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2015年12月4日金曜日

国家の「中核地域」をいかに考えるべきか

政治地理学の研究者たちは国家の中でも政治的、経済的な中枢として機能する地域があり、それを「中核地域(core area)」と呼んできました。
中核地域の特徴として挙げられるのは高い人口密度、多くの天然資源、充実した交通手段、高度な資本集積などです。
これらの特徴から中核地域は純粋に地理学の観点から重要であるだけでなく、戦争において最重要の攻撃目標としての価値があると判断されます。

とはいえ、中核地域は少し漠然とした概念であり、その重要性を示唆するものの、何をもって中核地域と見なすべきかは研究者によって意見が異なります。
今回は1960年代から80年代までの政治地理学のいくつかの文献を参考にした上で、中核地域の定義とその解釈を巡る論争を紹介したいと思います。

学説1 中核地域とは国家の歴史的起源である
地理学者のパウンズとボールは国家の中核地域について歴史的な観点から考えなければならないという立場をとっていました。
彼らの説によると、中核地域は形成されてから間もない国家が最初に領有している領域のことに他なりません。例えばフランスの歴史でいえばパリが中核地域となり、イギリスの歴史でいえばロンドンが中核地域を構成するということになります(Pounds and Ball 1964)。

さらにパウンズらは中核地域はその国家がその後にどれだけ拡張可能であるかを強く規定していると主張しています。例えば、もしその国家が初期に保有する中核地域の生産力が他の国家のそれよりも優れており、そのために余剰生産物をより多く供給することができるとすれば、それだけその国家は軍備をより素早く整備し、自国を防衛し、さらには他国を征服しやすくなると考えられます(Ibid.)。
つまり、その国家が大国へと飛躍するか、中小国のままで終わるかは最初にその国家が有する核心地域の優劣によって大部分が決定されてしまうと考えられるのです。

学説2 中核地域は国家の歴史的起源とは限らない

しかし、パウンズらの議論を批判的に考えると、中核地域が自然環境によって制約される度合いを過大評価している可能性があるようにも思われます。
ヘクターなどの研究者は、パウンズらの議論を受けて、スペイン、ポルトガル、フランス、イギリスの中核地域に関する調査研究を実施しており、それらの中核地域では強力な統治機構が整備されているという共通した特徴があることを明らかにしました。
それは都市部に居住する商人と農村部に居住する地主の間の利害関係を調整し、均衡させるための組織でした。ヘクターらは中核地域が形成されるためには自然環境だけが重要なのでなく、複雑な利害関係を処理して都市と農村の共存を可能にする統治能力の優劣もまた必要であることを指摘したのです(Hechter and Brustein 1980)。

学説3 中核地域の定義は一通りではない

中核地域を巡る議論が展開される中で、地理学者ブルクハルトは中核地域が明確に定義された概念ではなく、少なくとも三通りの意味に整理することができるということを論じました(Burghart 1969)。

・領域の拡大がその周囲に近代的な領域国家を形成する胚域としての「中心的中核地域」。
・領域拡大に失敗した胚域としての「起源的中核地域」。
・ある国家が現在において政治的、経済的に最も重要な領域としての「現代的中核地域」。

こうして考えてみると、一つの国家にも複数の中核地域、それも機能や重要性がそれぞれ異なる中核地域があってもおかしくありません。いわば、その国家の形態によって中核地域の成り立ちや政治的、経済的、軍事的機能も変化してしかるべきです。
また、ブルクハルトが指摘している事項として、これまでの中核地域の分析は西欧の国家の事例が中心に展開されており、非西欧の事例に適用可能かどうかが不明確であるという問題がありました。

結論、安全保障における中核地域の問題

こうした中核地域の議論を振り返ってみると、それは国家の成り立ちやその形態によって複数の中核地域があり得ると考えるべきだと分かりました。しかし、安全保障の観点からこれをどのように理会すべきなのでしょうか。少なくとも次の二つのことが言えます。

まず、我が方にとって中核地域はその国家の有する国力の源泉であり、それは国家の安全保障において重点的に防衛すべき戦略陣地を形成しています。
首都はもちろんですが、首都以外の中核地域についても陸海空各戦力を継続的に配備するだけでなく、中核地域を結ぶ交通・輸送手段についても特別な軍事的注意を払う必要があります。
次に敵にとって中核地域を攻撃されることは国力を最も効率的に破壊されることです。したがって、特に長期的な武力紛争が予想される場合には早期からこれらを戦略上の目標に設定し、効果的な攻撃を加えるか、中核地域としての機能を奪うように孤立化させなければなりません。

中核地域の概念は単に政治地理学の研究で重要なだけでなく、このような軍事地理学の分析でも援用することが可能であり、例えば核戦略のような領域では対都市攻撃の計画で、核弾頭の配分問題を考える際に中核地域の分析を活用することができます。

KT

参考文献
Hechter, M., and Brustein, W. 1980. "Regional Modes of Production and Patterns of State Formation in Western Europe," American Journal of Sociology, 85: 1061-94.
Burghartdt, A. 1969. "The Core Concept in Political Geography: A Definition of Terms," Canadian Geographer, 63: 349-53.
Pounds, N. J. G. 1963. Political Geography, New York: McGraw Hill.
Pounds, N. J. G., and Ball, S. S. 1964. "Core Area and the Development of the European States System," Annals, Association of American Geographers, 54: 24-40.

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