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2015年7月24日金曜日

徴兵制と志願制、どちらを採用すべきか


軍事力を構成する有形無形の資源を調達する方法を選択することは、軍事行政の基本問題の一つです。
今回は、人的資源を獲得する上で重要な兵役制度に注目し、これを徴兵制と志願制に区分した上で、それぞれにどのようなメリットとデメリットがあるのかを説明してみたいと思います。

まず徴兵制の特徴は人的資源を安定的に獲得する機能に優れた兵役であるということです。
これは戦争が極めて長期化している状況において重要な意味を持っています。前線で発生する人的損失を回復する能力が国家として優れていれば、長期間にわたって持久戦を遂行することが可能です。

しかし、若年労働者を徴兵することによって、労働市場での供給が縮小し、企業は生産力を拡充する際に必要な新規人材を獲得するための費用が増大してしまいます。これは経済成長を阻害する要因として作用します。

さらに徴兵制の大きな問題となるのは、登録、選抜、訓練など徴兵業務に関連する管理費用が肥大化する傾向があることです。これは、武器や装備の近代化に投下できる軍事予算が相対的に減少してしまうことを意味しています(Fisher 1969; Oi 1967)。
そうなると、軍隊の組織構造として一人あたりに投下できる武器や装備の量または質を低下させなければなりません(Hansen and Weisbrod; Fisher 1969)。

したがって、徴兵制が望ましいかどうかは、その国家が採用する軍事教義の内容によって異なると思われます。
ここでは、大規模な陸上戦力により長大な戦線を長期間にわたって維持し、かつ人海戦術のような戦闘の方式をとるのであれば、徴兵制は重要な選択肢である、とだけ述べておきます。

次に志願制の特徴に移ると、この制度では各労働者が自己の選択として兵役に就くものであるため、管理業務に要する費用の肥大化を抑制する効果があります。

軍隊が戦闘を遂行する上で武器や装備に依拠する比率を高めることになれば、次々と大量の新兵に短期的な教育訓練を実施していくよりも、少数の新兵により専門的な教育訓練を実施し、また可能な限り昇進させようとする傾向がもたらされます。
そのため、志願制は人数が少数であったとしても、高度な専門技術を持つ部隊を強化したい場合には有用な兵役制度であるということが言えます。

しかし、志願制の問題は、軍隊が企業と労働条件において競合しなければならないことです(Altman and Barro 1971)。
優れた人材を獲得するためには、平均的な民間所得よりも高い給与が誘因として必要となりますが、どれだけの応募者が出てくるかは景気の状況によって常に変化しています(Fisher 1969; Oi 1967)。
一般に景気が改善すると、企業は採用を強化するので軍隊の募集業務は厳しさを増しますが、反対に契機が悪化して企業が採用に慎重になると、軍隊の募集業務の成績は改善される傾向があります。

志願制で部隊に必要な能力を持つ人的資源を獲得できるかどうかは、経済状況という不確定な要素によって影響を受けざるをえません。
それでも、志願制は少数の専門技術を持つ兵士で部隊を強化したい場合には有効であると考えられます。

軍事行政は軍事と民間の両方の領域にまたがって資源を再配分する複雑な活動ですが、あえて要約すれば、軍事行政の観点から徴兵制と志願制にはそれぞれに利害得失があると言えるでしょう。
もし軍事力の規模だけに限定して見れば、徴兵制は志願制よりも優れていると言えます。しかし、軍事力の効率という問題から見れば、志願制は徴兵制よりも優れているのです(Leigh and Berney 1971)。

結局のところ、兵役制度は他の安全保障の問題と切り離して議論することができないテーマです。どの程度の兵員が必要なのか、どのような武器を配備するのか、どのような戦略、作戦、戦術を準備するのか、こうした認識の上においてはじめて兵役制度の適否を判断することができるようになるのです。

KT

参考文献
Altman, S. F. and Barro, R. J. 1971. "The Supply of Military Personnel in the Absence of the Draft," American Economic Review, Papers and Proceedings, 57(2): 19-31.
Fisher, A. C. 1969. "The Cost of Draft and the Cost of Ending the Draft," American Economic Review, 59(3): 239-54.
Hansen, L. and Weisbrod, B. A. 1967. "The Economics of the Military Draft," Quarterly Journal of Economics, 81(3): 395-421.
Leigh, D. E. and Berney, R. E. 1971. "The Distribution of Hostile Casualties in Draft-Eligible Males with Differing Socio-Economic Characteristics," Social Science Quarterly, 51(4): 932-40.
Oi, W. Y. 1967. "The Economic Cost of the Draft," American Economic Review, 57(2): 59-62.

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