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2015年8月18日火曜日

論文紹介 女性を戦闘から排除すべきなのか


近年、米軍では戦闘任務に女性の兵士を充てることが適切かどうかが盛んに議論されています。
戦争の長い歴史を振り返ると、戦場で命を落としてきたのは圧倒的に男性であり、女性はそもそも兵士として見なされていませんでした。
したがって、女性が兵士として戦闘を担当するべきかどうかという問題は、新しい論点であると言えるかもしれません。
今回は、女性が歩兵として戦闘任務に直接的に従事することの妥当性を検討した論文を紹介したいと思います。

文献情報
Rice, Charles E. 2015. "Women in the Infantry: Understanding Issues of Physical Strength, Economics, and Small-Unit Cohesion," Military Review, (March-April): 48-55.

著者によれば、女性が兵士として戦闘に従事する契機となったのは、国防長官のパネッタ(Leon Panetta)による規制の撤廃でした。
元々、米軍では旅団以下のレベルで女性が地上戦闘に直接的に従事することを認めていませんでした(Rice 2015: 48)。
しかし、男女の機会平等という考え方が政府内部で普及すると、これまで男性だけに認められていた任務を女性にも開放することが平等ではないかというパネッタのような見解が一般に述べられるようになります。

著者は、このパネッタの見解に対して反対の立場をとっており、その理由の一つとして戦闘の特性について多角的に考察しています。

例えば、パネッタは戦場における女性兵士の勇敢さが男性兵士に劣るものではないとしています。
この論点について著者は、女性兵士が男性兵士に勇敢さで劣るものではないことは誰も異議をさしはさむものではないと断った上で、本質的な問題はそこにあるのではなく、地上戦闘で敵と近接する歩兵などの任務に必要な身体的特性を持っていないことであると指摘しています(Rice 2015: 49)。
「全般的に言えば、歩兵の任務に従事するために必要な体力の基準は二つの側面から成り立っている。一つの側面は、筋力、速力、持久力、敏捷性である。第二の側面は大規模な戦闘行動の異化ストレス(catabolic stress)に晒されながらそれら身体能力を維持する能力である」(Rice 2015: 50)
このように兵士に必要な身体能力を説明した上で、著者は海軍衛生研究所が2,000名の海兵隊員を対象に実施した戦闘体力検定(Combat Fitness Test)の結果を紹介しています。
これは武装障害走、戦闘状況における各種運動、手榴弾投擲、装備や負傷者の運搬などから兵士としての身体的能力を定量的に把握するものです。

この調査結果によると、男性の海兵隊員と女性の海兵隊員では能力に顕著な差があり、例えば17歳から26歳の男性兵士が完全武装で検定を実施した場合に得られる平均的な成績は、同年代の女性兵士が武装なしという有利な条件で検定を実施した場合に得られる成績を上回っています(Rice 2015: 50)。
著者は、女性の身体的能力を改善させる可能性があることを認めながらも、一般的に兵士としての身体的能力は男性に劣らざるを得ないと論じています。

さらに加えて、戦闘において身体的能力を維持する能力についても女性は脆弱性を持つと指摘されています。
戦場で歩兵は睡眠を剥奪され、栄養の不足、極めて厳しい自然環境の中で行動しなければなりません。これが筋力の急激な低下を引き起こします。
女性兵士の身体的能力を表面的に改善することができたとしても、戦闘中の兵士の身体で起きる筋力の低下のことを考えれば、女性兵士は男性兵士よりも大きな危険を抱えざるを得ません(Rice 2015: 51)。

それ以外にも、女性兵士が戦闘任務に直接従事させる問題点が検討されていますが、著者の結論として述べられているのはパネッタ長官の方針が軍事的根拠に基づいたものではないということです。
これは現在の米軍の方針を再検討することを要求する結論であり、また男女同権の考え方とも対立する議論でしょう。

元海兵隊員の著者は誤解を受けることを承知の上で、あえてこの論争的な議論を提起しています。
米国において女性兵士の活躍はマスコミの注目されやすい話題であり、女性はますます第一線で行動する場面が増加しています。しかし、そのことが逆説的に女性兵士を危険な状況に追い込んでいる可能性はないのでしょうか。

戦場での身体能力の低下はその兵士の生死にかかわるだけではなく、その部隊の作戦行動の成否さえも左右します。
賛否は別として、戦闘任務における女性兵士の特性は検証される必要があることは間違いありません。

KT

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