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2015年5月16日土曜日

文献紹介 重たい部隊は強く、軽い部隊は弱い


戦争が勃発して直ちに地上部隊を遠隔地に展開する能力を持っていれば、それは間違いなく戦略的な優位を国家にもたらします。
在外基地を建設し、そこに部隊を駐留させる経費は大いに節約されることでしょう。
しかし、そのような試みが本当に実行可能かどうかは、兵站の実態と照らし合わせて慎重に考える必要があります。

今回は、特に長距離の部隊移動に関する陸上戦力の輸送手段を考察した研究を紹介したいと思います。

文献情報
Eugene C. Gritton, Paul K. Davis, Randall Steeb, and John Matsumura. 2000. Ground Forces for a Rapidly Employable Joint Task Force: First-Week Capabilities for Short-Warning Conflicts, Santa Monica: RAND.

この研究が発表された背景として、2000年初頭における陸上戦力の戦略機動に関する議論が関係していました。
当時、航空輸送能力の発達によって陸軍の移動はこれまで以上に迅速になったため、それほど前線付近に部隊を配置しなくてもよいではないかという議論がありました。
しかし、この研究は航空輸送の限界を指摘し、そのような主張に根拠がないことを明らかにしたのです。

この研究の焦点は、作戦を開始する日から7日以内に陸上戦力を即応展開するための輸送手段の評価にあります。
そもそも、兵站の観点から考えれば、輸送する部隊の規模が大きくなるほど輸送力は不足しがちとなるので、即応展開の部隊の装備や物資は小規模なものでなければなりません。

そのことを表しているのが次の図です。
米軍の部隊が戦地に展開するまでに何週間を要するかを概観したグラフ。
左から海兵遠征部隊は0.5週未満、第82空挺旅団は1週未満と見積もられている。
また海兵遠征旅団、陸軍機械化旅団の所要時間は1.5週であり、重武装の陸軍師団は4週間となる。
なお、棒グラフの黒色部分は変動する可能性が大きい幅を示している。
(Gritten, et al. 2000. p. 13)より引用。
この図表を読んでみても、正規の装備を備えた戦闘部隊が戦地に展開するためには、一定の時間を必要とすることが分かります。
即応展開した海兵遠征隊(MEU)が戦闘地域に投入されている時期、海兵遠征旅団(Marine Expeditionary Brigade)は動員の準備をようやく半分か3分の1を終えた時期であり、陸軍の主力が到着するにはさらに8倍の時間を必要とするためです。

著者はさらに既存の各種輸送手段の実態を検討した上で次のような結論を引き出しました。

第一に、即応展開が可能な軽武装な地上部隊は、実戦での戦闘力が不足することが予測されるため、必ず機械化部隊と組み合わせて使用する必要があります。さもなければ、先遣隊としての任務を遂行することもできないでしょう。

第二に、機械化部隊は重量物の装備を伴うため、そのような部隊の輸送手段として航空輸送は役に立ちません。航空輸送はあくまでも旅団規模の軽歩兵部隊を輸送するために使用するべきであるというのが著者たちの主張です。

第三に、一見すると海上輸送の巡航速度が大幅に向上し、即応展開の実効性を保証する上で重要な輸送手段であるように見えます。しかし、荷役、給油、管理などに必要な時間を考慮すれば、やはり即応展開には問題があると考えられます。

以上から、輸送手段の発達によって兵站支援はますます容易になり、即応展開能力の飛躍的な向上につながる、と安易に考えてはならないことが分かります。
航空輸送のような手段で輸送可能な部隊は、少なくとも兵站家の観点から見れば大した部隊ではないのです。
つまり、どこの基地に、どれだけの部隊を配備しておくべきなのかという古くからの問題は、今なお重要性を失っていないと言えます。

KT

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