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2016年6月3日金曜日

マキアヴェリから権力者への助言

政治家にとって権力を保持すること以上に重要なことなど存在するのでしょうか。
もし一旦権力を奪われれば、自分が望む政策を実行することも、自分を支持する人々を味方に繋ぎとめることも、政敵の合法的、非合法的な攻撃から身を護ることもできなくなります。
政治家にとって権力は重要な目標であるからこそ、古来より政治学者は権力を掌握する方法やそれを奪取する方法について考察してきたのです。

今回は、この問題を考えるために、政治家がその地位を守り通すための手法に関する政治哲学者ニッコロ・マキアヴェリの考察を紹介したいと思います。

味方を増やし、敵を封じ込める
1492年、グラナダは2年間にわたる攻囲を受けた末にスペインに降伏した。
左で騎乗した人物がグラナダ国王ボアブディル、中央で騎乗しているのがフェルディナント五世。
国家を統治する政治家の職務の基本は政策の立案、執行および評価であり、国民一般はその事業の成果によって利益を得ることが期待されます。
そのため、マキアヴェリも良い政策を遂行し、その事業で成果を上げることができれば、その政治家は名声を高め、支持を盤石なものにできると考えていました。
ただし、良い政策を行っていればそれでよいというわけではなく、マキアヴェリはその政策によって自分の政敵の動きを封じることが重要であることも示唆しています。

マキアヴェリはスペイン国王のフェルナンド五世(1452-1516)が当初はわずかな勢力しか持たないにもかかわらず、強大な権力を獲得できた理由について次のように説明しています。
フェルナンド五世はシチリア、カスティーリャの統治権を獲得すると、当時イベリア半島南部を領有していたイスラム王朝のグラナダ王国との戦争に踏み切りました。

英仏百年戦争で軍務の経験を積んでいたフェルナンド五世が戦争によって長年の国土回復を実現する見通しを持っていましたが、それだけでなくスペイン国内でしばしば国王に歯向かってくる地方貴族の注意を対外戦争へと向ける効果があったのです。
「当初はゆっくりと、そして疑念から邪魔が入らないようにフェルナンドは攻撃を続け、カスティーリャの封建領主の気持ちをそちらへと向けさせておいた。その戦争に気を取られて、彼らが反乱を起こすことなどを思いつかないようにしたのである。そして、その間にフェルディナント五世は彼らが気付かないうちに、自らの名声と彼らへの支配権を獲得したのだった」(Machiavelli 1532, 邦訳、163頁、訳文一部修正)
フェルナンド五世は、この戦争によって新たなスペインの領土を獲得するのと同時に、精強な軍隊を作り上げました。特にフェルナンド五世の下で活躍したゴンサロ・デ・コルドバを始めとするスペイン軍の軍人は小火器の技術革新を利用したスペイン方陣を考案し、17世紀にオランダが新たな教義を編み出すまで、スペインに大きな軍事的優位をもたらしました(この経緯に関しては「オランダの独立を可能にした軍事革命」で取り上げています)。

またフェルナンド五世は軍隊の規模も増強し、自身の権力基盤を支える味方を増やしていきました。これは脅威を及ぼす地方貴族の反乱を抑止するだけの力となりました。
これらの功績から、フェルナンド五世は15世紀初頭からカスティーリャで続いた内紛を平定するだけでなく、国際政治におけるスペインの地位を向上させることにも大きく寄与したと言えます。

対立の中で中立の立場を避けること
マキアヴェリは政治において味方を確保するために中立の立場を避けるように論じていますが、その際に自分よりも強い有力者に従属する状態とならないようにとも指摘している。第二次イタリア戦争(1499-1504)でイタリア半島のヴェネツィアは大国フランスと同盟関係を結んだが、マキアヴェリはこれがヴェネツィアを破滅に導いたと述べている。
権力掌握に関する興味深い考察としてもう一つ挙げられるのは、対立が発生した際にそれに積極的に介入すべきという議論です。
マキアヴェリの考えによると、自分自身の能力を世の中に誇示することだけでなく、何らかの党派間の対立において誰に味方し、誰と敵対するのかを明確にすることが政治的に非常に重要です。
「なぜなら、あなたの近くにいる有力者の二人が殴り合いになり、その一方が勝った時、勝利者に対して恐れを抱く必要があるかどうかが問題となるためである」(同上、165頁、訳文一部修正)
常識的に考えると、下手に権力闘争に介入することの方が政治的には危険と思えるかもしれません。
しかし、政争で勝ち残った人々から見れば、中立の勢力は不満分子となる可能性があり、攻撃すべき目標となりますし、敗退した側の勢力から見れば自分たちを見捨てたとして敵視される危険をマキアヴェリは強調しています。

決定的な対立の局面で決断力を欠き、中立の立場を取ることがあれば、どの勢力も頼りにできなくなる恐れが生じるのです。
「君主が毅然として一方の側に立つと態度を明らかにするとき、もしあなたが同盟した側が勝てば、たとえそれが有力者であって、その配下にあなたが置かれていても、相手はあなたに恩義を感じてしまい、そこに友愛の絆が結ばれることになる。そして人間というものは忘恩の徒の見本のようになって、あなたを抑圧するほどまで不誠実にはなれるものではない。それに加えて、勝利と言うものは買った方が何のはばかりもなく振る舞ったり、まして正義を軽んじるほどまでに完全無欠になれるものではない。しかし、もしあなたが同盟を結んだ側が負けたときには、あなたは必ずや彼に受け入れられる。そして可能な限り彼はあなたを助け、やがて運命が蘇ってきたときには、その運命を分かち合う仲になるであろう」(同上、166-7)
国内政治であれ、国際政治であれ、権力闘争の世界を単独で生き残ることは現実的な選択ではありません。たった一人で権力を維持することはどのような政治家にとっても不可能であり、もし実験を握ることがあっても他の勢力によって間もなく打倒されてしまうでしょう。

むすびにかえて
フィレンツェで行政官として政務にも携わった経験があるマキアヴェリは、政治家が持っている力量には人によって差があると考えていました。
ここで述べている一般的な助言は数あるマキアヴェリの考察の一部でしかありませんが、私たちが優れた力量を持つ政治家はどのように行動するものであるのかを判断するための基準を提示しています。

それは日常的に私たちが知っている判断基準とは大きく異なるものであり、権力をめぐる闘争という政治の本質に根差したものです。
すなわち、敵を封じ込め、味方をより強力にし、事に臨んでは中立の立場をとらず、進んでいずれかの党派に味方し、政局をコントロールすることにあります。
もちろん、権力の掌握は政治家の仕事のすべてというわけではありません。しかし、それは政治家の重要な専門的技術であり、その技術に劣るようであれば、どのような優れた政策も実行することはできないでしょう。

KT

参考文献
Machiavelli, Niccolo. 2003(1532). The Prince, trans. George Bull, New York: Penguin Classics.(邦訳、マキアヴェッリ『君主論』岩波書店、1998年)

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