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2015年12月22日火曜日

論文紹介 航空母艦に将来性はあるのか

海軍の歴史を振り返ると、それは技術革新の歴史であったことが分かります。内燃機関の導入、砲弾の威力向上、軍艦の機能分化、装甲艦の一般化など新たな技術が登場すれば、それは海上戦闘の様相を一変させ、引いては国際政治の勢力関係を変えてきました。

今回は、20世紀の海軍史に大きな影響を与えた航空母艦を取り上げ、21世紀における将来性について評価した研究論文を紹介したいと思います。

文献情報
Rubel, Robert C. 2011. "The Future of Aircraft Carriers."Naval War College Review, 64 (4): 13–27.

この論文で著者は教義という観点から米海軍における空母の運用を考察した上で、現在の海軍を取り巻く技術的環境を分析し、両者を総合することで空母の将来性を評価しています。

空母の発達と主力艦としての運用
当初、米海軍における空母の運用は情報収集を主眼としたものでした。これは軍事目的での航空機の運用が(第一次世界大戦における)陸上作戦の航空偵察から始まったことが関係しており、いわば空母は海上で偵察機を運用するためのプラットフォームとして位置付けられていたのです(Rubel 2011: 15)。しかし、このような空母の運用は航空機の性能が改善されるにつれて変化していきました。

米海軍で空母が戦闘で決定的役割を果たすことが認識されるようになった契機は第二次世界大戦であり、日本海軍による真珠湾攻撃、米海軍によるドゥーリットル空襲で一撃離脱を基本とする空母の集中運用の有効性が確認されることになります(Ibid.)。
それまで海軍では主力艦(capital ship)という用語は主として排水量が大きく、砲力に優れた艦艇に対して用いられてきましたが、航空攻撃の威力が増大するにつれて空母も主力艦としての役割を果たし得るという考え方が広がり、主力艦の一種として見なされるようになります(Ibid.: 15-6)。

技術革新による空母の脆弱性の増大
第二次世界大戦が終結すると、空母の新たな役割として核攻撃のプラットフォームが追加されることになりました。核ミサイルを塔載した原子力潜水艦の運用が確立されるまでの間、空母は洋上から戦略爆撃機を発進させるという任務を担い、核抑止の実効性を担保することになりました(Ibid.: 16)。
とはいえ、弾道ミサイルを発射できる原子力潜水艦によってこの機能は完全に代替されることになったこともあり、敵のミサイルの有効射程に空母を近付ける危険が次第に米海軍の内部でも重視されるようになっていきます(Ibid.)。

その後、空母の役割は洋上の滑走路として以降していきました。1973年の第四次中東戦争で米海軍は三個の空母群をイスラエル軍の支援のために東地中海へと派遣しています(Ibid.: 17)。この事態への対応でソ連軍はそれら空母に対して航空戦力で数的優勢を占めるために5個の飛行隊を作戦地域に展開できる態勢をとりました(Ibid.)。
この時に米ソ両軍が直接交戦することはかなったものの、この時の経験は米海軍の空母の運用を支配する従来の教義に疑問を投げかけました。
空母の脆弱性は技術環境の変化によってますます増加する傾向があるにもかかわらず、第四次中東戦争で実施したような集中運用をとることが果たして望ましいと言えるのか、米海軍の内部で教義の再検討が進められることになります。

その結果、近年では米海軍における空母は『地政学的な駒(geopolitical chess piece)』として位置付けが重視されることになりつつあります(Ibid.: 17-8)。つまり、空母が持つ戦闘力を直接行使するというよりも、それを外交上のメッセージとして活用することに主眼を置くようになっているということです。

新たな海軍技術の動向と空母の運用への影響
著者の説によれば、将来の空母の運用に関する教義に重大な影響を与えうる新たな技術が開発されており、その動向を展望すれば空母の役割は今後ますます限定される傾向にあると考えられます。
空母の脆弱性を増大させる技術の一つとして著者が注目しているのが対艦弾道ミサイルの技術です。禁煙、中国が開発を継続しているDF-21Fはその典型的な事例であり、射程、威力、精度が改善し続ければ、それは「中国による台湾侵攻や中国の沿岸近くでの先制行動に対して米国が介入することを抑止することに役立つであろう」と考えられています(Ibid.: 19)。

その他にも、潜水艦、対艦巡航ミサイルも考察の対象とされています。確かに潜水艦が直ちに空母の運用を不可能にするというわけではありませんが、潜水艦の存在は空母の運用に不可欠な機動の自由を妨げることに寄与することは間違いありません(Ibid: 20)。
著者によると、米海軍の内部で実施されている兵棋演習では小型の空母を多数保有することによって、こうした脅威に対する空母の脆弱性を緩和できるのではないかという研究もなされたことがあるようです。しかし、その結論として空母の小型化により飛行甲板の面積が縮小され、艦載機の運用効率が低下するだけでなく、多くの空母を整備するための費用がさらにかさむようになることが判明しました(Ibid.)。

このほかにも、防空システムの発達、F-35Bのような垂直離着陸が可能な機体の開発、さらに無人機の普及が、空母を艦隊の中核として位置付ける必要性に疑問を投げかけています(Ibid.: 20-1)。こうした装備の性能が向上すれば、正規空母が果たしてきた能力を補完することができる可能性があるとも考えられるためです(Ibid.: 21-3)。

空母の将来性は疑わしい
著者は近い将来において空母の役割が完全に消滅するとは考えにくいが、空母が遂行できる任務は一層限定される傾向にあると評価しています。
「海軍の航空畑によって示された発想の柔軟性によっては、新たな教義の役割が出現するかもしれない。しかし、それら新たな役割が出現したとしても、非常に大きな(米海軍の)空母の保有量が正当化されることはあり得ないだろう。そして、海上勢力の最高権威として、そして艦隊建設の決定要因としての空母の時代は終わろうとしてるかもしれない」(Rubel 2011: 26)
著者の説に対しては賛否両論あるでしょうが、もしこの説を受け入れるのであれば、米国の覇権を支えてきた海上戦力の優位性が時間の経過とともに失われる可能性が考えられます。
これまでの国際政治において主導的地位を保持してきた米国は、世界各地に空母を派遣する能力を直接間接に活用してきましたが、今後この空母への対抗手段が発達すれば、空母の機能はさらに象徴的なものとなり、最終的には20世紀中葉に戦艦のような歴史を辿ることさえあり得るのです。

無論、この論文をもって空母の将来性の問題が語りつくされたわけではありません。次世代の海上戦闘の様相についてはさらなる研究が強く求められています。
海軍に関する技術革新の動向は、海洋国家である日本の安全保障に多大な影響をもたらすことに注意しなければなりません。

KT

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