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2016年1月18日月曜日

論文紹介 アメリカ軍による島嶼防衛の限界

日本の防衛戦略は有事におけるアメリカ軍の来援を前提としています。しかも、アメリカ軍が戦略的反攻を遂行し得る能力を有していることを重要な専守防衛の前提としているのです。しかし、アメリカの研究者の一部から国防予算の見直しに応じた戦略の修正を提案すべきとの意見が出されていることは、この想定と実際に異なる事態が生じる危険があることを示唆するものです。

今回は、米国の観点から島嶼防衛の戦略的重要性を主張するクレピネビッチ(Andrew Krepinevich)の論文の要点を紹介し、その戦略が東アジアの安全保障にもたらす影響を説明したいと思います。

論文紹介
Krepinevich, Andrew. 2015. "How to Deter China: Archipelagic Defense," Foreign Affairs, (March/April.), http://www.foreignaffairs.com/articles/143031/andrew-fkrepinevich-jr/how-to-deter-china

アメリカは中国の周辺諸国が有する能力を活用せよ
著者は今後の中国の行動について、時間をかけて徐々に軍事バランスを中国の優勢なものへと変化させ、周辺諸国が中国の地域覇権に従わざるを得ない国際情勢を形成しようとするだろうと見積っています。
それゆえ、著者は中国が対米開戦のリスクを回避するため、本格的な武力衝突が生起する公算はそれほど大きくないと考えています。

このような情勢判断に基づいて中国の攻撃をアメリカが抑止するには、中国の現状打破に対抗する上で日本、フィリピン、ベトナムなどの軍備増強を支援し、また統合された防衛力として再編成していく努力が必要であると論じています。
「もしアメリカが中国の決定を変えたいならば、(中略)第一列島線付近の空域と海域を管制する能力を中国が取得することを拒否しなければならない。アメリカは同盟国の戦闘ネットワークを統合し、その能力を向上させることもしなければならない。いずれもその地域での軍事的均衡を不安定化させる中国軍の活動を相殺することに役立つであろう」
これはアメリカ軍が主体的に中国軍に対抗する度合いを軽減し、中国の周辺地域を領有する国家の能力構築を助け、中国が海上優勢、航空優勢を獲得する事態を防ぐことを構想した戦略です。

アメリカ式の島嶼防衛の戦略を展開すべき
著者はさらに具体的に中国軍が設定する戦略的防衛線である第一列島線(黄海、東シナ海、南シナ海を包括している)に位置する国家に防空能力を重視した地上部隊を配備すれば、中国の接近阻止、領域拒否が可能となるとし、このような島嶼防衛のモデルをアメリカの戦略として検討すべきだとして次のように議論しています。
「第一列島線に位置している東アジア諸国においては、より高い機動力を持ち、より簡易式な(目標探知用のGIRAFFEレーダーシステムによって支援された発展型シー・スパロー等の)短距離迎撃ミサイルを装備した地上部隊を展開することで、中国空軍の航空勢力を拒否する能力を増強することが可能である。その一方で、アメリカ陸軍は日本のような同盟国と連携し、中国の巡航ミサイルを迎撃し、接近する軍用機を撃破する先進的な長射程の武器体系を運用することが可能である。第一列島線に位置してはいないが、ベトナムはすでに航空戦力における拒否能力を拡大しており、より広範な防衛努力にも貢献を果たすことができる」
さらに著者はこのような地上部隊をもってすれば機雷戦、対潜戦を遂行する上でも有利であると論じており、抑止の鍵となる報復能力についても原子力潜水艦や戦略爆撃機ではなく、地上配備型の弾道ミサイルの増強を重視することも提唱しています。

島嶼防衛構想の弱点について
このような議論を展開する一方で、著者はアメリカ軍の具体的な作戦行動について、中国軍の防衛圏に進出する作戦行動については慎重を期するべきだという見方を示しています。
「(米軍としては)危険を冒してまで中国軍の防衛圏へと軍艦を派遣することや、より重要な任務に従事している潜水艦を投入することよりも、第一列島線に沿って地対艦ミサイルを装備した地上部隊を配備するべきであるだろう」
さらに、この島嶼防衛構想が持つ弱点に関して、著者は予算削減の傾向という財政的問題と、地域の地政学的問題があると認めていますが、こうした問題を解決するに当たっては韓国、日本、フィリピン、台湾、ベトナム、オーストラリア、シンガポールなど各国の国力や国情に応じた自主的防衛努力を求めることが述べられています。

この戦略で中国を抑止できるのかは疑問
一つの戦略にもさまざまな側面があるため、この論文で示された戦略にも優れた部分を見出す研究者の立場もあり得るでしょう。
しかし、このような戦略がアメリカ国内で幅広く支持されるような状況が起これば、日本にとっても不利益となる危険が大きいと考えられます。

根本的な問題となるのは台湾の防衛です。著者の戦略構想では中国が台湾に対する武力攻撃に出た際に、有効な対応がとれない危険があります。
アメリカ軍は台湾軍の増強を直接的に支援することはできず、指揮通信システムで周辺諸国と共通化させて一体的に運用することも政治的には困難です。
もし中国がこの島嶼防衛戦略をアメリカが防衛線から台湾を除外したものだと判断すれば、それはかえって中国の抑止にとって重大な支障を来すばかりでなく、周辺諸国がアメリカ軍の抑止力に対して感じる信頼性にも悪影響が出てきます。

この研究論文は必ずしも現在のアメリカ軍の主流派の考え方を代表するわけではありませんが、それでも2015年の段階でこのような研究が真剣にアメリカ国内で公にされている意味を日本としてよく考える必要があります。
もしアメリカ軍の戦略配備や戦略方針に問題が生じれば、それだけ東アジア地域における中国軍のプレゼンスが高まることは必至です。このような研究に対して適切に批判を加える一方で、日本としても自国の防衛力を整備することの重要性を改めて認識することが重要ではないでしょうか。

KT

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