BTR-50; Type-531 (Type-63); VTT-323、APC (W) 2,500両 BTR-40(Ibid.: 304)
主力戦車の分類区分に該当する車両を北朝鮮陸軍が3,500両以上保有しており、その数値は韓国陸軍の主力戦車の保有数2,434両を数字の上で超えていることは印象的です。

しかし、北朝鮮が持つ戦車の種類を検討すると、第二次世界大戦世代にまでさかのぼるソ連製旧式の戦車が多く含まれているため、現代の戦闘で米陸軍や韓国陸軍の主力戦車に対抗できる性能を発揮することは極めて難しいと思われます。配備されている戦車の内訳がどうなっているのかは示されたデータでも分かりません。

火砲は全体として21,100門/両が配備されており、資料では大まかな内訳として次のようなデータが示されています。
  • 自走砲・牽引砲 8,500両/門: SP 122mm M-1977/M-1981/M-1985/M-1991; 130mm M-1975/M-1981/M-1991; 152mm M-1974/M-1977; 170mm M-1978/M-1989
  • 牽引砲 122mm D-30/D-74/M-1931/37; 130mm M-46; 152mm M-1937/M-1938/M-1943
  • 火砲/迫撃砲 120mm (報告されている)
  • 多連装ロケット 5,100両: 107mm Type-63; 122mm BM-11/M-1977 (BM-21)/M-1985/M-1992/M-1993; 200mm BMD-20; 240mm BM-24/M-1985/M-1989/M-1991; 300mmの装備も若干数
  • 迫撃砲 7,500門: 82mm M-37; 120mm M-43; 160mm M-43
この火砲の保有状況から火力支援の能力がどの程度なのかを考えるため、北朝鮮軍の現役の兵員1,190,000名に対する比率を計算してみると、56.39名に対して1門の火力支援が確保されています。ちなみに、韓国軍は火砲の数は11,038門を確保しており、韓国軍の現役の兵員が630,000名であることを考えると、1門当たり57.07名に対して火力支援ができる程度の保有数です(Ibid.: 306-7)。

むすびにかえて

以上の大まかなデータを踏まえると、北朝鮮軍の大まかな軍事的特徴としては次の三点を指摘できます。
・国力の限界をはるかに超えて拡充された軍事力の人的基盤
・実戦で投入可能かどうか疑問視される核戦力の重点的開発
・核開発のペースに比べて近代化が立ち遅れている通常戦力

北朝鮮の軍事力の特徴をどのように解釈するかという点については専門家によって見解が異なるところでしょうが、国外の敵というより国内の敵を想定しているように思われます。つまり、国力に比して過剰に思えるほど軍の動員能力を確保していることから、朝鮮人民軍の任務は対外的安全保障上の脅威を抑止し、また戦時にはこれに対処するというよりも対内的安全保障のために配備されている側面が強いと思われます。

また対外的安全保障上の脅威として韓国や米国を想定するにしても、朝鮮人民軍の装備はあまりにも旧式化が進んでいるため、攻勢に出ることも、防勢に回ることも軍事的には非常に困難だと指摘できます。
戦略の観点から考えれば、核兵器の開発はこうした対外的安全保障上の弱点を補完する狙いがあるとも思われます。報道などでは国威発揚のような心理的な狙いが強調されることもありますが、冷戦初期のNATOの核戦略のように通常戦力の劣勢を認識しているがゆえに、確証破壊的な核戦略を採用しようとしていると解釈すれば、北朝鮮の核戦略にもそれなりの論理構成を持っていると考えられます。

KT

参考文献
The Military Balance 2016-2017, London: International Institute of Strategic Studies.

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