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2014年8月25日月曜日

論文紹介 水陸両用作戦能力における自衛隊の課題


今回は、海上自衛隊の幹部学校における水陸両用作戦に関する調査研究の成果の一部を紹介したいと思います。

中矢潤「我が国に必要な水陸両用作戦能力とその運用上の課題 米軍の水陸両用作戦能力の調査、分析を踏まえて」『海幹校戦略研究』2012年12月(2・2)、82-100頁
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/2-2/2-2-6.pdf
(海上自衛隊幹部学校についてはこちらからどうぞ)

目次構成
はじめに
1.米軍の水陸両用作戦の概念等
2.米軍の水陸両用作戦能力
3.我が国の水陸両用作戦能力
4.水陸両用作戦能力を保持した場合の運用上の課題
おわりに

米軍の水陸両用作戦の教義や戦力を解説している部分も興味深いのですが、この論文で特に興味深いのは日本の水陸両用作戦能力に関する見積が示されている部分です。
防衛白書では「事前に兆候が得られず島嶼を占領された場合は、これを奪回する」方針が示されています。

しかしながら、著者は現在の国際情勢の特性を判断する限り、敵が島嶼を突如として着上陸して占領したとしても、その戦力の規模は小規模であるだろうと予測します。
したがって、この論文で扱う問題は基本的に自衛隊の現状の勢力を大幅に増強しなくても対応可能な範囲に限定しています。

さて、水陸両用作戦のために必要な海上優勢と航空優勢の確保に関しては、自国の領土が作戦地域となるため現状の自衛隊の能力である程度の対応は可能としています。
ただし、課題として陸上自衛隊の上陸部隊を揚陸するための上陸用舟艇が必要であることが示唆されています(中矢: 94)。

というのも、現在の自衛隊の装備では「おおすみ」型輸送艦搭載のエア・クッション揚陸艇を使用することが可能なのですが、これは人員や武器、装備の輸送力、運搬能力において上陸用舟艇に劣っているためです。
米海軍の上陸用舟艇LCU-1610型LCU1627。
独航型とは異なって揚陸艦に艦載されるもの
論文で引用された著者による米軍の第11水陸両用戦隊司令官のインタビュー調査によれば、エア・クッション揚陸艇と上陸用舟艇には次のような異なる特徴があります。
「エア・クッション揚陸艇(LCAC)と上陸用舟艇(LCU)に関し、LCAC は高速であり、LCU と比較し上陸適地が多いものの、LCU と比較し運搬量が少ない。また、LCU は速力が遅く LCAC と比較し上陸適地が制約されるものの、大量の物資が輸送できるのが強みである」
また、著者は海上自衛隊の対地攻撃能力においても課題があることを指摘しており、水陸両用作戦能力の向上のために海自の武器体系に関しても検討を促しています。

著者は水陸両用作戦が少なくとも陸自と海自の統合運用を前提とする以上、その部隊と装備の運用計画に関してどの程度までの調整を要するかも検討しています。

論文によれば、米軍の海兵遠征隊は6か月を一つの期間に区切って訓練計画を実施しています。

つまり、部隊が展開する前の段階における部隊錬成のための訓練期間6か月を米国本土で終えてから、部隊は海外の拠点に展開されて練度を維持するための訓練を6か月受けます。この段階で実戦に投入されることもあります。
これが終わった後に司令部以外の部隊は編成を解除され、再び展開前の訓練の準備や人事異動などが行われることになります(中矢: 95-96)。

しかし、これと同じような訓練計画を自衛隊で導入しようとすると、陸自と海自の訓練計画を非常に詳細に調整する必要が出てきてしまいます。陸自には艦艇を運用する能力はなく、海自だけでは水陸両用作戦の訓練はできません。これこそが、この論文で結論付けられている日本の課題です。

この論文は米軍の水陸両用作戦の概念や施策をまとめた良い研究であり、この方面に関心がある方は一読をお勧めします。

私の所感として、水陸両用作戦能力を向上させるためには、現状の部隊、武器、装備を考えるだけでなく、部隊の練度を支える訓練計画に関してもさまざまな施策が必要になる点がよく論じられていると思いました。

KT

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