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2015年3月2日月曜日

文献紹介 征服によって利益は得られるのか


国際関係論では外国を征服することが国民に利益をもたらすかどうかが一つの論点となっています。
一般に武力で外国を征服しても軍事支出が膨らみ、治安維持が難しいため利益を上げることは難しいと考えられがちですが、歴史上の事例では征服で利益を上げることは不可能ではないことが示されています。

今回は、経済的な利益という観点から征服という対外政策について考察した国際関係論の論文を紹介したいと思います。

文献情報
Liberman, Peter. 1993. "The Spoils of Conquest," International Security, 18(2): 125-153.

1.論争
2.自由主義者の議論
3.現実主義者の議論
4.結論

武力によって外国を征服することが利益となる、という見解にはトゥキディデスによるアテナイ帝国の分析にまでさかのぼることができるほど古い歴史があり、近代の国際関係の分析においても見出すことができます。
しかし、国際関係論の研究では二つの理論から他国に対する戦争がもたらす利益について異なる見積が示されてきました。

第一に自由主義の理論では一般的には戦争が利益をもたらすことが困難という判断が示されています。

その理由としてしばしば挙げられるものに民族主義的な抵抗運動の危険があります。
つまり、外国軍の支配を受けた住民は、民族意識を高揚させて占領に対する軍事的、非軍事的手段による抵抗運動を推進する危険が生じます。特に20世紀以降に民族主義運動が世界的に普及してからはほとんど征服が成功する見込みがなくなったと考えられています(Ibid.: 133-134)。

また、征服した地域を政治的に支配するための費用の問題、経済的な抵抗が余剰生産物を削減し、外国との貿易を難しくすることも理由として挙げられています。

第二に、現実主義の理論から考えると、近代の国際関係においても征服は利益を上げることが可能であったことを指摘しており、戦争が国家にとって利益をもたらしうると見積っています。

この主張の根拠としては、第一に近代化による余剰生産物を増大させることが可能であるため、第二に征服した地域の住民の抵抗を困難にするために政治権力を近代化の過程で中央に集中させることができるため、第三に近代化によって住民が獲得する利益は、抵抗によって期待される利益よりも総体的に大きくなるため、という三つが考えられています(Ibid.: 137-138)。

厳密には現実主義者が必ず征服が利益をもたらすと考えているわけではないのですが、この見解で興味深い主張は、現実主義者は征服した地域を近代化させることによって、征服された住民を懐柔することが可能である、と考えているところでしょう。

以上の現実主義者と自由主義者の議論で争われているのは、近代の国際関係において(つまり近代化された経済システムを前提とした場合に)実施される征服がもたらす利益の水準が費用を上回るか、それとも下回るかという点です。

ソ連が東ドイツを占領した事例を見てみると、ソ連軍は400,000名の兵士を東ドイツに駐留させていました。この数値は西側からの攻撃を受ける危険も考慮した上でのことですので、純粋な占領目的の場合よりも規模は大きいと考えられます。
1947年から1953年にかけてソ連は東ドイツから年間で60億マルクの賠償金を受け取っており、著者の計算ではこれはソ連軍を駐留させる費用の4倍近い金額であったことが述べられています(Ibid.: 138-139)。この事例は自由主義者の主張と反するものです。
二次大戦でドイツに占領された各国の近代化の水準と戦時経済に対する貢献。
ノルウェー、ベルギー、オランダ、フランス、ギリシア、ポーランド、セルビアの順でデータが整理されている。
左側の数値が一人あたりのGNPの水準(ドイツのそれが100の場合)、
右側の数値が一人あたりのドイツ戦時経済への負担を表す。
(Liberman 1993: 141)より引用。
また、近代的な経済システムが発達した国家を占領した場合として第二次世界大戦にドイツが占領した事例を検討すると、やはり自由主義の予想とは反する事実が見出されます。

ドイツはノルウェー、ベルギー、オランダ、フランスなど近代化された経済を動員することに成功しており、例えばノルウェーでは一人あたり平均して447マルク、ベルギーからは306マルク、オランダからは360マルク、フランスからは228マルクを戦時経済のために負担させることができていました(Ibid.: 141)。

征服の利益と不利益は複雑な事象ですので、ここで挙げた数値だけで判断することは難しいのですが、著者は征服によって利益を上げることが不可能であると言い切ることはできない、という立場から次のような結論を導いています。
「もちろん、抑圧に関する幅広い評価研究はいかなるものであれ他の諸要因を考察しなければならない。経済的利益を得ることだけが征服のやっかいな結果である、というわけではない。(中略)他方において、自由主義者の征服についての見解は抑圧に対するただひとつの議論ではなく、また最も有力な議論というわけでもないのである」(Ibid.: 151)
最後に、著者は占領軍に対する抵抗運動というものが、いかに無力であるか、ということについて述べています。
占領軍に対する抵抗運動に参加する危険や費用というものは、ほとんど常に期待される利益を上回る傾向にあると考えられています(Ibid.: 152)。
占領軍の駐留によって獲得される利益を相殺するほどの大規模な抵抗運動を組織することができる状況は例外的なものでしかなく、ほとんどの事例では占領を受ける住民は、占領軍の指導に従って生活するしか選択肢は残されていません。

ただし、このような研究に対して、現代の国際関係では貿易を通じて国際分業が進んでいるため、他国の領土を取得してもそこから経済的利益を得るには限界があり、また戦争によって貿易相手国が減少することでかえって経済的損失が大きくなるという見積もあります。

結局、こうした問題は究極的には個別の国家の状況によるところが大きいため、一般化は困難なのですが、現代の国際関係において領土を獲得するための戦争がどれだけの経済的な利益をもたらすのかという論点は非常に興味深いものだと思います。

KT

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