最近人気の記事

2016年1月10日日曜日

講義録 アリストテレスが語る、政治の逆説的論理

政治学を一般化するならば、それは国家を統治するさまざまな技術を研究する学問であり、国家を政治的に安定化させ、内戦や反乱が発生することを未然に防止する方法もその研究対象に含まれています。
今回は、大学で私が受け持っている政治学の授業の一部から、アリストテレスの政治理論を中心に国家の安定を促進する技術に関する説明を紹介したいと思います。

政治の要諦は上流階級と下流階級の利害調整にある
アリストテレスの説によると、ある国家で内戦や革命が起きる原因は財産や地位の配分方式に不平等があることです。
つまり、その国家の構成員の間で地位や資産の配分方式について著しい不公平感があると、その不公平を是正し、適正な配分方法を再設定するために、武力または謀略という手段を行使して内戦、反乱などの政情不安が引き起こされるということです(邦訳、205頁)。

アリストテレスはこのような問題が生じる背景には、あらゆる国家で資産を多く持つ上流階級と、資産をあまり持たない下流階級がさまざまな割合で存在していることが関係していると指摘しています。
上流階級に属する人々は自分たちの能力を下流階級の人々より優れていると考える傾向があるため、平均よりも多くの富が配分される制度を要求しがちです。それとは反対に下流階級の人々は本来であれば自分たちと平等であるべき上流階級の市民たちが、自分たちよりも多くの富の配分を受けていると考えたがる傾向を持っています(同上、210-11頁)。
その結果、両者が共通の政策を決定し、国民一体となって行動を起こすには、上流階級と下流階級の利害を巧妙に調整する技術を用いることが権力者にとって不可欠となるのです。

民主制では上流階級の利益に、寡頭制では下流階級の利益に配慮せよ
次に、その具体的な対策を明らかにしなければなりませんが、アリストテレスはその国家の政治体制が民主制なのか、寡頭制なのかによって権力者は異なる対策を選択すべきだと論じていました。
その議論によれば、政治体制が民主的であるほど、少数の上流階級の利益を重視するべきであり、反対に政治体制が寡頭的であるほど多数の下流階級の利益を重視しなければならないことが主張されています。
これは一見すると、政治体制の特性に反して逆効果のようにも見えますが、アリストテレスがこのように主張したことには理由があります。
「貴族制国家のなかには、いやそればかりでなく寡頭制国家の中においても、体制の安定を保つ国家がいくつか存在しているが、それは、体制そのものに安定性があるからではないのである。そうではなくて、それは、政務担当の公職にあるものが、国政から閉め出されている階層に対しても、国政参与の資格を有する階層に対しても、ともに良好なる関係を保持していることによるのである」(同上、243頁)
寡頭制では国内にいる一部の集団しか政治に参加できないため必然的に上流階級に属する少数派の影響力が相対的に大きくなりますが、民主制では政治に参加する人数が多くなるため、下流階級に属する多数派の影響力が増大しやすくなります。

そこで指導者の立場から政治情勢を安定化させるためには、下流階級の勢力が拡大しやすい民主制においては上流階級の利益を保全するように配慮し、上流階級の影響力が増大しやすい寡頭制では下流階級の利益を権力者として配慮しなければなりません。
「何人に対しても他の人々との均衡を破る勢力増長を許してはならない」というのがアリストテレスの考え方です(同上、247頁)。

国家を安定させるための具体的な政策とは
最後に、アリストテレスは統治者が具体的に実施すべき政策について民主制の国家と寡頭制の国家に場合分けしながら、次のように説明しています。
「民主制においては富裕な人々をいたわることが必要である。彼らの財産を民衆の間に再配分するようなことはしてはならないし、そればかりでなく、彼らの土地から上がる収穫物に対してもそうした分配を行ってはならない。―この収穫物の分配ということについてはいくつかの国家において、一目につかぬような仕方で行われている―。また、富裕な人々が、費用はかかるけれども利益なるとは言えないような公共奉仕を行うこと、例えばコーラス団の支度を引き受けるとか、松明競争を費用を負担するとか、その他そのような種類の公共奉仕を行うことは、たとえ彼らが乗り気である場合でも、そうさせない方がよいのである」(同上、249-50頁)
ここでアリストテレスが指摘していることは、上流階級の財産が公共支出のために費やされるようになると、上流階級はその政治的要求を強めるようになり、政争の原因となるということです。
民主制を採用する場合、少数派である富裕層の見解はより政策に反映されにくくなり、下流階層は所得の再配分をより強く要求しやすくなるため、統治者の立場としては上流階層が革命は反乱を準備することがないように、可能な限り彼らの立場を保全することが重要となるのです。
「これに対して寡頭制においては、逆に貧乏な人々に対して、多大の配慮が払われなければならない。何らかの収益が伴うような公職は彼ら貧しい人々に割り当てるようにしなければならないし、また、もし誰か富裕な人間が、彼ら貧しい人々に対して無法を働いた時には、富裕な同じ階層の人間を相手にした場合よりも刑罰を重くしなければならない。それにまた、財産の相続は、故人の遺志による遺贈制を排して、血統による世襲制を採用しなければならない。それにまた、同一人には、一つ以上の財産の相続は許されないようにしなければならない。というのは、以上のようにすれば、財産は平均化の方向に向かうであろうし、貧しい人々からは富裕な身分になる人間がそれだけ多くなるだろう」(同上、250頁)
下流階層は上流階層の持つ地位や財産の再配分に常に関心を持っています。上流階層の意向がより強く政策に反映される寡頭制ではこの不満をいかに緩和し続けることができるかが重要な政治問題となります。
ここでアリストテレスが指摘しているのは相続の制度によって世代が下るごとに各市民の所得が均等になるように工夫することです。相続を受け取ることができる人が特定の人物に集中するように上流階層の人々は主張したがりますが、統治者は政治的安定のためにそのような要求を拒否しなければならないということです。

まとめとして
アリストテレスは古代の政治学者でありながら、現代の観点から見ても興味深い研究成果を数多く残しており、政治に関する数多くの教訓を与えています。
民主制においては上流階級の利益、寡頭制においては下流階級の利益を尊重せよというアリストテレスの学説は、一見すると逆説的で不思議な議論にも思えますが、細かく調べるとその主張には説得力があることが分かります。統治者たるもの、その国家の政治体制に応じて適切な政策を選択し、国政の安定を図ることができなくてはなりません。

KT

参考文献
アリストテレス『政治学』田中美知太郎ほか訳、中央公論新社、2009年

0 件のコメント:

コメントを投稿