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2015年12月17日木曜日

近代的国家の成立と軍隊の官僚化

政治学、社会学、宗教学に業績を残したマックス・ウェーバーの著作には軍隊の歴史に関する記述が数多く見出されます。ウェーバーは近代的国家の成り立ちに関心があり、その関係で国家と軍隊の関係を分析する必要があったためです。

今回は、ウェーバーの議論の中でも近代国家と軍隊の関係を説明した部分を紹介したいと思います。

ウェーバーの近代国家論
ウェーバーは古代、中世、近世を経て近代的な国家が誕生する過程を概観し、近代の国家の最大の特徴に官僚制を挙げました。
その官僚制は、法令によって明確な権限が規定されていること、上級官庁による下級官庁の監督という階層制が確立されていること、そして職務の執行が全面的に文章によって定められており、文章主義が徹底されていることなどによって特徴付けられます(ウェーバー、2012年、221-225頁)。
このような官僚制の導入が成功するためには、その国内で貨幣経済が先行して成立していること、そして行政事務の拡大と複雑化も導入の要因となります(同上、237-255頁)。
このような官僚制国家の形成こそがウェーバーの考える近代国家の成り立ちでありました。
「官僚制構造は、首長の手中に物的経営手段が集中するのとあいたずさえて発達する。この物的経営手段の集中は、私的資本主義的大経営の発展のうちに周知の典型的な仕方で見られるのであって、大経営の本質的特徴はまさにその点に存している」(同上、269頁)
軍隊の歴史における官僚化の過程
ウェーバーはさらに、この官僚化こそが近代的軍隊の成り立ちで重要な側面であったことを論じています。つまり、古代や中世までの軍隊の多くが武器や糧食の多くは兵士たちの個人的、私的な負担で調達されていましたが、近代以降の軍隊(そして近代以前にあった官僚制的特徴を持つ軍隊)だと公的支出によって負担されるようになったのです。
「しかし、公共団体の場合にも、事情は同様である。官僚制的に指揮されたファラオの軍隊、ローマ共和制後期及び帝政下の軍隊、とりわけ近代の軍事国家の軍隊は、農業部族の土民軍、並びに古代都市の市民軍及び初期中世都市の民兵隊、また一切の封建的軍隊に比べると、次の点で特徴付けられる。すなわち後者にあっては軍役義務者の武装自弁と糧秣自弁とが常態であるのに、官僚制的軍隊にあっては、装備と糧秣は首長の倉庫から支給されるのである。ちょうど工業における機械の支配が、経営手段の集中を促進したのと同じように、機械戦としての現代の戦争は、この後者を(装備・糧秣など戦争経営手段の集中)を技術的に絶対不可欠の手段とするのである」(同上、269-270頁)
所要戦力の増大が官僚化の要因
軍隊の官僚化が進行した理由についてウェーバーは必然的なものがあったと考えており、それは経済的に武装を自己調達することができる市民階級だけでは国家の防衛に必要な戦力を整えることが不可能になったことが関係していると説明しています。
「これに反し首長によって装備をほどこされ、糧秣を与えられた過去の官僚制的軍隊は、経済的に武装自弁の能力を持つ市民層が、社会的及び経済的発達の結果、絶対的にか相対的にか減少し、こうして、市民の数をもってしてももはや、必要な軍隊を配置するのに不十分となるにいたって、発生した場合がほとんどである。少なくとも相対的に、つまり、国家制度に必要な兵力の量に比べて、(市民の数が)足りなくなったときに成立したのである」(同上、270頁)
つまり、安全保障上の要求として所要戦力が増大し続けると、武装を自弁できる貴族階級だけで軍隊を整えるわけにはいかなくなったので、武装を自弁できない平民階級を動員し、かつ彼らに武装を与えるための行政機構の強化が必要となったということです。
この歴史的変化を理解する上で興味深い事例としてウェーバーが挙げているのが軍服の歴史です。

軍服の着用と近代的軍制の関係
ウェーバーは古代から中世までの軍隊では兵士の多くが武装に関する費用を自己負担していたがため、全軍的に標準化された軍服というものが視られなかったと指摘しています。つまり軍服とは軍隊の官僚化が一定の段階になってはじめて可能となるのです。
「戦争経営の官僚制化は、他のどのような産業とも同様に、私的資本主義の形をとることもあろう。形はごくまちまちであるが、私的資本主義による軍隊の調達と管理は、特に西洋の傭兵軍において19世紀初頭に至るまで通例のことなのであった。三十年戦争時代には、ブランデンブルクでは兵士の多くはなお、自らその職業の物的手段である武器、馬匹、被服の所有者であった。もっとも、国家がすでに、いわば「問屋」としてそれらをほとんど供給していたのであるが。降って、プロイセンの常備軍においては、中隊長が右の物的戦争手段の所有者であったし、国家の手に頃手段が終局的に集中されるようになったのは、ようやくティルジットの和約以後のことなのであり、これと同時にはじめて軍服の着用が全般的に実施されるのに至ったのである」(272頁)
ティルジット条約は1807年にフランスとプロイセンで締結された講和条約でした。
プロイセンはナポレオンが指導するフランスとの戦争に敗れてこの条約を締結し、そのことを一つの契機として本格的な軍制改革を開始しています。ウェーバーが指摘しているように、この軍制改革を通じてプロイセン軍は軍隊の指揮系統を国王に一元化させ、一挙に官僚化を推進することになったのでした。

今回の議論の要約
ウェーバーは近代的国家の成立が官僚化にあり、軍隊の歴史においても近代以降には官僚化の過程が確認されることを指摘しました。これは政治史の観点に基づく軍隊の歴史として非常に興味深い分析であり、さまざまな軍事制度の成り立ちを説明することができる説です。
特に、軍隊の官僚化の一つの帰結として、武器、装備、被服を兵士が自己調達することがなくなり、国家の公的負担によって調達されるようになったため、全軍的に標準化された軍服が導入されたのだというウェーバーの説明は、この視座が軍隊のさまざまな側面に適用可能であることを示しています。

軍隊の歴史は軍事的文脈だけで考えがちですが、政治的文脈から捉えることによって、新たな側面を見ることができることを示唆する興味深い研究だと思います。

KT

参考文献
マックス・ウェーバー『権力と支配』濱嶋朗訳、講談社、2012年

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