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2015年10月28日水曜日

戦技研究 戦場で生き残るための射撃と運動の技術

現代の戦闘の特徴の一つは、兵士一人ひとりが状況を的確に判断して行動することが要求されることです。
第一線が広がるほど現場の士官や下士官は兵卒の行動を統制しづらくなるため、それだけ兵卒に対して実施すべき戦闘訓練の内容も高度なものとならざるを得ません。

このことを理解するために、今回は米陸軍の教範を参考資料として射撃と運動(fire and movement)と呼ばれる戦技を説明し、分隊のレベルでの交戦の要領の一部を紹介したいと思います。
分隊の楔形隊形の一例。
この図だと分隊は前方の班と後方の班で編成されている。
分隊長は分隊の中心に位置して前後の班の両方の指揮をとる。
(FM3-21.75: 7-5)より引用。
一般に分隊は10メートル程度の間隔を置いて移動するのが基本となりますが、これは敵の射撃を受けて一度に複数名の損害が出ることを避けるためのものであり、地形によって柔軟に変更することができます。
分隊が敵と遭遇して交戦が始まれば、兵士は通常ならば直ちに敵に対して前進を開始し、ばあいによっては後退しますが、いずれにしても射撃と運動と呼ばれる技術を駆使しなければなりません。
射撃と運動とは一方が火力の基盤を提供する間に他方が機動するための技術であり(FM3-21.75: 7-9)、これを適切に遂行するためには射撃と運動が同時に実施されなければなりません。
つまり、射撃と運動は次の二つの要素を組み合わせたものと言えます。

  • 射撃を行う側は火力によって敵を制圧し、敵が運動を行う側を射撃することを防がなければなりません。
  • 運動を行う側は射撃を行う側が実際に射撃を開始するまで移動を開始してはならず、援護射撃の下で別の陣地に移動を果たさなければなりません(Ibid.)。

手前の兵士が射撃を行い、奥の兵士がその間に運動を行っている。
ここでの射撃と運動は同時に実施されなければならない。
(FM3-21.75: 7-3)より引用。
射撃と運動は交戦において味方が確実に移動することを助ける重要な戦技と言えますが、それでも限界はあります。
一見して分かるように、味方よりも敵の数が多ければ、それだけ前進しようとする兵士に対して敵は自由に射撃しやすくなると言えます。

したがって、運動を開始する兵士は行動を起こす前に止まり、次に自分が移動しようとする地点がどこであるかを事前に確認し、そこに至るまでの経路の危険性を自分で判断しなければなりません。
もし、その兵士が低姿勢で安全に移動できる経路を見つけたならば、むやみに早道を通ることは避けるべきでしょう。
ほふくの実施要領。
米軍の教範では低姿勢と高姿勢の二種類のほふくが紹介されている。
(FM3-21.75: 7-2)より引用。
しかし、どうしても敵の射界の中を早駆けで通過しなければならない場合もあります。
この時に注意を要するのが現在の場所から次の場所へ移動するために要する時間です。米軍の教範では次のように述べられています。
「それぞれ早駆けは3秒から5秒までしか続けて実施してはならない。早駆けは敵の機関銃手や小銃手から捕捉されることを避けるため、短く実施されるものである」(Ibid.: 7-2)
援護射撃があるとしても、敵の射界を通過する際には敵が自分を照準しようとしていることを忘れてはなりません。
敵の射手が照準を定めるまでの平均的な時間を考えれば、5秒を超えて射界に留まり続けることは許容できない危険な状態です。
射撃と運動を開始する前に、兵士各人は敵の所在からその射界を判断し、自分が次に移動すべき場所を適切に判断した上で、そこが自分の足で5秒以内に到達できるかどうかを予測する必要があります。

この射撃と運動という技術は現代の戦場がいかに火力で支配されているのかを理解する上で重要です。
かつて日本ではPKOで自衛隊を派遣する際に機関銃の携行は過剰ではないかなどと公に議論されたこともありましたが、射撃と運動という交戦の基本的な技術を知れば、戦場において火力は兵士の生命を守る手段そのものであることが分かるのではないでしょうか。

KT

参考文献
U.S. Department of the Army. 2008. Field Manual 3-21.75: The Warrior Ethos and Soldier Combat Skills, Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office.

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