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2015年5月2日土曜日

斉射モデルによる海上戦力の分析法


今回は、海上戦闘の結果を予測する方法について紹介したいと思います。

ある二つの艦隊が交戦した場合に、どちらにどの程度の損害が発生するのかを予測または説明するためには、少なくとも二種類のデータが必要となります。

一つは攻撃力に関するデータであり、具体的には艦対艦ミサイルをどれだけ搭載しているかによって判断することができます。もう一つが防御力に関するデータであり、これは艦隊防空能力にかかわるCIWSや艦対空ミサイルなどから判断することができます。

ここではあくまでも仮想の状況として、インド海軍の空母1隻(航空隊なし)を沈めるためにインド海軍の駆逐艦がどれだけ必要かを考えてみましょう(データはすべてMilitary Balance 2014を参照)。

インド海軍の空母Viraatの防御力を支えているのは8連装のBarak-1というイスラエル製の艦対空ミサイル2基です。16発の艦対空ミサイルがすべて有効であり、かつViraatを沈めるには1発の命中が必要であると想定すると、この空母に損害を与えるためには最低でも17発以上のミサイルを投射しなければならないと考えられます。

インド海軍の駆逐艦Delhiに着目してその攻撃能力を見ると、4連装の3M24という艦対艦ミサイルが4基搭載されており、1隻のDelhiで16発を発射することができるため、1隻だけではViraatに損害を与えることができないものと推定されます。したがって、Viraatと交戦するに当たり、Delhiを最低でも2隻で攻撃するべきであるという結論になります。

この議論を単純化すると、駆逐戦隊の攻撃力>空母の防御力=2(16)>1(16)ということになります。

ただし、このような推論はあくまでも理論上の話に過ぎないことに注意して下さい。これは大雑把な分析法にすぎず、研究ではより多くの変数が使われているのが普通です。

例えば、空母は通常であれば航空優勢と情報優勢を発揮することが可能ですので、先制して攻撃を仕掛ける可能性も考慮しなければなりません。
また空母に搭載されているCIWSの防御能力を考慮すれば、駆逐艦はより多くのミサイルを使用しなければなりませんので、本来であれば先ほどの見積は駆逐艦にとってかなり有利なものとなっています。

さらに言えば、そもそも、すべてのミサイルが命中して本来の威力を発揮するという保証はどこにもありません。これは部隊の練度によって大きく左右されうる要因であり、実質的な戦闘力の推定に当たってはこのような側面も考慮しなければなりません。

いずれにせよ、この分析法によって海上戦力を比較をする際に注意すべき点について理解を深めることができることは確かです。
この分析法は戦術学、特に海上戦闘の理論においてHughesの斉射モデル(Salvo Model)として研究されているものです(Hughes 1986)。
最近では情報優勢や機動能力、耐久性、指揮統制、航空優勢などの要因を加えた派生のモデルも研究されており、また別の機会にその成果は紹介していきたいと思います。

中国の海洋進出の脅威を考える上で、こうした分析法を理解しておけば、より建設的に情勢見積を実施することができると思います。

KT

参考文献
Hughes, W. P., Jr. 1986. Fleet Tactics: Theory and Practices, Naval Institute Press.

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