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2015年1月23日金曜日

軍隊と基本教練


基本教練という言葉があります。
これは「気を付け」、「休め」などの指揮官の号令によって、兵士が姿勢を変える仕方を規則的に定義したものを言います。

もちろん、基本教練は見栄えのためだけに行われているのではありません。
その基本的な目的は、個人と部隊を訓練して諸制式に習熟させることがあり、また部隊としての規律、団結を強化して作戦行動の基礎を作ることも目指されています。

古代ローマの著述家ウェゲティウスの著作でもさまざまな基本教練について解説されており、実際の戦闘でも部隊を特定の隊形に展開する際に用いられていました。
現代においても基本教練は新兵訓練の最初に教え込まれる事項であることに変わりはありません。

簡単に基本教練の初歩的な事項について触れておくと、特に徒歩教練(Foot Drill)には各個教練(Individual Training)と部隊教練の二つがあります。

各個教練は今でも体育の授業でも教えられるもので、例えば「気を付け(Attention)」の号令で両かかとをつけてつま先を45度に開き、胸を張って両肩を引き、両手を体の側面に密着させる不動の姿勢は各個教練の基本です。
不動の姿勢。全ての各個教練の基本となる重要な姿勢。
踵をつけて胸を張り、両手を握りこんで体側に密着させる。
(FM3-21.5: 4-2)より引用。
不動の姿勢の他にも休めの姿勢、敬礼、方向転換(右向け、右。回れ右、など)、行進(前へ、進め。分隊、止まれ。など)、銃を持っている時の動作(ひかえ、銃。になえ、銃。など)などがあります。

部隊教練とは、各個教練に基づいて隊員を特定の方向、位置、間隔で集合させ、行動させる教練で、厳密には分隊教練(Squad Drill)、小隊教練(Platoon Drill)、中隊教練(Company Drill)、大隊または旅団教練(Battalion Drill, Brigade Drill)があります。

例えば、分隊員を1列の縦隊に集合させる場合、指揮官は「縦隊、集まれ」と号令をかけます。
分隊員の中でも基準となる者は、その指揮官の前方6歩の場所に移動し、その後ろに1メートル間隔で他の者も整列します。これが部隊教練です。
分隊教練についての解説図。
上が1列横隊、右下が1列縦隊、左下は2列縦隊を示す。
縦隊の場合は先頭が、横隊の場合は最右翼が、そして2列縦隊の場合は先頭の最右翼に位置する分隊員が基準。
(FM3-21.5: 6-2)より引用。
昔の体育の授業で、「前へ、ならえ」、「直れ」という号令をかけますが、これも分隊教練の一種ということになります。

分隊教練をさらに発展させた小隊教練では分隊が基本とされています。
ここでは小銃小隊を前提とした小隊教練について考えてみたいと思います。
小隊教練の解説図。
上の図は4個分隊の場合、下の図は3個分隊の場合を示している。
また右の隊形は縦隊、左の隊形は横隊を示している。
指揮官(十字が附属した黒丸)と小隊の間隔などが定められていることが分かる。
(FM3-21.5: 72)より引用。
小隊教練における号令は分隊教練と共通するものが少なくありませんが、例えば4列縦隊の小隊に対して、「右から2列縦隊作れ、進め」とかける号令のように、小隊教練に特徴的な号令もあります。

指揮官がこの号令をかけると、小隊の右から2列の分隊は前進しますが、左側の2列の分隊は足踏みのみ行います。そして、右列を進む分隊長の号令に応じて残った2列は先行する2列に続行します。
こうすると、4列縦隊は2列縦隊に隊形を移行しながら前進することが可能となるわけです。

読者の中には、こうした部隊教練など戦場でほとんど意味をなさない、と思われる方もいるかもしれません。

しかし、少なくとも近世までの陸上戦闘では、こうした基本教練に基づいて戦闘が展開されてきたことを考慮しなければなりません。特に白兵戦闘では部隊の隊形を保持しながら、敵の隊形を切り崩すことが極めて重要なことでありました。

また、冒頭でも述べたように、基本教練は兵士各自の規律心と団結心を強化するという心理的効果が大きいことも重要です。
戦場では兵士たちは勝手に部隊を離れて逃走したい、という願望に耐えなければなりません。
基本教練に習熟するということは、各個人の願望を抑制し、指揮官の命令によく反応し、部隊の一員として自覚を持って行動することができることを意味します。

その意味において、基本教練はあらゆる部隊行動を基礎付ける技能であり、軍隊という組織の根底を支える意義があると考えることもできるのではないかと私は考えています。

KT

参考文献
Davis, Richard B. 2013. "Drill and Ceremony," G. Kurt Piehler, ed. Encyclopedia of Military Science, Los Angels: SAGE Reference, Vol. 2, pp. 495-498.
Steuben, F. W. B. von. 1985. Baron von Steuben's Revolutionary War Drill Manual: A Facsimile Reprint o the 1794 Edition, New York: Dover.
Headquarters of the U.S. Department of the Army. 2003. Field Manual 3-21.5: Drill and Ceremonies, Washington, DC: U.S. Department of the Army.

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