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論文紹介 現代の戦場に格闘は必要なのか

現代の戦場で一般にイメージされるのは、小銃、機関銃、携帯無反動砲などを使った戦闘でしょう。それにもかかわらず、現代においても多くの軍隊で格闘の研究や訓練が続けられています。これは果たして軍事的に合理的なことだと言えるのでしょうか。
この疑問に答えるためには、戦場で兵士が格闘技術をどれだけ使用しているのかを調査する必要があります。

今回は、2004年から2008年にかけて米軍で実施された格闘技術の使用実態に関する研究成果を紹介してみたいと思います。

文献情報
Peter R. Jensen. 2014. Hand-to-Hand Combat and the Use of Combatives Skills: An Analysis of United States Army Post-Combat Surveys from 2004-2008, West Point: Center for Enhanced Performance, U.S. Military Academy.

戦場での徒手格闘の特徴
格闘という言葉からテレビで見る柔道や総合格闘技のようなスポーツをイメージするかもしれませんが、軍隊で訓練される格闘技術は徒手格闘の技術だけでなく、武器格闘の技術も含まれており、すべて戦闘状況が想定されているため、根本的に別のものです。

まず、徒手技術を構成する技術には、当身技、投げ技、関節技、絞め技があり、武器技術とは小銃、銃剣などを使用した打撃または刺突が含まれています。
もちろん、武器格闘で使用が想定される武器は小銃や銃剣だけでなく、えんぴや棍棒なども含まれています。軍隊の格闘はスポーツではないため、特別な制約が課されているわけではありません。

研究の背景について述べておくと、米陸軍では1990年代以降になって格闘の研究が重視されるようになっていった経緯があります。現在米陸軍で採用されている格闘技術は1995年に第2レンジャー大隊が中心となって策定した現代陸軍格闘計画(Modern Army Combatives Program)の成果を踏まえたものが中心となっており、これは実戦で起こりうる格闘にも対応できるように配慮されたものでした(Jensen 2014: 1)。
その後、米陸軍格闘学校(U.S. Army Combatives School)が設置されており、2002年には格闘に関する教範の改訂も実施されています(Ibid.: 2)。
その後も実用性の検証が続けられているのですが、単に格闘技術を訓練するだけでなく、周辺の状況を活用することが重要だということも明らかになっています。2014年に実戦で格闘を経験した兵士から聞き取りを行った結果、格闘技術の重要な一部として周囲の環境を利用することを多くの兵士が指摘したことが報告されました(Ibid.)。

実戦で格闘を経験する兵士は少なくない
このような研究成果を踏まえ、著者は2004年から2008年にかけて戦闘任務に参加した兵士の格闘技術の使用実態を調査することにしました。派遣された地域はイラク、アフガニスタンのいずれかであり、兵科ごとの内訳では歩兵が1231名、機甲が315名、砲兵が113名、工兵が93名、特殊作戦部隊が51名でした。階級も兵卒から下士官、士官までが含まれています。
調査対象となった軍人に関する属性データ、兵科で分類すると歩兵が最も多く、活動した地域で見ればイラクにいた兵士が最も多い。階級で見ると最も多いのは兵卒であり、やや下士官の数は少ない。ごく一部ではあるが、現地で部隊を指揮する下級士官も調査対象となっている。
(Ibid.: 5)
調査の結果、調査対象者の1,226名の内で216名の兵士が格闘技術を少なくとも1回は使用していたことが分かりました(Ibid.: 6)。著者自身が認めている通り、標本が非常に小さいため、この結果を直ちに一般化することはできませんが、調査対象者の19%、およそ5人に1人の割合になります。
該当者の216名のうち73名については実戦で格闘技術を複数回にわたって使用していることも判明しており、これは全体の6.5%に当たります(Ibid.)。
これらの数値から判断すると、現代の戦場において格闘技術が必要となる場面は決して珍しいこととも言えないと分かります。

さらに調査対象者がどのような状況で格闘を経験したのかを調べるため、(1)近接戦闘(close combat)、(2)群衆管理(crowd control)、(3)捕虜確保状況(prisoner handling situations)、(4)警衛勤務(security checkpoints)に状況を分類した上で解答が集計されました。解答で最も多かったのは(3)捕虜確保状況であり30.7%、次に多かったのが(1)近接戦闘であり、数字は14.2%にも上ります。その次が警衛勤務(6.1%)、そして暴動管理(5.7%)と続きます(Ibid.: 7)。

こうした戦闘の様相を踏まえると、特に使用の頻度が高い格闘技術が関節技と絞め技であることも理解しやすくなるでしょう。
格闘技術を組み付き(grappling)、当身技(striking)、そして武器格闘に分類し(米軍で組み付きの内容としては関節技と絞め技を指しています)、どの技術を使用したのかを調査してみると、72.6%と組み付きが最も多く、その次に使用例が多かったのは小銃を持って実施する武器格闘(21.9%)、突き、打ち、蹴りといった当身技の使用例が全体に占める割合は5.5%に止まりました(Ibid.: 8)。ちなみに、小銃を使用した武器技術は銃口や着剣した銃剣で刺突したり、小銃のさまざまな部分を利用して打撃する技をまとめたものを言います。
これは不意に発生した格闘に即応する際に、兵士が手にしている小銃を活用できる格闘技術を選ぶ傾向にあることを示唆しています。

むすびにかえて
この研究は格闘技術が現代の戦場でも重要性を失っていないことを示唆しています。最後に残された問題は訓練方法ですが、著者は現場で役立つ格闘技術を習得できるようにするためには、さらに研究が必要だとして次のように論じています。
「本研究の結果は、戦闘部隊の訓練において格闘が正規の要素であり続けるべきことを示している。さらに、戦闘部隊の訓練に当たる指揮官は、戦闘訓練において格闘技術を活用せざるを得なくなるよう演習を計画すべきである。それだけでなく、演習では節度をもった実力を行使すべき状況でも、それに対処できるよう兵士に求めるシナリオを用いるべきである。最後に、本研究で説明した近接戦闘、警衛勤務などの4種類の戦術状況に関する訓練では、統合された格闘訓練を組み合わせなければ、不完全なものとなる」(Ibid.: 11)
著者が認めている通り、どれほど技術が発達しても、格闘技術は引き続き軍隊にとって大きな検討課題であり続けるでしょう。

KT

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