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2015年8月13日木曜日

文献紹介 平和のための核兵器

核弾頭の空輸手順を模擬弾で訓練する米空軍の兵士たち
日本が史上初の核攻撃を受けてから今年で70年の節目を迎えますが、日本ではまだまだ核の戦略的側面にまで議論が及んでいない状況が続いています。

現代の戦略研究の重要な柱でもある核戦略が十分に研究されていない背景の一つに、核戦略に対する誤解があるのかもしれません。
つまり、核戦略は核戦争を戦うための戦略理論であり、それを受け入れることは核の使用を許容することである、という見方があるのかもしれません。これは大きな間違いだと言えます。

今回は、1980年代に核戦略に対する誤解を払しょくすることに寄与したコリン・グレイの研究を紹介したいと思います。
そこでは核戦争を防ぐためにこそ核戦略が不可欠であることが説明されています。

文献情報
Gray, Collin. 1982. "'Dangerous to your Health': The Debate over Nuclear Strategy and War," Orbis, 6(Summer), pp. 327-49.

著者がこの論文を執筆していた当時、米国国内では核戦略の基本的な存在意義に関する疑問が盛んに提起されていました。
何のために核戦力を強化するのか、核戦争を回避するためには武力以外の手段によるべきではないか、などと核戦略それ自体を批判する見解もありました。

だからこそ、グレイは核戦略の重要性について改めて議論する必要があると判断し、このような論文を発表しました。

まず、この論文で指摘されていることですが、西側陣営、特に米国の核戦略は基本的に抑止を達成しようとする戦略理論の体系であり、核戦力を行使することは前提とされているわけではない、ということです。

そもそも、戦略とは軍事力を政治的目的のために使用することを意味しますが、核戦力の破壊力はあまりにも大き過ぎるため、これを使用しても政治的目的を効率的に達成することは技術的に極めて困難です。
そうなると、核戦力の役割は通常戦力とは全く異なるものでなければなりません。だからこそ、米国の核戦略では核が抑止のための手段とされており、具体的には当時敵対していたソ連の進攻を未然に防ぐための手段として考えられているのです。
「この抑止は完璧に信用できるものでなければならない。それゆえ、侵略を計画する国家に対しては、その侵略で軍事的な便益を獲得することができないこと、我々西側とのいかなる紛争においても勝利が望めないことを理解させなければならない」
ここで大事なことは「いかなる紛争においても勝利が望めないことを理解させなければならない」という部分です。これこそが、戦略家の視座から見た核の重要な目的であると言えます。

いわば、核を持っている国家に対して戦争を仕掛けるとなると、ソ連から見て一時的に優勢に戦況が推移したとしても、究極的には核による反撃ですべての戦果を失う危険や、自国の政経中枢にまで被害が及ぶ危険があると考えざるをえなくなります。
このように政策決定者に対して心理的影響を与えることにより、ソ連が西側との本格的な武力衝突回避させるように誘因を与えることができるのです。これは核戦略の本来の効用に含まれます。
「核戦争を遂行する準備を整えることは、必ずしも核戦争を遂行する願望を持つ証拠ではない。また、それは戦争が勃発する可能性を大きくするものでもないのである」
核戦力は確かに使い方次第では過剰な殺戮をもたらす武器です。
しかし、その事実をもって核戦力の重要性をすべて否定すれば、核による抑止さえも否定することになり、かえって平和を脅かすことになってしまいます。それは誰にとっても望ましい結果ではないことは明らかです。

今一度、安全保障の原点に立ち返り、核と平和について考えることが重要ではないでしょうか。

KT

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