最近人気の記事

2015年10月12日月曜日

論文紹介 米国のオフショア・コントロールと日中貿易のリスク


オフショア・コントロール(offshore control)とは、現在米国で研究が進んでいる対中戦略の一種です。
すでに中国は第一列島線、第二列島線によって地理的に区切られた防衛圏を形成する構想を明らかにしており、近年の中国の海洋進出はこのような構想を実現するための活動と考えられています。
中国が設定する第一列島線と第二列島線の位置関係。
(平山2014: 11)より引用。
この中国の戦略に対抗するため、米国では当初、海軍と空軍の協同連携によって中国の重層的な防衛線を潜入突破することを目指す戦略構想、エアシー・バトルの研究が始まりました。
しかし、予算見積の結果を受けて、エアシー・バトルは国防予算の制約上、実行可能性に乏しいことが批判されるようになりました。
結局2015年現在では抜本的に戦略の見直しが進められることになっており、そのエアシー・バトルの代替案として浮上したのがオフショア・コントロールです。

今回は、海上自衛隊幹部学校から出されている研究論文を紹介し、特に日本の立場からオフショア・バランスを考察した部分を中心に紹介します。

文献情報
平山茂敏「オフショア・コントロール戦略を論ずる―「戦争を終わらせるための戦略」と日本の選択」『海幹校戦略研究』2014年6月(4・1)6-26頁
(http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/4-1/4-1-2.pdf)

この論文は、米国のオフショア・バランスがどのような戦略であるのかを解明するために、この構想の提唱者である米国防大学のハメス(T. X. Hammes)の研究内容を調査しています。

その調査結果をまとめると、オフショア・コントロールとは中国と米国の限定戦争を想定した上で次のような構想が盛り込まれています。

(1)中国の沿岸から第一列島線までの海域に潜水艦部隊等を進出させ、中国海軍がその海域で海上優勢を確立することを拒否する。
(2)中国の第一列島線上に位置する海域または空域を防衛する。
(3)第一列島線から外側の海域または空域に対する支配を強化し、特に中国の船舶に対してはチョークポイントを封鎖する。

チョークポイントの封鎖はいわば中国の軍艦、商船の両方を海上交通路から排除するという海洋戦略であり、米中の対立が長期化する可能性を考慮したものです。
オフショア・コントロールで封鎖されるチョークポイントの位置関係。
中国付近の赤線で示された地域は特に対中拒否、対中防衛が予定される。
(平山2014: 12)より引用。
また著者はこのオフショア・コントロールに対して中国がとりうる可能行動について検討し、次のような対抗戦略がありうると論じていることを紹介しています。

(1)米国の同盟国、特に韓国、日本、オーストラリアにある米軍基地の使用を妨害し、オフショア・バランスの実行に必要な同盟国の協力を阻止する。
(2)米国の同盟国を直接攻撃することで米国との戦争に巻き込まれる恐怖を与え、同盟国を個別に米国の陣営から離脱させる。
(3)米国の同盟国に対する中国の海上封鎖により、特に韓国全域と西日本に対する海上交通路に対して脅威を及ぼす。
(4)直接の戦闘を回避しながらも、世界規模で通商破壊を実施する。
(5)米国と同盟国周辺への機雷敷設
(6)無人機攻撃
(7)宇宙空間およびサイバー空間での攻撃
(8)金融上の攻撃

このように著者はオフショア・コントロールという戦略の全体像とそれに対して予想される中国の反応を整理した上で、これが日本の安全保障にとって直接的に関係することを強調しています。
「日本は米国と日米安保条約で結ばれた同盟国であり、地理的には米中がせめぎ合う第1列島線上に長大に横たわっていることから、オフショア・コントロール戦略の影響を避けることは出来ない」(同上、19)
そこで著者は四種類の日本の戦略を比較検討を行っています。

第一の選択肢はオフショア・コントロールへの全面参加であり、「日本が米国と肩を並べて戦い、オフショア・コントロールの一翼を担う」ということが予定されています(同上、20頁)。

第二の選択肢は部分参加であり、「米国支持の姿勢を明らかにするが、中国が日本又は在日米軍基地への攻撃を行わない場合は、防衛出動を命じることができないため、直接的な戦闘活動以
外での支援を行う」という戦略です(同上)。

第三の選択肢は少し分かりにくい表現ですが「部分的不参加」と区分されており、「米中いずれに対する支持も表明しない。紛争に際しての中立性を主張し、紛争に直接参加する米軍部隊による在日米軍の基地使用は拒否し、紛争に参加する米軍機に限り領空通過も拒否する」という戦略構想となります(同上21頁)。

第四の選択肢は全面不参加であり、「米中いずれの支持も表明しないが、在日米軍基地の使用は拒否し、全ての米軍機の領空通過を拒否する等、実質的には中国寄りの行動を取る」と説明されています(同上21頁)。

日本が米国の味方という立場でオフショア・コントロールに参加すれば(第一、第二の選択肢)、それは中国との敵対を意味するため、沖縄の基地は中国の弾道ミサイルの攻撃目標となるだけでなく、中国に対する経済的封鎖に参加する場合には対中貿易の停止という形で日本経済に影響があると予想されます。
この事態を避けるために、より中国寄りの立場で中立(第三、第四の選択肢)を選択すると、それは事実上の「中国側参戦」と米国に見なされ、中国に対する経済的封鎖の一環として中国に寄港する日本の船舶も監視または拿捕の対象となる、と著者は指摘しています(同上23頁)。

著者は極端な第一と第四の選択肢は非現実的であり、実行可能性があるのは第二、第三の選択肢だと判断しています。
というのも、第一の戦略案を採用する場合、中国が在日米軍基地に攻撃を行うことが前提となるので、中国にとって最も不利な状況を意図的に進んで行うことがないと想定する限りにおいては、非現実的な案と言えます。

また第四の案は日本が完全に米国の陣営から離脱する戦略であり、それは日本にとってほとんど利点がないので、そもそも戦略としての適否を検討するに値しません。
そこで、第二と第三の戦略が問題となりますが、著者は相対的に見て第二の選択肢のほうが日本にとっては有利ではないかと結論付けています。
「現実的選択は部分的参加か、部分的不参加に限られるが、自主的に対中貿易を中断する部分的参加が、強制的に中断させられる部分的不参加よりも、グローバル経済へのアクセスが保証されることから日本にとっては望ましい」(同上24頁)
いわば、このオフショア・コントロールという米国の戦略を踏まえ、日本として選択すべき戦略は、世界経済との接続を分断される事態を回避するため、進んで対中貿易を中断する処置が必要となるということです。

この研究論文の成果として、米国がオフショア・コントロールという戦略を採用した場合、日本が最も妥当な戦略を選択しようとすると、中国の経済的封鎖の必要から日中貿易を全面的に停止する必要が出てくること、しかもそれは長期化する可能性があることを明らかにしたことでしょう。

簡単ではありますが、現在の日中貿易の状況を確認しておきましょう。
2012年から2014年までの日本の国別で見た輸出額で中国のデータを調べると、2012年は1446億8600万ドル、2013年は1298億5100万ドル、2014年は1271億500万ドルと微減で推移しており、輸入額を見ると2012年は1890億1900万ドル、2013年は1821億9200万ドル、2014年に1820億7100万ドルと、やはり微減のまま推移しています(日本貿易振興機構2015:114)。
2012年以降の日本の対中貿易の短期動向。
わずかに減少傾向がみられるがほとんど横ばいで推移。
しかし、全体としてみれば横ばいの状況であり、日本の輸出入全体に占める中国の割合は小さくありません。参考として2014年の米国との貿易規模を挙げると、日本の輸出総額は1294億4100万ドル、輸入総額は717億5100万ドルです(同上)。
このことは、オフショア・コントロールが米国の戦略として採用されたならば、日本の対中貿易は経済的リスクを抱えることを示唆しています。

まとめると、日米同盟を強化して中国を封じ込めつつ、日中貿易を拡大することは、オフショア・コントロールという米国の戦略の下で両立しえません。
日中貿易の停止はオフショア・コントロールに欠かすことができない要素であり、もし米中の対決が決定的なものとなれば、日本が中立の立場で中国との貿易を継続すれば、それは米国への敵対行為と見なされるものと考える必要があります。

無論、まだ米国がオフショア・コントロールという戦略を明示的に採用したと決まったわけではありません。しかし、それはありうるシナリオの一つであるということを理解しておくことが日本にとって必要でしょう。

KT

参考文献
日本貿易振興機構『2015年版ジェトロ世界貿易投資報告―グローバル・ビジネス深化に向けた新たな取り組み』日本貿易振興機構、2015年

0 件のコメント:

コメントを投稿