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2016年8月30日火曜日

論文紹介 現代の戦場に格闘は必要なのか

現代の戦場で一般にイメージされるのは、やはり小銃、機関銃、携帯無反動砲などを駆使した射撃戦闘だと思います。
それにもかかわらず、現代でも多くの国々の軍隊では格闘の調査研究、教育訓練が行われ続けています。これは果たして軍事的に合理的なことだと言えるのでしょうか。

この疑問に答えるためには、実際の戦場において兵士が格闘の技術をどれだけ使用しているのかを体系的に調査しなければなりません。今回は、2004年から2008年にかけて米軍で実施された戦場における格闘技術の使用実態に関する研究成果を紹介したいと思います。

文献情報
Peter R. Jensen. 2014. Hand-to-Hand Combat and the Use of Combatives Skills: An Analysis of United States Army Post-Combat Surveys from 2004-2008, West Point: Center for Enhanced Performance, U.S. Military Academy.

戦場での徒手格闘の特徴
一般に格闘と聞くとスポーツとして行われている総合格闘のようなものをイメージされるかもしれませんが、軍隊で訓練されている格闘技術は徒手格闘の技術だけでなく武器格闘の技術も含まれており、根本的に異なる技術です。
徒手技術を構成しているのは、いわゆる当身技、投げ技、関節技、絞め技であり、武器技術とは小銃や銃剣などを使用して打撃または刺突するような技術体系のことを指しています。
もちろん、武器格闘において使用が想定される武器は小銃や銃剣だけでなく、えんぴや棍棒なども含まれているため、特別な制約があるわけではありません。

著者によれば、米陸軍では1990年代以降に格闘の研究が重視されるようになった経緯があります。
現在米陸軍で採用されている格闘技術は1995年に第2レンジャー大隊が参加した現代陸軍格闘計画(Modern Army Combatives Program)の研究成果を踏まえたものであり、実戦で起こりうる格闘の特徴にも対応できるように配慮されていました(Jensen 2014: 1)。
その後、米陸軍格闘学校(U.S. Army Combatives School)が設置され、2002年には格闘に関する教範の見直しも行っています(Ibid.: 2)。

こうして確立された格闘技術はその後も絶えず実用性が検証され続けており、2014年のある面接調査では実戦として格闘を経験した兵士が格闘能力の一部として周囲の環境を巧みに利用する能力の重要性を示唆していることを報告しています(Ibid.)。

実戦で格闘を経験する兵士は少なくない
こうした先行研究を踏まえ、著者は2004年から2008年にかけて戦闘任務に参加した兵士の格闘技術の使用状況を面接調査の手法で研究しました。
調査対象となった軍人に関する属性データ
兵科で分類すると歩兵が最も多く、活動した地域で見ればイラクにいた兵士が最も多い。階級で見ると最も多いのは兵卒であり、やや下士官の数は少ない。ごく一部ではあるが、下級士官も調査対象となっているが、これは現場で部隊を指揮する必要があるためである。
(Ibid.: 5)
著者が調査した結果、調査対象者の1,226名の内で216名の兵士が格闘技術を少なくとも1回は使用したことを報告しました(Ibid.: 6)。著者自身が認めている通り、標本が小さいので、これを直ちに一般化することはできませんが、調査対象者の19%、およそ5人に1人の割合ということが言えます。さらに73名については実戦で格闘技術を複数回にわたって使用していると報告しており、これは全体で6.5%に当たります(Ibid.)。
これらの数値を見れば、現代の戦場でも格闘が生じることは、決して珍しいことではないと分かります。

調査対象者がどのような状況で格闘を経験したのかを(1)近接戦闘(close combat)、(2)群衆管理(crowd control)、(3)捕虜確保状況(prisoner handling situations)、(4)警衛勤務(security checkpoints)に分類して調査すると、最も多いのは(3)の状況であり、30.7%、次に多いのが近接戦闘であり、これが14.2%、その次が警衛勤務(6.1%)と暴動管理(5.7%)でした(Ibid.: 7)。
これは捕虜を安全に確保するための技術として格闘技術が兵士によって活用されている実態を示唆しています。

こうした戦闘の様相を踏まえると、特に使用の頻度が高い技術が関節技と絞め技であることも理解しやすくなります。
著者の調査では、さまざまな格闘技術を組み付き(grappling)、当身技(striking)、そして武器に大別しており(米軍で組み付きの内容としては関節技と絞め技を指しています)、その分類に基づいて統計処理しています。

結果としては、72.6%と組み付きが最も多く、その次に使用例が多かったのは小銃を持った状態で行う武器格闘(21.9%)であり、突き、打ち、蹴りといった当身技の使用例は5.5%に止まりました(Ibid.: 8)。
ちなみに、小銃を使用した武器技術は銃口や着剣した銃剣で刺突したり、小銃のさまざまな部分を利用して打撃する技をまとめたものを言います。
兵士は普段から銃を携行して行動することが多いため、不意に発生した格闘に対応する際にも、手にしている小銃を利用した技術を選択することが多いことが分かります。

むすびにかえて
戦場の実態を知れば、格闘が現代の兵士にとって依然として不可欠と言えます。
しかし、問題はその訓練方法であり、どのようにすればより意味のある格闘技術を習得することができるのかという点については研究が必要であると著者は指摘しています。
「本研究の結果は、戦闘部隊の訓練にとって正規の要素であり続けるべきであることを示唆している。さらに、戦闘部隊の訓練に当たる指揮官は戦闘訓練において格闘技術を活用しなければならないように演習を計画すべきである。それだけでなく、演習は適切に抑制された実力を使用すべき状況を解決するように兵士に求めるシナリオに焦点を当てるべきである。最後に、本研究において説明した近接戦闘、警衛勤務などの4種類の戦術状況に関する訓練では統合された格闘訓練を組み合わせないと不完全なものとなる」(Ibid.: 11)
どれだけ科学技術が進歩しても、戦場において最後に勝敗を決するために兵士が必要である以上、格闘技術は引き続き軍隊にとって大きな検討課題であり続けるでしょう。格闘は今も昔も変わらない重要性を持っています。

KT

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