最近人気の記事

2015年3月28日土曜日

論文紹介 強大な戦闘力は戦略的機動性を低下させる


戦略学の問題の一つに、部隊の戦闘力を強化しようとすると、戦略上の機動で支障を来し、反対に戦略上の機動力を向上させようとすると戦闘で発揮可能な能力が低下するというトレードオフの問題があります。

今回は、戦略学の観点から、火力と機動という相反する能力を陸上戦力としてどのように均衡させるかを検討した論文を紹介したいと思います。

文献情報
Adams, John A. 1988. "Balancing Strategic Mobility and Tactical Capability," Military Review, 68(8): 9-23.

著者はさまざまな状況に対応するためには、軍事力を四つの観点から考察することが重要であると論じています。すなわち、敵との相対的な火力、戦場における機動、部隊としての持続力、そして戦略上の機動能力の四つです(Adams 1988: 10)。
「中央ヨーロッパにおける衝突は、目まぐるしい乱戦になることだろう。戦術的な機動力を持たないため、徒歩の歩兵はすぐに撃滅されることだろう。軽武装の大隊であっても築城工事によって、機甲部隊の強襲を受けても拠点を維持することができるかもしれない。しかし、より大規模な部隊が第二の大隊の陣地に到達する前に、恐らくは策略によって孤立に追い込まれることになるだろう」(Ibid.: 12)
著者はWPの機甲部隊による浸透を受けた場合、NATOの前方防衛線はほとんど持ちこたえることはできないであろうと予想しています。

著者の見解は歩兵部隊の価値を一概に否定するものではなく、現代の戦場において歩兵は十分に機械化された装備により戦術的な機動力を発揮することが必須であるという立場です。
しかし、これは歩兵部隊として運搬すべき車両、装備の増大を引き起こすため、戦略的な機動力の低下を引き起こすことは避けられません。

著者の見積りによれば、機械化されていない歩兵部隊は戦闘開始から約10日から30日の間に極めて危険な状態に置かれ、恐らくは壊滅的被害を強いられることが示唆されています(Ibid.)。
さらに、戦闘開始から20日以内に展開可能な部隊の規模は必然的に限られたものになります。

1979年の議会予算局の見積によれば、最も即応性の高い米軍の第82空挺師団または第101空挺師団であっても、中東地域に展開するためには13日の時間が必要であるとされています(Ibid.: 13)。
したがって、より戦闘力が高く、運搬すべき装備や物資が重量かつ膨大な機甲師団を前線へと展開するためには、さらに時間を要することが考えられます。
「重武装の師団が激しい戦闘を行えば、一日に5,000トンの弾薬と2,700トンの燃料が消費されることになる。初日以降の所要に対応するためには、部隊を動かす上で十分な弾薬と燃料が、現役の戦力組成において保持されていなければならない。(もしくは予備から直ちに利用することができなければならない)」(Ibid.: 19)
最後に著者は民間の商船や航空機を活用しなければ、高度な戦術的能力を持っている部隊も適切な時期に前線に展開することができないことを強調しており、軍事予算の配分で即応性の高い輸送手段を準備することが重要だと述べています。

まとめますと、この論文では旅団や師団、軍団などの戦略単位となる部隊の戦略を図上で研究する場合、その部隊の重量というものを考慮に入れることが重要であることが示唆されています。
現在の日本の防衛計画では、統合機動防衛力構想の下で部隊の機動力を向上させる必要が強調されがちですが、即応性を追求するほどその部隊の戦術的能力は全般として低下することが予想されます。

ただし、著者は民間の輸送手段を防衛体制に組み合わせることによって、そのような限界を克服することは不可能ではないと指摘しています。

KT

0 件のコメント:

コメントを投稿