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2015年5月5日火曜日

文献紹介 太平洋軍の思惑と日本の戦略

フィリピン中部ビサヤ諸島のレイテ島の北西にあるオルマック湾。
フィリピンの基地は西太平洋、東アジア各地に米軍が部隊を展開する上で戦略的に重要である。
世界各地に駐留する米軍ですが、その中でも特に太平洋軍(U.S. Pacific Command)は日本の安全保障と最も緊密な関係を持つ統合軍です。
今回は、太平洋軍の戦略についての研究成果を紹介したいと思います。

文献情報
David J. Berteau, and Michael J. Green. 2012. U.S. Force Posture Strategy in the Asia Pacific Region: An Inependent Assessment, Washington, D.C.: Center for Strategic in International Studies.

近年、米国の貿易の60%はアジア諸国を相手としていますが、この地域では軍事力の増強がきわめて活発であり、特に中国、ヴェトナム、中国、韓国、インドなどが軍事支出を増加させています(Berteau and Green 2012: 13)。

特に中国の軍事力を見てみると、中国の周辺地域に米軍が進攻することを阻止する対抗接近/地域拒否の能力を構築しつつあることが指摘されており、具体的には東シナ海、フィリピン海、南シナ海に次の地図のような防衛線が準備されています。これが完成すれば、米国はアジアにおける影響力を大幅に低下させる可能性が研究者によって示唆されています(Ibid.)。

東アジア地域の戦略情勢の概観。
東シナ海と南シナ海からフィリピン海に向かって中国が防衛圏を構成する脅威が示されている。
東アジア地域で紛争が生じている地域は朝鮮半島、台湾海峡、南シナ海、中印国境、印パ国境と分布。
中国の軍事的台頭によってこれら紛争地域の状況が大きく変化する危険が考えられる。
(Berteau and Green 2012: 14)より引用。
中国が強固で安定した防衛圏を構成するには、東シナ海と南シナ海での海上優勢を確保するだけでなく、フィリピンと日本の領土・領海を通過するチョークポイントを確保しなければなりません。

つまり米国の太平洋軍の戦略上の目標は、これらチョークポイントを中国に支配されないように、確保し続けることであるということになります。
この研究では、太平洋軍の任務として以下の事項が列挙されています。

・米国の同盟国がその権益を保全することを助け、危険が拡大することを抑制すること。
・同盟国との一体性を強調することによって、北朝鮮の侵略や中国の強制を防止すること。
・過激派が勢力を拡大し、また近隣諸国から攻撃対象となることがないように、脆弱な国家の自助能力を向上させること。
・中国に対して安全保障協力や信頼醸成を通じて安全を保証すること(Ibid.: 17)。

太平洋軍はこれら任務を達成するために十分な能力を持つと考えられていますが、それは同盟国の接受国支援に依存していることも指摘されています。
例えば日本に駐留する米軍、特に沖縄に駐留している部隊は、中国が計画する防衛圏を打破する上で高い価値を持っていることが指摘されています(Ibid.: 18)。

その他にもシンガポール、ヴェトナム、フィリピンと締結している防衛協力や軍事通行に関する協定、さらにインドとの防衛協力を強化する必要が考えられており、中国の太平洋方面における軍事戦略の実行可能性を大きく低下させる効果が期待されています(Ibid.)。

太平洋軍の脅威について考えると、中国の弾道ミサイルによって在日、在韓米軍基地が脆弱になる危険が考えられます(Ibid.: 20)。
さらに、中国は軍事的手段のみならず、外交的、経済的手段を駆使することで、オーストラリアや日本のように太平洋軍の機能にとって不可欠な同盟国の協力を妨害する危険があるとも指摘されています(Ibid.)。

それに加えて、世界規模で見た場合の米軍の態勢が二つの大規模な作戦を同時に遂行する能力を維持することができなくなっている事情も考慮しなければなりません。
つまり、中東と太平洋の二つの正面で同時期に軍事的脅威が顕在化してしまうと、太平洋軍は計画した戦略を実施することができなくなる危険があります(Ibid.)。

この課題に対処するには太平洋軍がグアム、ハワイ、米本土西岸から軍需品を効率的に輸送する能力を持たなければなりません。
同盟国の間の結束を向上させ、一体的な連合作戦を実施すべきとされています。この研究論文によれば、日本と韓国、米国が一体化した連合作戦を実施すべきことが主張されています(Ibid.: 21)。

さらに、太平洋軍は人民解放軍の意図を把握し、かつ米国の方針を伝達するための外交的役割を果たすことも要求されており、軍事部門の対話、危機管理、透明性の攻城、海上、サイバー、外宇宙における事故防止が具体的な協力分野として挙げられています(Ibid.: 22)。

最後に、この研究はあくまでも東アジアにおける米国の戦略を考察したものである点に注意しなければなりません。この研究では日本の立場はほとんど考慮されていません。
東アジア地域でNATOのような多国間協調の枠組みを構築することが太平洋軍にとって必要だとしても、だからといって日本がそれに同調すべきとは限らないのです。

米国の戦略を深く研究することで、日本が米国とどの分野で協力し、どの分野で独自に行動すべきか決定することが重要ではないでしょうか。

KT

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