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2016年1月9日土曜日

兵士の眼から見た都市の地形

戦術学では戦場の地理的特徴に関する分析のことを地形分析(Terrain Analysis)と言います。
地形分析では、その戦場の地形が平地なのか、山地なのか、植生で視界や射界は狭いのか、広いのか、道路はどの方向に向かっているのか、河川には架橋されているのか、などの事項を検討し、任務遂行との関係から評価しなければなりません。

今回は、軍事地理学の観点から、都市が戦場となった場合にその地形としての特性がどのようなものとして映るのかを説明してみたいと思います。

都市の特徴とその多様な形態
都市にはその地域の特性を反映してさまざまな形態がありますが、共通する特徴として都心部と周辺部で建物の種類や密度が異なること、それと関連して人口の集中度が異なることが挙げられます。
都心部から外方へ移動するほど、そこに分布する建物の密度は低下し、建物の高さも低くなっていきます。建物はそれぞれ防御陣地として利用することができるため、都市の中央に向けて前進するほど敵を捜索するために要する時間は長くなり、また警戒に要する労力も大きくなっていきます。
一般的な都市の構成要素を大まかに図示した写真。
郊外の工場地帯(outlying industrial area)、高層住宅地(High Rise Areas)、周辺部(core periphery)、商業地帯(commercial ribbon)、都心部(city core)、不規則に拡散した住宅地(residential sprawl)といった要素が分布している。
(FM3-06.11: 2-1)より引用。
しかし、全ての都市が都心部を持つというわけでもありません。古代から近世までに建設された都市は都心部でも建物の密度や建物の全長があまり変化しない場合もあるためです。四周に防壁をめぐらせて、市街に建物を密集させることにより、市街地へと進入してきた敵の前進速度を低下させる効果を狙った設計であり、都心全域において建物の密度が非常に高い場合があります。
城壁によって四周を取り囲まれ、高密度に建物が配置された都市の一例。
車両が進入できる道路が極めて限られている場合が多く、下車戦闘を強いられる地形が少なくない。
(Ibid.: 2-4)より引用。
さまざまな都市の形態があることが理解できると、一般に市街戦と言っても、その都市の地形に応じた作戦や戦術が必要となることが分かると思います。
米陸軍の教範では都市の形態を道路の分布パターンによって区分しており、全部で八種類の類型があるものと考えられています。

都市を構成するさまざまな建物の特性
都市の内部にはさまざまな建物があり、戦場の地形としての効果もそれぞれ異なってきます。
例えば高層建築物は多くの都市で見られる典型的な建物であり、鉄道、港湾、空港などの物流拠点や工業団地の近くに分布することが多く、高層であればあるほど内部の捜索に必要な人員や時間も増大します。
有力な敵が立てこもる高層建築物に対する攻撃では、下階から上階に向かって攻撃する際には階段を利用することが危険すぎることも多いため、空中機動によって屋上から屋内へと突入する必要が出てきます。(歩兵小隊を用いた建物に対する攻撃要領については以前の記事をご参照ください)
高層建築物の一例。
一般に100メートルの高さを超える建物は超高層建築物と呼ばれる。
狙撃銃の射程は射手によって800メートルを超える場合もあり、建物に潜む狙撃手は市街戦の主要な脅威である。
(Ibid.: 2-6)
工業地帯や物流拠点は都市の中でも鉄道路線や高速道路、滑走路、港湾施設と近接した場所に位置することが多く、輸送や荷役などに有益な施設が集中しているため、軍事的価値もそれだけ大きい場所と言えます。したがって、市街戦となれば敵味方ともに激しい争奪戦となる可能性が高い地域であると認識しなければなりません。
注意点としては、都心部の近くに位置していても、建設されている建物の高さが低いことがよくある点です。視界、射界を広くとることができるため、それだけに周辺の建物に配置された射手の存在が脅威となりやすい地形でもあります。
物流拠点の一例。
兵站基地として利用価値の大きいこうした拠点では大規模な戦闘に発展する可能性が大きい。
市街地でも特に見通しがよく、また敷地が広いために、装甲戦闘車両を運用しやすい地形でもある。
(Ibid.)
また都市に固有の地形としては住宅地を挙げることができます。
住宅地にもさまざまな形態があり、非常に多くの部屋がある場合もあれば、一部屋だけで構成される家屋もあります。家屋の高さや間取りは千差万別ですが、一般的な住宅の壁では小銃弾が簡単に貫通することには注意しておかなければなりません。
住居への突入の際には分隊長の指揮の下で速やかに安全であることを確認し、非戦闘員を発見したならば適切に保護することも必要です。
道路に面した家族向けの住宅の一例。
納屋や車庫がある場合が多く、フェンスで周囲を取り囲んでいる場合が多い。
この規模の家屋だと射手が配置されやすい屋根裏、弾薬や物資の保管に適した地下室の捜索も必要となる。
(Ibid.: 2-5)
むすびにかえて
私たちが普段何気なく生活している都市空間でも、そこが戦場となればどのような地形として部隊の行動に影響を及ぼすのか考えてみると、新たな発見があると思います。こうした想像力を養えば、戦術的能力の向上にとって非常に有効であるでしょうし、何より市街戦の特性を理解する上で大いに助けになります。
また、地形分析の能力というものは、戦争の話だけではなく、災害のような危機的状況において、目の前の地形について適切に危険度を判断する能力を養うことにもつながるものと私は思います。地理ではさまざまな視点を持つことが大切なことですが、軍事地理学の視座もまた重要ではないでしょうか。

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参考文献
U.S. Department of the Army. 2002. Field Manual 3-06.11: Combined Arms Operations in Urban Terrain, Washington, D.C.: U.S. Governmental Printing Office.

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