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2015年6月13日土曜日

いかに陸軍の戦闘陣形は拡大してきたか


戦闘陣形(battle formation)は作戦地域において部隊の配置、展開を規定するものであり、戦術的な分類としては縦陣や横陣、斜行陣などの種類があります。
しかし、今回は戦術上の戦闘陣形ではなく、戦略単位となる部隊、つまり師団以上の規模の部隊が採用する陣形について考えてみたいと思います。

古代から現代にわたる戦闘陣形で最も顕著な変化は、時代が下るにつれて兵士の密度が低下する傾向です。

先行研究によれば、古代の陸軍で100,000名の兵士が戦場に展開する場合、その正面はおよそ6.67キロメートル、縦深は0.15キロメートルほどでした(Dupuy 1985: 28)。
このような戦闘陣形が採用されていた理由としては、古代から中世にかけての部隊行動では白兵戦闘能力が重要視されていたことが挙げられます。

白兵戦闘では交戦距離が1メートル以下となりますので、兵士各人の側面や背後を相互に掩護するためには部隊を密集隊形にまとめておく必要がありました。さらに加えると、部隊の指揮官が部下の状態を掌握する上で、兵士たちをまとめておくことのほうが望ましいという理由も挙げられます。

しかし、火器の導入によってこうした戦闘陣形には問題が出てきます。

兵士たちが部隊として密集していると野戦砲やマスケットで射撃を受けた場合に損害を受けやすく、例えば野戦砲が部隊に対して一発の命中弾を送り込むと縦に並ぶ兵士たちが一度に吹き飛ばされるという脆弱性が認められました。
こうした理由から、ナポレオン戦争の時代には100,000名程度の部隊が展開した正面は2.5キロメートル、縦深は8キロメートルにも拡大していきます(Ibid.)。
これだけの空間に部隊が展開すると、25.75平方キロメートルが占有される計算となります。

さらに第一次世界大戦の時代に移ると100,000名の展開する空間の広さはさらに拡大しました
正面は20,83キロメートル、縦深は12キロメートルに達しました。これらの数値から計算すると、部隊が占有する面積は247.5平方キロメートルにも及びます。
この時期に導入された機関銃、戦車、航空機、化学武器などに対処するためには、部隊を戦場に分散させることが必須の条件となっていました。
現代の私たちがイメージする陸上作戦の原型はこの時期に出現していたと考えられます。

しかし、より厳密に言えば現代的な陸軍の戦闘陣形が形成されたのは第二次世界大戦以降のことでした。
第二次世界大戦で100,000名の部隊が占有した空間を見てみると、およそ正面50キロメートル、縦深60キロメートルであり、3,100平方キロメートルに兵士たちが展開するようになっています(Ibid.)。
これを第一次世界大戦の戦闘陣形と比較すると、部隊が占有する空間の広さは10倍以上にまでになりました。

このような戦闘陣形の変化を理解するために、以前の記事で紹介した理論致死指数の知識を使ってみましょう。
理論致死指数は1時間以内に殺傷可能な武器の能力を表す指数です。この指数は100,000名の部隊が占有する面積が1平方キロメートルであることを想定するものです。そこで次の関係式が成り立ちます。
武器の理論致死指数/100,000名の部隊の展開面積(平方キロメートル単位)=武器の運用致死指数
この計算を行うと、同一の武器を使っても時代によって戦場で発揮可能な威力が変化するということを説明することが可能になります。

ここでAK47を持った兵士が古代ギリシアの時代、ナポレオン戦争の時代、第一次世界大戦、そして第二次世界大戦でどれだけの敵を殺傷することが可能だったのかを仮想的に考えてみます。

武器の性能諸元の詳細についてはいろいろなデータがありますが、ここでは射撃速度1200発/毎時、威力範囲1名、殺傷性0.8、初速730メートル/毎秒、口径7.62、正確性0.8、信頼性0.8で計算します。

まず古代ギリシアの陸軍に対して使用される場合、100,000名の部隊が展開する面積はおよそ1平方キロメートルですので、理論致死指数866/1=866と求められます。つまり、古代の戦闘において1時間にAK47で殺傷可能な敵の人数は866名ということになります。
これはAK47を装備する歩兵が100名いれば、古代の地上部隊86,600名の兵士を1時間以内に戦闘不能に追い込むことが技術的に可能であることを意味します。

ナポレオン戦争の時代に使用されると、100,000名の部隊が展開する面積は20平方キロメートルであるため、866/20=43となります。戦闘陣形の変化だけで同一の武器でも戦場での威力が低下する関係が分かります。
第一次世界大戦になるとこの関係はさらに顕著に確認されます。100,000名の部隊の展開面積は250平方キロメートルであり、AK47の運用致死指数は866/250=3.4でしかありません。しかも、第二次世界大戦で考えると866/3000=0.2と計算することができます。

以上から、戦場における小銃の実質的な威力が戦闘陣形の発達によって大きく変化することが分かるのではないでしょうか。

時代によって陸軍の戦闘陣形が拡大することにはさまざまな理由があるのですが、火力の増大に対処することは重要な理由の一つであり、兵士たちを広く分散させるほど、敵の武器によって受ける損害を低下させやすくなるのです。

KT

参考文献
Dupuy, Trevor N. 1985. Numbers, Predictions and War, Fairfax: HERO Books.

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