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2014年9月8日月曜日

演習問題 地形判断を応用した敵情判断


今回は、第一次世界大戦の事例に基づいた戦術学の演習問題を紹介したいと思います。状況はそのまま利用していますが、問題の内容や答案は私が改めて作成しました。

1918年8月3日、アメリカ軍の第4師団の任務は退却中のドイツ軍を追撃することでした。
第4師団隷下の第7旅団第39歩兵連隊はその前衛として追撃を行っていたのですが、ドイツ軍の砲撃による激しい抵抗を受け、日中にほとんど前進することができませんでした。

8月4日早朝、第39歩兵連隊はVesle川に向けて前進するためにChery-ChartreuveとSt. Thibautの間の約2000キロの経路を前進しなければなりません。この経路には200メートル程度の幅しかない隘路が1000メートル続いており、これを迂回して前進することが困難です。

次の目標であるSt. Thibautに前進するためにはこの隘路を通過する必要があります。(地図を参照)
XX4は第4師団、X7は第7旅団の作戦地区の意味。
第39歩兵連隊はSt. Thibautまでの経路上にある隘路の南方に展開している。
連隊が前方の敵情を偵察したところ、隘路に敵の存在は確認できていません。
さて、追撃を進める上で敵情をどのように判断するべきでしょうか。以下の選択肢に正しい判断が一つだけ含まれています。

1.敵はChery Charteuve-St. Thibaut間の隘路の出口で前進を阻止する。
2.敵はこちらの意表をついて反撃するための準備を行っている。
3.敵はSt. Thibautへの侵入に抵抗するための準備を行っている。
4.敵はVelse川以北の地形を活用した遅滞戦闘に出る。

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以下は原案です。

一見すると、この問題は隘路に関する問題のように見えますが、実際には違うというところがポイントです。
作戦地区の地形を分析していくと、隘路のよりもVesle川に架橋された橋梁の重要性のほうが大きいことが分かるためです。

この敵情判断で考えなければならないのは、前日のドイツ軍の作戦です。
退却中のドイツ軍の立場で考えると、遅滞戦闘のためにどこに陣地を築城するべきかを選択しなければなりません。

直観的には隘路の出口に200メートル程度の抵抗線を設けて防御陣地を構築する方針が思いつきますが、実はこの方針を採用すると後退行動の際にVesle川に架橋された橋を部隊が渡るための時間的猶予が必要になります。

しかしながら、St. Thibautの南方にはアメリカ軍が展開するだけの面積があるため、ドイツ軍の主力が背後と側面から捕捉されて攻撃を受ける危険が大きいと判断することができます。

この危険を防ぐ処置として、St. Thibautまでの退却路に防御陣地を何重にも構築する方針も考えられるのですが、状況によるとドイツ軍が戦闘の準備に与えられた時間は8月3日日没から8月4日早朝まででしたので、それだけの規模の築城工事を完了させることは極めて困難です。

したがって、ドイツ軍が確実に退却するには、予め部隊をVesle川以北まで下げる作戦案が適当だと判断できます。以上の判断から原案は4となります。

1.誤り。偵察の結果と立てられた判断が矛盾しており、また隘路の出口に陣地を設定した場合にはドイツ軍は事後の後退行動のための動作に困難が生じるため。

2.誤り。ドイツ軍は退却の途中であるため、攻撃に転じるとしても、隘路が前方にある場合に攻撃しても戦力を発揮する十分な地積が望めず、双方ともに消耗戦になる見込みが大きい。しかも、隘路で戦闘を開始すれば、戦闘から離脱することは容易ではないことから、不適当である。

3.誤り。St. Thibautに立てこもって防御する案は、ドイツ軍が退却中であり、後から増援が来る見込みがない以上、適当ではない。アメリカ軍に対して損害を強いることはできるが、部隊が離脱する時期を失えば、ドイツ軍も壊滅的な損害を被る危険がある。

4.正しい。後退の任務を第一と考える場合、隘路を前方にして河川を背後に遅滞戦闘を行うよりも、河川を前方にした方がドイツ軍の危険を最小限にし、かつアメリカ軍にも損害を与えることが可能であるため。

最後に史実を見ると、当時のドイツ軍が選択した防御陣地はVesle川以北にある高地の中腹でした。(地図上で見切れている高地のことです)ここに砲兵陣地と機関銃陣地を設定することで、Vesle川に近づくアメリカ軍を射撃することが可能でした。

実際にアメリカ軍がVesle川にまで前進すると、直ちにドイツ軍は射撃を開始し、第39歩兵連隊の主力である2個大隊に甚大な被害を与えたことが報告されています。


KT

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