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2015年6月18日木曜日

軍事学における兵站とは何か


軍事学の研究においても、兵站という専門用語を定義することは簡単なことではありません。
それは学説によって意味が異なるためですが、陸軍、海軍、空軍によっても意味合いが異なることも関係しています。
しかし、今回は兵站を理解する出発点として、19世紀の学説を中心に兵站の概念がどのように考えられてきたのかを整理してみたいと思います。

19世紀の軍事学の研究に大きく寄与したアントワーヌ・アンリ・ジョミニの説によれば、兵站は部隊を移動させる戦争術の一種であり、戦略と戦術に並ぶ戦争術の第三の部門に位置付けられています。
その具体的な内容について見てみると、18に区分された上で説明されています。

その説明の一部だけを取り上げると、兵站は軍を移動させて作戦行動を開始するために必要な物資の調達、管理や、現地で必要な情報資料を獲得するための偵察、部隊を行進させるために前衛、後衛、側衛などを適切に組織すること、宿営地を開設して部隊を休息させることや負傷者を病院に収容することなどを含んでおり、以上を実施するために必要な計画立案も意味します(Jomini 1862: 254-256)。

これだけ見ても、兵站=補給と断言することは間違っていることが分かるかと思います。兵站は作戦行動に必要な準備の一切を含むものであり、少なくとも理論の上では補給はあくまでも兵站の一機能を果たすものに過ぎません。

クラウゼヴィッツの『戦争論』においても、兵站に関する分析が展開されていますが、ジョミニとは異なる用語で次のようにその重要性を説明しています。
「軍の給養は、近代の戦争においては往時に比して遥かに重要な事項になった。しかもそれは二件の理由による。第一は、一般に近代の軍は、兵数において中世の軍はもとより古代の軍に比してすら著しく巨大になったということである。(中略)第二の理由は、これよりも遥かに重要でありまた近代に特有のものである、即ち近代の戦争における軍事的行動は、以前に比して遥かに緊密な内的連関を保ち、また戦争の遂行に当たる戦闘力は不断に戦闘の準備を整えているということである」(クラウゼヴィッツ、1968:中216)
クラウゼヴィッツは軍事力を基礎付けている兵站の重要性について特別な注意を払っており、『戦争論』では物資の調達や輸送の問題について興味深い記述が多数見られます。
例えば、遠征における物資の調達に当たっては、現地の自治体を通じた徴発、進駐する部隊による徴発、後方に設置した倉庫からの調達などの方法について検討されており、いずれの方法が優れているかが評価されています(詳細は過去の記事「クラウゼヴィッツの兵站学」を参照)。

このように軍事学における兵站という概念には多くの含意があるのですが、20世紀に入るとその複雑さはさらに増すことになります。
特に第一次世界大戦を経験してからは兵站学という研究課題が複雑化し、専門的な調査研究の必要が強く認識されるようになりました。冷戦期においても国家兵站の概念が出されて軍事兵站以外の問題も検討されるようになるなどの進展が見られます。

兵站の問題は広く簡単に論じ切れるものではありません。現代の国家安全保障を考えるためには、兵站=補給という考え方を捨て、より幅広い観点から兵站を捉える視野の広さが求められていると思います。

KT

参考文献
Jomini, H. 1854. Summary of the Art of War, or A New Analytical Compend of the Principal Combinations of Strategy, of Grand Tactics and of Military Policy, New York: Putnam.
クラウゼヴィッツ『戦争論』篠田英雄訳、全3巻、岩波書店、1968年

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